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『日本辺境論』をこえて(8)日本史上初めて

2012年04月08日 | いいとこ取り日本
◆内田樹『日本辺境論 (新潮新書)

この本の書評ということで始めたが、これをきっかけにして自分の論を展開する形となり、ずいぶん長くなってしまった。ここでこれまでの論旨を整理しておきたい。私が伝えたかったのは、文明の「保証人」を外部に求めようとする日本人の「辺境人」根性に変化の兆しが見え始めている事実を示して、内田の「辺境論」の前提を批判することだった。ふらふらきょろきょろして外ばかり見ていた世代の「呪縛」から解放された世代の文化が育ち始めている。自分たちの内側に自分たちの根拠を探ろうとする兆しが若い世代への調査からも垣間見れる。

『日本辺境論』をこえて(2)『ニッポン若者論』
『日本辺境論』をこえて(3)『欲しがらない若者たち』

これらの調査は、文明の「保証人」を外部の上位者に求めてしまうという「辺境人」の発想そのものが、失われつつあることを示しているが、データは二つの読み方ができる。若者が離脱しつつあるのは、戦後の価値観なのか、それとも明治以降取り入れ続けた西欧近代の価値観そのものなのか、という二つだ。

もちろん両方の見方ができるだろう。二つの現象が重なっているともいえる。明治以降の日本人の傾向が変化し始めていると見るなら、それは現象をより深い視点からとらえていることになる。そして大切なのは、この変化が千年二千年単位の日本歴史のなかでも重要な変化であるかもしれないということである。

つまり、遣唐使の廃止以降に起こった外来文化の内面化と対比できるようなプロセスが、現代の日本で、しかも若者を先頭にして起こり始めているのではないか。かつて日本は、唐文化の影響が頂点に達した後、今度はその消化、日本化に向かって進んでいった。それと同じようなことが現代の日本で、今度は西欧文明との関係で起こり始めているのではないか。そして、その理由をこれまで3点から説明した。

1)明治以来、西欧文明を学び続けた日本は、多くの分野で「師」に追いつき、いくつかの分野では「師」を超え始めた。しかも「師」が掲げていた近代文明の原理そのものが今問われ始めている。つまり外部に「師」を求め得なくなった。これは日本の歴史の中で初めての経験である。(→『日本辺境論』をこえて(5)「師」を超えてしまったら

2)日本で開発された技術や製品が世界中の人々の生活に大きな影響を与えるようになり、日本人自身がこうした事実をある程度自覚するようになった。これも有史以来、日本人にとって初めての経験である。(→『日本辺境論』をこえて(6)科学技術の発信力

3)マンガ・アニメに代表される日本のポップカルチャーが、近年広範に世界に広がり、世界の若者たちに影響を与えるようになった。日本人はまだその影響力を充分自覚していないが、それでも若い世代は、インターネットなどを通してかなり知るようになった。日本の文化が世界にこれほどの影響力を与えるようになったことも、日本の歴史上初めての経験である。(→『日本辺境論』をこえて(7)ポップカルチャーの発信力

これらの事実が示すのはいずれも、太古の昔から大陸の文明を「師」として学び続けた「辺境」日本という前提が崩れ始めたということである。とくに2)と3)で示されたような事実は、外部から学んだものを日本独自に再生させた技術や文化が世界に向けて発信され始めたということである。これらは比較的よく知られた事実だが、有史以来の日本史の中での位置づけや、日本人の意識に与える影響という観点からはほとんど論じられなかった。上の調査に示されるような若者中心の日本人の意識変化は、これらの事実を多かれ少なかれ反映しているのではないか。

《関連図書》
欲しがらない若者たち(日経プレミアシリーズ)
ニッポン若者論 よさこい、キャバクラ、地元志向 (ちくま文庫)
論集・日本文化〈1〉日本文化の構造 (1972年) (講談社現代新書)
人類を幸せにする国・日本(祥伝社新書218)

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クールジャパンに関連する本02
  (『欲しがらない若者たち(日経プレミアシリーズ)』の短評を掲載している。)
コメント (3)
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