風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

河合隼雄 『泣き虫ハァちゃん』(2007年)

2020-10-15 19:57:44 | 




私が本当に疲れて 
生きることに疲れきって

空からも木からも人からも 
眼を逸らすとき

あなたが来てくれる 
いつもと同じ何食わぬ顔で

駄洒落をポケットに隠して・・・

(本書巻末に寄せられた詩、谷川俊太郎「来てくれる~河合隼雄さんに~」より抜粋)


河合さんが亡くなるまで連載されていた、最後の本です。
未完であることがとても残念で「続きが読みたかった!」と強く感じてしまう、でも未完であることも含めて人生の大切なことを教えてくれるような。河合さんという人の瑞々しさと温かさがいっぱいに詰まった、かつては子供で今は大人になった人達みんなの”たからもの”のような本。

以前も書いたように私が河合さんの本を読もうと思ったきっかけは谷川俊太郎さんからで、河合隼雄財団の記事によると、谷川さんは河合さんの「数少ない、親しい友人」だったのだそうです。
谷川さんはともかく(失礼!)、河合さんはお友達が多そうなイメージがあったのでちょっと意外だったのだけれど、でも前にも書きましたが、このお二人はよく似ているように感じます。
性格的な飾らなさもそうだけど、根本のところに感じる静けさというのかな。そういうところがよく似ているように思う。
それはユングの言う自己という部分かもしれないし、魂と言われる部分かもしれません。
そういう二人がこの世界で出会えたというのは素晴らしいことだな、と感じました。

この本には心理学の難しい話や専門用語は一切でてきません。
ご自身の幼少期の体験をもとに書かれた大人の童話のような本で、岡田知子さんによる優しい挿絵もこの本にとてもよく合っています。
でも多くの童話がそうであるように、簡単な言葉の中に、人間や人生の大切なものを見つけられるような、そんな本です。
心理学に興味がない方にも、多くの方におすすめしたい本。

しかしこの本が刊行されたのが2007年で、最近までその存在も知らなくて、私がまだ巡り合えていないこういう素敵な本が、世界にはまだまだいっぱい埋もれているのだろうなあ。自分の人生のうちでそのうちのいくつと私は出会えるのだろう、とそんなことを思ってしまった。これまで読んだ私の好みの本を入力すると超高性能AIが私の好きそうな本を見つけ出してリストアップしてくれたりしないかしら、とか、先日身体を動かすことの重要性に気づいたばかりなのにすぐそんなことを考えてしまう怠惰な私でありました。時々アマゾンが「あなたにオススメ!」とか薦めてくる本は、なんか違うのよね…。やっぱり図書館に足を運ぶしかないか。

河合さんは沢山の本を書かれているようなので、またの機会に他の本も読んでみたいと思います


・・・話は河合隼雄との出会いから始まった。
谷川さん、いちばんはじめがいつだったのか、詳しくは忘れてしまったらしい。
けれど、アメリカで勉強して、スイスで勉強して、エライ資格をもった人がくるんだ、ということで
緊張していたら、「村人」のような人がきた、と思ったそうだ。
これは「とうてい街の人ではない」と。

それにしたって、親しみやすさは谷川さんも同じだ。
谷川俊太郎といえば、知らない人はいないのではないか、
谷川俊太郎の詩に触れたことのない人などいないのではないか
というほどの偉大な詩人であるのにもかかわらず、
きっとこの人は誰に対してもフラットなんだろうと思わせる。
谷川さんは河合隼雄を「無私」と評したが、それは、谷川さんだってきっと同じなのだ。

インタビューの中で、谷川さんと河合隼雄が、どこがどうとは言えないけれど、
同じ部分が大きいと、何度もそんな話になった。

(中略)

谷川さんが詩について語ったことばが印象的だった。
詩は、道ばたに生えている雑草のようであればいい
花が咲いたらきれいだと思うでしょう、
そこに美しいことばが存在しているな、
詩は、そういうものであればよいのだ、と。

谷川さんは「詩」、河合隼雄は「物語」の人だ。
しかし、ことばの、にんげんの、こころの美しさを
ただそっと見つめ、その美しさを愛でることに誰よりも長けている二人なのだ、とそう思わされた。

(河合隼雄財団『詩の朗読とインタビュー「谷川俊太郎さんに聞くー河合隼雄との思い出」』より。2015年)



最後のページのこの絵に、ご家族や河合さんと交友のあった方達の全ての想いが込められているように感じられました。

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