ネットコンサート


Z7 + NIKKOR Z 50mm f/1.8 S

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劇場やホール、ライブハウスでのコンサートを生業とするアーティストたちは、新型コロナ騒ぎの影響をまともに受けた。
ぼくの同窓生でも、「公演」が出来ずに困っている人が数人いる。
特に狭い空間に大量の人が集まり、興奮して汗や唾を飛ばして熱狂するロック系のコンサートは、クラスターの発生の条件が揃っている。
仮に自粛期間が終わっても、今までのような形で開催するのは難しいだろう。

ところでインターネットの機能を利用すれば、新しい形での公演が出来るのではないだろうか。
ネット配信を利用したコンサートである・・と思ったら、案の定そんなものは何年も前から行われていることが分かった。
リアルタイム、すなわち生で演奏を配信し、代金を払った観客にのみ映像と音声を届けるネットコンサートである。
そりゃあそうだ、環境はすべて揃っているのだから当然やっているだろう。

配信は何月何日の何時開演・・というように、実際のコンサートと同じように行う(のだろう)。
そしてチケットをネットで購入した人だけが視聴できる。
ご存知の通り、すでに複数のアーティストがネット上で集まり、その演奏を配信する試みがあちこちで行われている。
しかしそれを仮の活動として行うのではなく、それこそがこれからのコンサートの形になる、ということだ。
恐らくここで問題になるのは、配信の受け取り側の再生装置の品質であろう。

試しにヨーロッパのオーケストラが運営するコンサートの配信をパソコンで試聴してみた。
と言っても生では無く録画なので、Youtubeを視聴するのと何ら変わりはないのであるが・・・
映像はパソコンのモニター、音声は両脇のLS3/5Aで再生したが、これがけっこういける。
ただ映像が加わっただけなのに、意外に満足度が高い。

ホールの中途半端な席で生演奏を聞くよりいいのではないかと思うような音質で、箱庭的にはまとまるが、ちょっとしたミニコンサート気分が味わえた。
普段CDで音楽を聴くのとは、どこか違ったものを感じさせる。
特にあまりカメラを動かさず、全体が見渡せるベストのシートポジションに固定して聴くのが、会場にいるような生々しさが味わえていいように感じた。
ただ欧米の有名なオケの演奏を生放送で聴こうとしたら、時差の影響で放送が真夜中過ぎから明け方になるのが辛いところ。

ロックだとどうであろう。
ロックコンサートなら身体を震わせるような激しい「体験」が必要であろう。
大音量に身を任せて踊る。
さらには同じ思いの人たちと一緒になって騒ぐ。
その雰囲気を味わいたいために、お金を払っているのだ。(と思う。実は僕はロックコンサートってあまりよく知らないのだが・・・)

無人の会場で演奏して、その様子をネットで配信するまでは簡単である。
しかしそれを聞く人の多くは、家庭用の貧弱な仕組みしか持っておらず、大きな音量も出せない環境にいる。
これじゃあライブ体験とは程遠い。

今回の新型コロナ騒ぎで、今後は人が集まるイベントやコンサートを開くのは難しく、商売の形式としては勢いを失う事になるだろう。
それなら家庭での再生システムの開発に力を入れるべきではないか。
かつての熱かった時代のオーディオの復活であるが、もっと疑似体験的な性格が強いものになる。

自宅で大音量を出して騒ぐわけにもいかない。
そのためヘッドフォンと大型モニタを中心としたものになるだろう。
チャンネル数を増やしたりバイノーラルにしたりして、リアルな臨場感を出す。
そのアーティストや会場専用のイコライジングデータを視聴者のシステムに送り自動で音質調整してもいい。

また密閉された専用の小型防音ブースを作ってもいい。
家庭でのネットコンサート専用の再生環境を作るのだ。
ファンなら最良の体験をするためにそのくらいの投資は惜しまないであろう。

チケット代金に応じて配信内容のグレードをいくつか用意してもいい。
たとえば高額なチケット購入者なら、会場の前の方の席に陣取ることが出来、アーチストに触れられそうなところまでカメラが近付いて、生々しい体験をさせてくれる。
今後技術的により進んでいけば、ヴァーチャルな3次元空間を配信して、疑似的に大勢の観客に囲まれて視聴することも出来るだろう。
またアーティスト側もファンがいなければ熱くなれないというなら、相互通信にしてファン側の反応をモニタに映しながら演奏してもいい。

演奏を録画されて、海賊ソフトとしてばら撒かれてしまう可能性はある。
しかしそれを恐れていては、新しい世界に対応できないように思う。
逆にコンサート活動の一環として、どんどんライブ配信を行えばいいのだ。
ナマ演奏であるから、日々違う演奏であることも強みになる。

一番重要なことは、配信相手が世界中にいる、ということだ。
地球の裏側の人までもが対象(時差はあるけれど)となり、それは狭いライブハウスで限られた数のお客を対象にするのとは、桁違いの人数であろう。
5ドル、10ドルといった安価なチケット代でも、数百万人が視聴してくれれば、トータルでは相当の額になる。
価格を抑えれば海賊版の価値も薄れるだろう。
この商売の形に移行したら、もう今までのコンサートに戻れないのではなかろうか。

あとは聞く側の意識の問題である。
配信コンサートはどうだろうとロック好きに話したら、そんなもの・・という反応であった。
どうも騒いでストレスを発散することこそが目的で、「音楽を鑑賞する」のとは少し意味合いが違うようだ。
それにファン同士の集会で連帯感を楽しむことも、コンサートの「体験」に含まれているのだろう。
クラシックのコンサートとはある意味対極にある。

意外に皆頭が硬いと思ったが、新型コロナのせいで否応なく変革が迫られている。
要はこれからはカラオケで皆で騒ぐのは禁止で、一人カラオケしか許されない・・と考えると分かりやすい(笑)
今後は演奏者ばかりでなく、それを聴くお客側も変わる努力が必要であると認識すべきだろう。
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