風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

きけ わだつみのこえ (7)

2006-08-13 00:05:46 | 

太平洋戦争から61年。
今の世界情勢をみていると、人間は何も進歩していないのではないかと感じてしまう。
けれど、日本はあれから一度も戦争をしていません。
61年間、不戦を守りつづけてきたのです。
何を言われようと、それだけは世界のどの国に対しても胸をはっていいことです。
そしてもっと堂々と不戦を宣言することのできる国づくりを私達がしていかねばなりません。
これだけは、この先どんなことがあっても守りつづけていかねばならないことだと思います。

(岩ヶ谷治禄 1944年12月23日 ルソン島にて沈没戦死 21歳)
昭和十八年十一月六日
三月十日に入隊する。それも毎日毎日近くなって来る。今日はブーゲンビル島付近の戦闘が新聞に報ぜられている。大型輸送船大破とか、巡洋艦轟沈だとか。あの大洋になぜのみこまれて死んで行かねばならないのか。日本人の死は日本人だけが悲しむ。外国人の死は外国人のみが悲しむ。どうしてこうなければならぬのであろうか。なぜ人間は人間で共に悲しみ喜ぶようにならないのか。平和を愛する人。……私のように意気地なしの者にはこんな言葉が痛切に感じられてならない。
外国人であるがゆえにその死を日本人が笑って見る。これは考えても解らない。日本人は「御民われ、生けるしるしあり」とほこりを感じていると。彼らの人生のほこりは?海の中で三日、四日と泳いで力つきて死ぬ人のあわれさ……。

昭和十九年三月某日
……私は戦をぬきにして戦へ征く。その言葉を解してくれるものはないかも知れぬ。ただ私は人の生命を奪おうとする猛獣的な闘争心は今持たぬのである。そうしてこの哀れな渦中にすいこまれるような思いで、私は戦に征くのである。


(長谷川 信 1945年4月12日 特別攻撃隊員として沖縄にて戦死 23歳)
昭和二十年一月二日
……人間は、人間がこの世を創った時以来、少しも進歩していないのだ。
今次の戦争には、もはや正義云々の問題はなく、ただただ民族間の憎悪の爆発あるのみだ。
敵対し合う民族は各々その滅亡まで戦を止めることはないであろう。
恐ろしき哉、浅ましき哉
人類よ、猿の親類よ。


(瀬田萬之助 1945年3月7日 ルソン島にて戦病死。 21歳)
昭和二十年三月五日
……この土地の言葉はタガログ語です。……いくらか土人の言葉にも慣れました。言葉が分ると自然と人情が湧いて来るものです。皮膚の色が変わっても人情上は変わりありません。母上がいつかおっしゃられたように無益の殺生は部下にも固く禁じております。
マニラ湾の夕焼けは見事なものです。こうしてぼんやりと黄昏時の海を眺めていますと、どうして我々は憎み合い、矛を交えなくてはならないかと、そぞろ懐疑的な気持ちになります。避け得られぬ宿命であったにせよ、もっとほかに打開の道はなかったものかとくれぐれも考えさせられます。
あたら青春をわれわれは何故、このような惨めな思いをして暮らさなければならないのでしょうか。若い有為の人々が次々と戦死していくことは堪らないことです。
中村屋の羊羹が食べたいと今ふっと思い出しました。
またお便りします。このお便りが無事に着けばいいのですが……

(『きけ わだつみのこえ』より)

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