conparu blog

ささやかな身の回りの日常を書き綴ります。
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正月の酔いごと

2020-01-25 16:51:26 | 随想
『人は行くようにしか行かないものだ』―松尾芭蕉の述懐の言葉だと云われる。
人の一生というのは思うようにならないものだ。人の世の儚さ、どんなに頑張ったところで所詮相応の自分に収まってしまう。芭蕉の晩年は自然と人間界に潜む哀切といった、心に投影する自然の『あるべき姿』(真理)を表現して、時代を超えて私たちに訴えてくるものがある。
 
   『一つ家に遊女もねたり萩と月』

 奥の細道を俳諧して北陸道の酒田を過ぎ、越後まで来たところで病を得た芭蕉は、親不知の隣りにある市振と云う村に泊まった。そこには伊勢参りの旅に出た二人の遊女と同宿したが、襖を隔てた隣室であるから一行の話が筒抜けに聞こえてくる。ここまで送ってきた年老いた男が明日は越後新潟へ帰ると云うに及んで、遊女から故郷への文を托して、今までの浅ましくも定めなき契りの日々の因業はどうにもならない、と身のうちを語れば、これを聞いた芭蕉は、遊女のこの先の行方知れない旅を思いやり悲しくもあるが、どうか少しでも良い縁を結んで欲しいと祈らずにはいられなかった。宿を出がけに「われわれはそれぞれの処に留まっているが、人はそれぞれ行くに任せるしかない。神明の加護は必ずあるのだから」と言い捨てて出たが、哀しさはしばらく止まなかった。
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