風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

吉本ばなな『アムリタ』 2

2006-08-27 23:56:24 | 
そのとき強く思った。
ぐるりと私と取り巻くこの世界の中心、めくるめく景色の中で。
本当に痛いほどに実感した。
ああ、そうだ。いつか私も竜一郎もこの地上からいなくなる。
骨になって、土になって、空気に溶ける。
その気体は地上を丸く覆っていて、つながっている。日本も、中国も、イタリアも、みんな。いつか風に乗ってそこを巡るようになるときが来る。今はこんなに確かにここにある手も足も、消えてなくなる。
みんなが、いつかそうなる。
真由のように、父のように。
今生きている誰もがいずれそれにならっていく。
そのことは、何とすごいことだろう。
何とすばらしいのだろう。今確かにここにいて、今しかない肉体でまわりじゅうの何もかもをいっぺんに感じていることが。

(吉本ばなな『アムリタ』 下p60)
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