自動巻き


Z7 + NIKKOR Z 50mm f/1.8 S

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ご存知の通り、機械式腕時計には手巻きと自動巻きがある。
手巻きは文字通り手で竜頭を回転させて、ゼンマイを巻き上げて駆動させる時計である。
一定時間おきに(通常1日に1、2回)巻いてやらないと時計が止まってしまう。

一方自動巻きは内部にローターという振り子が入っている。
人間が歩行時に腕を振るのを利用して、そのローターを回転させてゼンマイを巻くのである。
手で竜頭を回さなくても、ただ歩くだけで時計が動き続けてくれるので、オートマチックという名称で呼ばれる。

現在は手巻きの機械式腕時計は比較的少ない。
ほとんどが自動巻きのため、逆に手巻きの方が貴重になっている。
手巻きだと時計を薄くエレガントに作れるのだが、ムーブメントの種類が限られるのか、安価な機械式腕時計でも自動巻きがほとんどである。
逆に手巻きの方が価格が高くなってしまうようだ。

僕が普段会社に着けていく腕時計も多くは自動巻きである。
しかし今の季節は暑いので、ずっとつけっ放しは辛い。
事務所に到着すると、腕から取り外して机の引き出しにしまってしまう。
当然自宅に戻った時も、やはり腕時計を外す。

ところがこの使い方だと、途中で時計が止まってしまうことがある。
会社や家で、時計を再度腕に着ける時に、はっと気付くと針がストップしているのだ。
考えてみれば、時計を着けてローターを回しているのは、行き帰りの道中だけである。
それだけでは時計を動かし続けるだけのエネルギーを与えられないということであろう。

以前どこかで、現代人の生活は自動巻きの時計には必ずしも合わなくなっている、という文章を読んだ。
意識してみると、腕を振りながら歩く時間というのは、確かに限られていることに気付く。
会社の行き帰りでも、電車に乗っている時間や車を運転している時間は、ほとんどゼンマイを巻くことは出来ないだろう。
実際に腕を振っているのは、駅と自宅との往復の時間だけになり、僕の場合はそれこそ数分程度になってしまう。

それだけでなく、人間の歩行の形態も変わってきているように感じる。
片手にスマホを持って、もう片方の手で操作をして、荷物はバックパックに入れて背負いながら、移動してはいないだろうか。
歩く時間が減少しているだけでなく、腕を振りながら歩くという運動自体が少なくなっているのではないか。

左手に腕時計をして、その左手でスマホを持って歩くと、その間腕をほとんど振っていないことになる。
僕などは散歩の時など、案外元気よく腕を振りながら歩いている。
しかしそんな自分の姿にふと気付くと、自分が古い時代の人間のように思えてくる。

人間の歩行形態が変化してしまったら、自動巻きの機能が上手く働かず、機械式腕時計が成立しなくなる。
すでに機械式腕時計は、時間を確かめるためのものというより、趣味やファッションのアイテムになっている。
しかしそれでも機械部分がしっかり機能してくれることは最低限の条件であろう。
そろそろ現代の生活に適合した新しい機械式腕時計のアイディアが必要な時期かもしれない。
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