風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

吉本ばなな『アムリタ』 5

2006-08-30 19:15:52 | 



来年の今頃、どこにいるのかも知らされていない。
こんなことを知りながら、よくみんな生きていけるなあ、と思った。
みんなうまくぼかしたりずらしたり、真っ向から立ち向かったり、泣いたり笑ったりうらんだりしてごまかしている。
いつか死んでしまうとかそんなことではなくて、全部を感じすぎてこわれてしまわないように。
そっと、柔らかい記憶のベールにくるまって、金の陽ざしや何千年も立っていた木をただ見上げて。夕日を照りかえしてどこまでも続く山脈や、昔の人々が創った大きな建物の面影にうっとりと身をゆだねて、安心を得る。
明日も、どこかで目覚めようと思う。
きっと、生きていて、どこか幸せなところで新しい気持ちで、必ず寝た時に持っていた自分の魂のままで。夢のなかでその確かな感触とはぐれてしまわないように。
そんなこと、めんどうくさくて死にたいような気もしたし、面白いから続けたいような気もした。
まんがで自分のなかの天使と悪魔がけんかする場面みたいに、その欲望は全く半々で引っ張り合い、私をこの大地の重力に縛りつけるのだ。


(吉本ばなな『
アムリタ』 下p264)

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