風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

美輪明宏ロマンティック音楽会 @ゆうぽうとホール(1月30日)

2015-01-31 18:59:26 | その他観劇、コンサートetc



どんなに新聞雑誌で叩かれたか、世間から白い目で見られたか、そういう戦いが彼の場合は延々とあった。延々とあったけどじゃあなぜ美輪明宏はそれに勝ち抜いたかというと、何も彼の言うことが面白いからとか彼の美貌とかいうことじゃないんですよ。もちろんそれもあるけど、なんたって芸の力ですよ。歌がうまい。誰よりもうまい。まあ、宇宙のミラーボール。ミラーボールっていうとなんかインチキくさいでしょ。このインチキくさいのがまたいいんだなぁ。そこが美輪明宏の美輪明宏たる所以なのよ。
(なかにし礼)


今年も行ってまいりました、美輪さんのロマンティック音楽会。
芸術劇場の方に行きそびれてしまったので、ゆうぽうとホールです。でもやっぱり美輪さんのリサイタルはPARCOのような小さな会場の方がいいなぁ。この会場ではさすがに銀巴里気分は味わえませんでした^^;
私の美意識に徹底的に反するTHE美輪さまオブジェクト(写真のコレ↑)ももちろん健在
しかし銀巴里に通っておられたなかにし礼さんの言葉に、このインチキくさく安っぽい美的センスも味のあるものにも思えてくるからフシギ^_^;
美輪さんって何故か神のようにあがめられている一面があるけれど、とっても人間的なんですよね。私はよく「美輪さんの言うことに100%同感なわけではない」と書きますが、そういう部分も含めて、本当に人間的な魅力に溢れた方だと思う。昨年の紅白のセットは天上世界でしたけれど、実はそこから一番遠いところ、誰よりも地面に近いところにおられる人なのではないかなと生の美輪さんを見る度にいつも思います。そして天国から一番遠くみえるその場所が、実は神様がいる場所に一番近いのではないかな、とも。

さて、上演前には恒例の「咳をされるときはハンカチを口にあてるようお願いします」のアナウンス。「お客様から苦情が出ています」と。苦情はお客からじゃなく美輪さまからよねきっと^^; しかし今回は美輪さんもトークのときに結構咳をされておられましたし、年配のお客さんも多いから仕方のない部分もあると思うの。でも美輪さま、ご体調大丈夫かなぁ。。。昨年も公演中止されてたし。。。歌を歌われているときはまったくご健康そのものでしたが。
ちなみに美輪さまはオペラグラスもお嫌いと聞いたことがあるので、オペラグラスで見たかったけどやめておいたよ・・(11列目だったのでそこそこ見えました)。


【第一部】

美輪さんは透け感のある紫のゆったりしたブラウスに、黒の短髪でご登場。

「皆さまごきげんよう。仲間由紀恵でございます」

第一声から外しません^^
客席に漂い始めるお香の香り(美輪さまからじゃなく、焚いているのです)。
そして音楽会名物?のロングトークのはじまり。
前回は反戦歌やワークソングといった特殊な選曲だったけれど、今年はまた本来のロマンティックに戻しました、とのこと。やっぱり前回は特殊だったのね。でもそういう貴重な曲を生で聴けてよかったです。
全体的にセットリストは前回の方が好きでした(祖国と女達、ふるさとの空の下、メケメケ、ロシアンカフェ、愛する権利、花etcとテンションの上がる曲が多かった)。
今年はどことなく寂しい気持ちになる、別れを感じさせる曲が多かった気がします。美輪さま、健康面とかで色々思うところがあるのだろうか、とか考えてしまった。今年で80歳とは思えない物凄い声量で、背筋もすっと伸びて颯爽とされていらっしゃるので、ついいつまでもいつまでもお元気に違いないと思ってしまうのだけれど。。

第一部は、花子とアンも意識して、明治・大正・昭和と時代を追って歌っていく構成。ドラマの中でこの時代の曲をもう少し流してくれるかと思っていたら意外と流してくれなかったので、今回はその意趣返しで歌ってやろうと決められたそう笑。
「お若い方はご存知ない曲ばかりで途中で帰ってしまうかもしれませんが、帰り道で交通事故にあうかも・・・。ですからここにいらした方がいいですよ」ですって笑

『おぼろ月夜』
「春の歌。初春ではなく、もう少し後の、まだ空気は冷たいけどふっと温かな風が吹いて心が浮き立つような、そんな季節の情景を詩的な美しい言葉で歌った歌です。最近は騒々しくて耳からウンコが入ってくるようなそんな音楽ばかりでしょう。だから殺伐とした事件ばかり起きるんですよ」と^^;
しかしこの曲、改めて歌詞を見ると、本当に美しいのですよね。今声高に宣伝してるどんな言葉よりも、よっぽどクールジャパンだと思うわ。

菜の花畠に、入日薄れ、
見わたす山の端(は)、霞ふかし。
春風そよふく、空を見れば、
夕月かかりて、にほひ淡し。

里わの火影(ほかげ)も、森の色も、
田中の小路をたどる人も、
蛙(かはづ)のなくねも、かねの音も、
さながら霞める 朧月夜。

『惜別の歌』
島崎藤村作詞、藤江英輔作曲。
「恋人と別れるときは、いい別れ方をしましょう。別れ方が下手だとせっかくの幸せだった思い出までめちゃくちゃになってしまって、もったいないですからね。いい別れ方をすれば、後から思い出して、あんなこともあったなぁと生きる力になります。だから、いい別れ方をしてください。・・・いかがですか皆さん、別れたくなってきましたでしょ?笑」
「さよならだけが人生だと寺山修二も言っていましたが、恋人との別れ、友人との別れ、家族との別れ、そして自分自身のこの世との別れと、人生にはたくさんの別れがあります。皆さまもそういうご経験をお持ちだと思います。そういうものを思いながら聴いてください」
さよならだけが人生だと言ったのは井伏鱒二ではなかったか?と思ったけど、そういえば寺山修二はそれに返歌を書いておりましたね。「さよならだけが人生ならば また来る春は何だろう」と。

『ゴンドラの歌』
大正時代の流行歌。女優の松井須磨子さんの話をされた後、「最近は恋をするのが面倒くさいとかきっかけがないとか、恋をしない人達が増えているようです。なんでもいいんですよ。片思いでもなんでも。恋はした方がいいですよ。お肌も綺麗になりますしね。わたくしは何百年も前なので忘れてしまいましたけど。これをきっかけに恋をしてください。頭の中をでいっぱいにして、目からもをいっぱい出して」

いのち短し 恋せよ乙女
黒髪の色 褪せぬ間に
心の炎 消えぬ間に
今日はふたたび 来ぬものを

この曲を美輪さんの色っぽくて温かい声で聴いていると胸がいっぱいに。。本当に、一人一人に語りかけるように歌われるのだもの。いい歌ですねぇ。。泣きそう。。。

『喫茶店の片隅で』
『ラ・ボエーム』
トークは、銀巴里の思い出(記憶に自信がないけど、たしかこの曲のときだったと思います・・・)。
「色んな才能と教養のある人達が沢山集まって、みんな空腹でも頭の中は夢でいっぱいで。私は幸福でした」
美輪さんが仰ると不思議なくらい「年寄りの昔自慢」に聞こえないのよね。その後に「でも今はテニスやスケートやスポーツ界で才能のある方がいっぱい出てこられているでしょう。そういう方達が集まって何かできるといいですね」とも仰っていたけれど、もちろん本心なのだろうけれど、美輪さんには珍しいフォローのようにも聞こえて、もしかしたら美輪さんは寂しいのかな、と。。当時美輪さんの周りにいた多くの方が今は亡くなられていますものね。
「もうあの時代は帰ってきません」と歌に入る前に仰って、それは歌の歌詞に繋げているのだけれど、なんだか寂しい気分になってしまいました。。

『ヨイトマケの歌』
やっぱり美輪さんのヨイトマケはいいですね~。何度見ても本当にカッコイイ!!
美輪さんってみゆきさんと同じで、ぜっっったいに生で見るべき人だと思います。
美輪さんの(母方の)ご実家は風呂屋をされていて、番台で手伝っていると、中流の上の生活をされている綺麗な服を着た完璧なプロポーションのご婦人でも、服を脱いで裸になるととても醜い体をしていたりする。「それ以来、服や身分や性別など目に見えるものを一切信用しないと思いました。目に見えるものではなく、目に見えないものを心で見ようと、そういう風になりました」
そんな美輪さんなので、舞台上の美輪さんと目が合うと(そういう風に感じさせる方なのです)、心の奥の汚い部分も全て見透かされているようで少し落ち着かない気分になるのです。心の目で見られても恥ずかしくない、そういう人間でありたいものです。

『金色の星』
この曲を作った頃、人気が落ちて全然仕事がなくて、ある日電車に乗っていると中年ばばあ三人が「丸山明宏よ。なんで電車なんか乗ってんのかしら。最近落ち目だからね」と大声で聞こえよがしに話していたのだそうです。「普通の芸能人の方でしたら聞こえないふりをされるのだと思いますけれど、わたくしは普通ではございませんでしたので、二十倍返しで言い返して最後は泣かしてやりました。ああいう人達には、黙っていてはだめですよ。その方が本人のためでもあるんです。でないと調子に乗ってもっともっと言ってきますからね。ですから皆さんも言い返してください」と笑。
「どの扉を叩いても開かない、誰でもそんな時期があります。でも諦めるということが一番よくない。信じて努力していれば、金色の星は必ず現れます」
いやあ、すごい迫力。。。youtubeで聴いたときはこんなに迫力のある曲には感じなかったのだけど、やっぱり生は全然違います。吃驚した。後光が見えた。
美輪さん、いつも一部と二部の最後は必ず聞かせますよねぇ。さすがのエンターテイナーだわ。絶対に手を抜かないしなぁ。
最後に両手を胸のところで小さく降って笑顔の美輪さん、おちゃめですっごく可愛い

~20分間の休憩~


【第二部】

真っ青なブルーのドレス。海の背景に沢山の色とりどりの薔薇。
インチキくさいといえば、美輪さんの音楽会のセットもある意味これ以上なくインチキくさいのだけれど、それを偽物に感じさせない舞台上の美輪さんに今回も改めて感心したのでした。本当に、笑ってしまうほどのインチキくささなのですよ。それがもう夢の世界そのままのように美しくてね。この2つが矛盾しないところが美輪さまのステージの凄さだなぁと。
身長161cmで今年80歳なのに、あの存在感。やっぱりその人生の厚みゆえなのでしょうか。本当に、どんな言葉も(たとえ間違った事実の内容を仰っているときでも、また私が同意見でないときでも)、美輪さんご自身の言葉として嫌な感じが殆どしないのよね。経験に裏付けされた、ぶれないスケールの大きさ。何度も言ってしまうけど、こういう大人が日本にはもっともっと必要だと思います。私もそうありたいものです。

『港街のレストラン』
『私はひとり片隅で』
昭和30年代?に初めてパリに行ったとき、カフェで座っていると、女性と男性が入れ替わり立ち代わり違う相手と外に出てはしばらくして戻ってくる光景に吃驚した、というお話をされていました。

『ボン・ボワヤージュ』
今回はフルの12分をそのままではなく、前半の演技部分をトークで説明し、後半の歌唱部分のみという構成。この曲はこういうお話で・・・というトークからそのまま自然な流れで「馬鹿ねあんた、何言ってんのよ」とお芝居と歌の世界に入っていく表現の変化、凄かったです。これぞ美輪さん!前半部分が聴けないのは残念に思っていたけど、これが見られてかえってよかった。

『ラストダンスは私と』
『愛の讃歌 日本語版』
素晴らしかったです!!紅白の歌唱より音程も安定していて、ずっとずっとよかった!
もうさぁ、なんかさぁ、愛だよね。。。すべては愛。この世界で一番大切なのは愛。ただ愛だけ。愛があればすべて解決。と、感じた
この日本語版も、いいなぁ。

【アンコール】
いつもどおり、拍手を引っ張ることなくすぐにご登場。
今年の春の舞台「黒蜥蜴」についてのお話。昨年が江戸川乱歩の生誕120周年、今年が三島由紀夫の生誕90周年で没後45年。これが最後の黒蜥蜴になるそうです。黒蜥蜴は舞台の上にいる時間が長く、衣装の早変わりも多いので、ちゃんとした舞台を皆さまにお見せできるのはこれが最後だろう、と。「そんなこといってまたやったりするんでしょ?」とイジワルなことを仰る方もいますが、もうやらないつもりです、と。でも毛皮のマリーなどもう少し体が楽なお芝居は今後もやらせていただく予定、だそうです。
私はお芝居よりも音楽会の美輪さんの方が好きなので、また黒蜥蜴は一昨年に観たばかりで、配役も全く同じなので、たぶん今回は観に行かないと思います(ちなみに昨晩も「木村さんの明智は過去最高だと思っております」と仰っていた。。。)。
美輪さんの最後の黒蜥蜴、蔭ながら心よりご成功をお祈りしております。

『老女優は去りゆく』
「30では早すぎましたが・・・」とちらりと仰っていたけれど、これは30代のときに作った歌なのだろうか?(美輪さんの曲は製作年代の情報がネットで見つけにくいのである・・・)。
しかし今も昔も、この曲を本当に歌うことができる歌手ってどれだけいるだろう。
まさに美輪さんの歌、だよねぇ。これも下に載せた動画より昨夜の方がずっとずっと深みがあって切なくて、素晴らしかったなぁ。。。怖いくらいの迫力だった。。。
照明効果もとてもよくて、人気の絶頂の場面では背景の薔薇にライトがいっぱい当たって、落ちぶれる場面では暗くなって、そして最後の「出ていく迄明りは消さないでね」のところでぱぁっと明るくなるの。そしてなんともいえない嬉しそうな、でも寂しいような、万感の表情を浮かべて、去っていくのです。去り際に小さく両手で客席に手をふった姿が印象的でした。これ聴けてよかった。。。

そして、再び最後に笑顔でご登場。今度は背筋のすっと伸びた素の美輪さん。
丸まった背中でよぼよぼと去って行った老女優の姿から再び颯爽とした姿を最後に見せてくださったこの流れが、ああ、もうほんとに泣きそうよ。。。やっぱり最後はこの美輪さんだよね!
美輪さん、本当に本当に美しかった。。。
今回の音楽会、行ってよかった。

美輪さま、今年の秋にまたお会いいたしましょう!!


※2013年9月12日「ロマンティック音楽会」の感想
※2013年9月26日「ロマンティック音楽会」の感想
※2013年6月8日「黒蜥蜴」の感想

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