風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

五月文楽公演 第二部 @国立劇場(5月21日)

2014-05-22 23:37:41 | その他観劇、コンサートetc




2月に続き、人生3度目の文楽に行ってまいりました。

思えば2月の1~2部のときは体調がサイアクで、感想も上げていないままなのであった。体調はそんなでしたが、とても楽しめた公演でした。『近頃河原の達引』の住大夫さんのお声も大変好みで、よく滋味という言葉で表現されますが、どこか艶も感じられて(上方のアクセントって色っぽいですね)、全盛期を聴けなかったことは残念だけどこれからこの方の公演は通おう~と思っていたら、数日後にまさかの引退発表。。。
今月の昼の部のチケット争奪戦にもあっけなく敗れ。ああ住大夫さん、あれが最初で最後だったとは~・・・。
というわけで、気を取り直して、私はチケットが取れた夜の部へ。
二演目とも歌舞伎で観たことがあったので、予習も不要で、楽しむことができました。

※二等席(最後列)上手 5300円也
人形の表情を観るにはオペラグラス必須ですが、前方席よりも字幕が見やすく、なかなかよかった。あと、出遣いの方達のお顔も遠いので、初心者の私は人形に集中できて、そういう意味でも見やすかったです^^; でもやっぱり前方のが迫力あっていいなー。


【女殺油地獄】

筋書によると、近松の時代から長らく上演が途絶えていて、明治に歌舞伎で、昭和に文楽で復活したとのこと。
話の時季は卯月半ば~端午の節句なので、季節感はばっちりです

シネマ歌舞伎で観た仁左衛門さんの与兵衛はどこか憎めない可愛さと寂しさがあったけれど、こちらはちょっと薄情そうというか、あまり物事を深く考えなそうというか、「ああ、人殺しちゃいそう」な感じでした。
仁左さまの与兵衛は、豊島屋の段で親の情に対してはっきりと心が動かされていて、お吉を殺す理由も本当に「親に迷惑をかけたくないから」と思っているように見えましたが(そのためにお吉を殺しちゃう浅慮さはあるものの)、文楽の与兵衛はそういう感情は殆ど見られないのですね。お吉に切々と語る言葉も、方便に聞こえる。「こういう男、現代にもいそうだなぁ」と思いました。リアルな殺人事件を目の前で見ているようだった。人間が演じる歌舞伎より人形が演じる文楽の方が陰惨で生々しいというのは、面白いですね。その分後味も悪いですけど・・・。

そんな真性バカ息子なので、徳兵衛とお沢の情も一層強調されるというか、なんというか。
歌舞伎の歌六さんの徳兵衛はそれはもうすんばらしかったですが、義太夫で聴くとまた言葉が心に沁みますねぇ。呂勢大夫さんも温かみがあってよかったけれど(「他人同士親子となるはよくよく他生の重縁と~」)、豊島屋の咲大夫さんが徳兵衛もお沢も深い情が滲み出ていて・・・・・泣。親って本当に有り難いよねぇ・・・・。徳兵衛なんて血も繋がっていないのに・・・・・。なのになのに、ああ親の心子知らず。

勘十郎さんは、二月の八重垣姫につづき、今回もアクロバティックな動きのお人形さん。でも小さなさり気ない動きもいかにも与兵衛!で、河内屋内で柱にもたれかかってる立ち姿とか、カッコよかった^^。今回は出遣いのお顔とも全く違和感なし笑。
油で滑る場面は、人形だと多少オーバーにやってもドリフに見えないのがいいですね。やりすぎ感はなきにしもあらずですけど、せっかく人形でやっているのだから、これもアリかと。
しかし歌舞伎でも思ったけど、あれだけ隣の部屋で騒いでいるのに、なぜ子供は目を覚まさないのか。。

あと、お吉(和生さん)の死体のリアルさ。
人形から人形遣いさんが離れると、魂も離れるのですね。ぞくっとしました・・・。

歌舞伎と文楽、それぞれの良さを発見できて、楽しかった!
立ったままお酒を飲むのは野辺送りのようで不吉だとか、そういう昔の風習をさりげなく知ることができるのも、歌舞伎や文楽の良さですね^^

ああそれと、太夫さんって語り始めや終わりに床本を掲げて一礼しますよね。この姿は人によって色々ですが、2月の住大夫さんはとても大切そうに感謝をするように掲げられていて、その仕草と表情がひどく印象に残っていたのですが、今回咲大夫さんもそうでした。あの姿って、なんかいいですねぇ。

※七月の文楽劇場は「逮夜の段」までやるのだとか。いいな~、一度観てみたい。


【鳴響安宅新関(なりひびくあたかのしんせき)】

おお。歌舞伎より雰囲気が明るい。
でもこの演目は、私は歌舞伎の方が好きかなぁ。あのしっとりとした、切ない情緒が好きなので。文楽は太夫も三味線もズラリと並んで圧巻ゴージャスでしたが、少々五月蝿く感じられてしまった。。。 タイトルのとおり、お声も楽器も鳴り響いておりました。
「判官御手~」がないのも寂しく(美しくて好きなんです、あの場面)、延年の舞と飛び六方も「人形がやってる!すごい!」とは思いつつも、やっぱり人間の体がこれらをやっている方が好きですねぇ。
また、弁慶(英大夫さん)も富樫(千歳大夫さん)も、あまりお声とお役が合っておられなかったような。。
正直なところ、この演目に関しては、あえて歌舞伎から持ってきてまで文楽でやる意味がわからなかったです。。
といっても私は初心者も初心者なので、数年後には「文楽の勧進帳、超楽しい!」と書いているかもですが、笑。

後半の海の背景は、大らかで爽やかで、素敵でした。これ、歌舞伎でも見てみたいなぁ。

今回あらためて思ったのは、文楽って決して高尚な小難しいものなどではなく、歌舞伎と同じかそれ以上に、庶民のエンターテインメントなのだな~と。
楽しいですね♪




ロビーに飾られた、住大夫さんへのお花。
吉右衛門さんや海老蔵、薬師寺からのお花などもありました。
引退公演というと寂しいイメージがありましたが、住大夫さんのお名前の上に書かれた『御祝』の文字に、ああこれはお目出度いことなのだな、と気付き、晴れやかな気分で席に着くことができました。
とてもいい雰囲気の公演だったと思います。

※追記
「女殺油地獄」記者会見(2014年7月国立文楽劇場):豊竹咲大夫吉田和生桐竹勘十郎

Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする