ウイングチップ


D810 + AF-S NIKKOR 24mm f/1.4G ED

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「ニック・オブ・タイム」という映画がある。
1995年のアメリカ作品で、主演は若き日のジョニー・デップだ。
たまたまNHKで何度か放映されたので、録画しておいた。

州知事の女性候補が、急にリベラルに政策を転向したため、夫を初めそれまで支持していた周りの白人たちが怒り、彼女を暗殺する計画を立てる。
たまたま通りがかった経理士のジョニー・デップが、それに巻き込まれるというストーリーである。
監督はジョン・バダムで、映画の進行が90分間ほぼ時間通りに進む編集になっている。

実はこの映画、すこぶる評判が悪い。
たまたま通りがかっただけのジョニー・デップの娘をさらい、知事を殺さないと娘を殺すと脅し拳銃を渡す。
銃の腕さえわからない男を相手に、そんな無茶苦茶な話があるかと非難する意見が多い。
助演のクリストファー・ウォーケンの存在がなかったら、どうしようもない作品になっていたと言われている。

まあジョン・バダム作品はシナリオに欠陥が多いのが特徴で、その辺のラフさをわかった上で見てやる必要がある。
こういう何かが根底から抜けてしまったようなストーリー展開は、この頃の作品の特徴でもあるのだ。
Mrs.COLKIDも、この映画を劇場で見せられたら、500円くらいしか払う気にはならない、と言っていた。

それを何故録画までして観るのか。
実は靴好きにとって、これはけっこう興味深い作品なのだ。
脇役のチャールズ・S・ダットンが、劇中黒人の靴磨きとして重要な役割を果たす。
彼は足の不自由な退役軍人で、追い込まれたジョニー・デップを助けてくれる。

主演のジョニー・デップは、マックアリスターのような形状の比較的複雑な内羽根式ショート・ウイングチップを履いている。
それを磨きながらダットンは「ウイングチップほどいい靴はない、丈夫で長持ちする」というようなことを言う。
そう言うダットンも、不自由な足にブラウンのロング・ウイングチップを履いている。

何と彼はこの靴を履いたままの樹脂製の義足で、デップの娘を撃ち殺そうとした女をぶん殴って倒す。
そして靴にキスをしてこう言うのだ。
「ウイングチップは最高だ!(Nothing like a good wingtip!)」
これだけでアメリカ靴好きなら見たくなるだろう(笑)

ラストで姿を消す黒幕である老人が、黒のショート・ウイングチップで、デップの落としていったセイコーの時計を踏みつぶしていくシーンがある。
主要登場人物が皆ウイングチップを履いているのだ。
明らかに靴が好きな人物が絡んだ作品である。

この作品を語るに当たり、(個人的に)ここは重要なところだと思うのだが、いろいろな評価を見たが、靴について触れている人は皆無であった。
この映画でジョン・バダムが言いたかったのはこういう事だろう。
「男ならウイングチップを履け!」









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