月の岩戸

世界はキラキラおもちゃ箱・別館
コメントはゲスト・ルームにのみお書きください。

ベテルギウス・14

2015-08-24 05:25:04 | 詩集・瑠璃の籠

テーブルの上の料理が
なぜか突然動きだし
伸びきったゴムが瞬時に縮むように
どこへともなく吸い込まれてゆく

自分の住んでいた家が
なぜか突然揺らぎ出し
まるで羽でもついているかのように
車と一緒にどこかに飛んでゆく

なにもかもが
夢のような出来事の中で
消えてゆく
一切皆苦 諸行無常
諸法無我 涅槃寂静
とは これのことか
すべてが 消えてゆく
何も ない

あらゆるものに 足が生えて
自分から去ってゆく
まじめにがんばっているという感じの
青年の仮面がはがれて
それもどこかへ飛んでゆく
自分がいつの間にか全然違う人間になっている
わたしは 誰なのだ
何なのだ
わ た し は

人間が離れてゆく
まるで妖怪を見るような目付きで
友人が去ってゆく
俺はだれだ なぜここにいる
すると偽物の真珠を孕んだ
腐った貝が現れて しゃがれた声で言う

明日の朝七時に 列車が来る
切符はポケットの中にあるから
それを持って駅にいけばいい
わずかに残ったものだけを鞄につめて
帰れ
もう十分だろう
なにもかも嘘だったとわかったら
真実の故郷に向かう列車に乗れ
あれはもう終わったのだ

終わったのだ
おまえが化けていた人間の
人生の嘘芝居は
すべて終わったのだ

なぜこうなったと問うのか
それは おまえたちを支えていてくれた
運命の愛が
とうとう人間を見離したからだ



コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« フォマルハウト・7 | トップ | プルケリマ・12 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

詩集・瑠璃の籠」カテゴリの最新記事