風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

追悼文 ~漱石から子規へ

2015-06-11 00:06:32 | 



 水の泡に消えぬものありて逝ける汝と我とを繋ぐ。去れどこの消えぬもの亦年を逐ひ日をかさねて消えんとす。定住は求め難く不壊は尋ぬべからず。汝の心吾を残して消えたる如く、吾の意識も世をすてて消る時来るべし。水の泡のそれの如き、死は独り汝の上のみにあらねば、消えざる汝が記憶のわが心に宿るも、泡粒の吾命ある間のみ。

 淡き水の泡よ、消えて何物を蔵(かくさ)む。汝は嘗て三十六年の泡を育ちぬ。生けるその泡よ、愛ある泡なりき信ある泡なりき憎悪多き泡なりき■しては皮肉なる泡なりき。わが泡若干(いくばく)歳ぞ、死ぬ事を心掛けねばいつ破るると云ふ事を知らず。只破れざる泡の中に汝が影ありて、前世の憂を夢に見るが如き心地す。・・・・・・

(和田茂樹編 『漱石・子規往復書簡集』)

明治36年2月、ロンドンから帰国した漱石は子規の墓まいりをし、この追悼文を起草しました(中絶)。
8年前にここでこの文章をご紹介したときは、どうして漱石は途中で書くのをやめてしまったのだろう・・と思ったのです。
でも今は、このときの漱石の心の状態がなんとなくわかる気がします。

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