風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

トマシュ・リッテル ピアノリサイタル @浜離宮朝日ホール(6月10日)

2023-07-09 16:36:02 | クラシック音楽




たまりにたまった感想を、サクサクすすめたいと思います。サクサク。
今回は第1回ショパン国際ピリオド楽器コンクール優勝者トマシュ・リッテルのリサイタル「ピリオド楽器のショパン」。

【第1部 レクチャー(14:00~14:30)】
「ショパン全書簡」が提示する新しいショパン像
講師:関口時正(東京外国語大学 名誉教授)

【第2部 プレゼンテーション(14:30~15:00)】
「モダン楽器とピリオド楽器によるショパン演奏について」
話・ピアノ:川口 成彦

前半は、レクチャー&プレゼンテーション。
特に川口さんによるスタインウェイと1843年製プレイエルの実演を交えてのお話が、とても面白かったです。
以下、覚書(間違えていたらすみません)。

・エラールは現代のモダンピアノの元といえるピアノ。ショパンは「具合の悪いときにはエラールを弾く。調子のいいときはプレイエルを弾く。自分の音を出せるから」と言っている。エラールはどんなときも出来合いの音が出る。一方プレイエルは扱いが難しいけれど繊細なニュアンスが出て、自分の望んだ音が出せる、という意味。

・ワルシャワで過ごした青年期までのショパンの身近にあったのはウィーン式アクションのフォルテピアノだった。ウィーン式アクションは、ベートーヴェンやシューベルトが弾いていた楽器。エラールもプレイエルもイギリス式アクションだが、ショパンはパリに移住後もプレイエルを「ウィーンのピアノ」と呼び、プレイエルにより親しみを感じていたようだ。

・アクションは古典派の時代まではシングル・エスケープメントだったが、ショパンの時代からダブル・エスケープメントになった。エラールはダブル~という、キーを元の位置まで戻さなくても再度打弦できる発明をした。一方シングル~のプレイエルは、打鍵した鍵盤を元の位置まで上げなければ次の音を鳴らすことができない。プレイエルではラフマニノフなどは弾けない。

・プレイエルを弾くと、指とハンマーの距離が近く感じられ、ショパンの心もすごく近くに感じられる。

・当時はピッチの高さは決まっていなかった。今日のプレイエルは、ショパンが慣れ親しんでいたと思われる434にしてある。同じ曲でもモダンピアノよりも低い434で弾くと華やかな音楽ではなく、陰り、孤独な感じの曲に聴こえる。

・モダンピアノは「母音」の表現が得意で、プレイエルは「子音」の表現が得意だと思う。モダンピアノはダイナミックな音が広い会場の遠くまで届き、プレイエルは音は小さいが繊細なニュアンスが出せる。
※ここでモダンピアノとプレイエルで同じ曲を弾いてくださって、川口さんが仰っていることの意味が実感できました。そして川口さんの音が優しい。もっと聴きたい。

・現代のピアノがつるつるの綺麗な紙なら、プレイエルは雑味もある和紙。汚い音も出る。ショパンは「そういう(汚い)音はここぞという時のためにとっておくように」と弟子に言っている。つまり汚い音を否定していないということ。

・ペダルも、プレイエルはモダンピアノに比べて減衰が早い。音楽教育では響きの濁りは悪いものとされているが、濁りも時には重要。楽譜にはペダルを踏みっぱなしの指示があることがあり、(減衰の遅い)モダンピアノでは濁りすぎてしまうのでペダルを踏み直して弾くのが普通だが、プレイエルでは踏みっぱなしでもその良さのようなものがある。アンドラーシュ・シフはベートーヴェンのソナタで(モダンピアノで?)それをやっている。

・人間というのは複雑で、泣きながら笑ったり、大勢の人に囲まれていても孤独を感じたりする。演劇が好きだったショパンは、言葉を伝えるようにピアノを弾きたいと思っていたと思う。そういう複雑さをプレイエルは表現できる。

(休憩)

【第3部 リサイタル(15:15~17:00)】
*トマシュ・リッテルがピリオド楽器(1843年製プレイエル)で弾くリサイタル

ショパン:ノクターン へ長調 op.15-1
ショパン:ノクターン 変ロ短調 op.9-1
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第30番 ホ長調 op.109
モーツァルト:幻想曲 ハ短調 K.475
ショパン:24の前奏曲 op.28
シューベルト=リスト:影法師(「白鳥の歌」D957から)(アンコール)

ショパン:マズルカ ホ短調 op.41-1(アンコール)


どの曲も悪くなかったけれど、プレイエルというピアノの良さを強く感じたのは、やはりショパンの曲でした。
音の親密さがモダンピアノのそれとは大違いで、サロンの部屋で目の前でショパンが弾いているようだった。
ああショパンの曲ってこんな親密な曲なのだな、と。こんな風にショパンを聴いたのは初めてでした。でも親密なだけではなくて、情熱もちゃんと感じられて。
川口さんが仰っていた「子音の繊細さ」もよくわかった。
ピリオド楽器のショパン、また機会があったら是非聴きたいです。
と思ったら、来年3月に「The Real Chopin × 18世紀オーケストラ」なんていう素敵演奏会が…!これは聴きたい。


川口成彦の「古楽というタイムマシンに乗って」(ontomo)
※フォルテピアノ奏者 川口成彦 特別インタビュー
小倉貴久子と巡るクラシックの旅 vol.2「ショパンの愛したピアノたち」







Recital fortepianowy | Tomasz Ritter
このうち今日のリサイタルで弾かれたのは、次の2曲。
15:11 Fryderyk Chopin - Nokturn F-dur op. 15 nr 1
22:20 Fryderyk Chopin - Nokturn b-moll op. 9 nr 1

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