直結


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商売におけるインターネットの存在は、製造会社とユーザーを、どんどん直結させる方向に働く。
僕の業界では、メーカーがユーザーに直接売ることは、今まで遠慮していた。
小売店を守るためである。

しかしいまや街の小売店は淘汰されつつある。
大型店の中には、生き残りをかけて、自ら工場を持ち製造に乗り出すところも出てきた。
逆にメーカーにとって脅威となる存在になっており、こうなるとメーカーも黙ってはいられなくなってきた。
弱い小売店を守っていく余裕がなくなってきたのだ。
「(消え行く)小売店と心中するつもりはない」と業界トップが発言するほどである。

いつかは製造者、すなわちメーカーが、直接ユーザーに売る形態が主流になるだろう。
だが実際には、そこまで行くにはもう少し時間がかかるという予測もある。
たとえば、その影響が一番早かった家電業界を見ると、ヤマダ電機の店舗が大幅に撤退する・・とはいっても、電気店が地上から完全に姿を消してしまったわけではない。

現在は、製造業が直販だけで食べていくのは、まだ難しいと言われている。
ネット通販を利用して物を購入する人は、日本では全体の数割・・・
一定数の人を雇ってものを作っている製造会社が、成り立つほどの売上にはならない。
直販部門は、上手くいったとしても、メーカーのサイドビジネス的な売上にしかならない。

そのため現状は、ほんの数人の規模で、ものを右から左に移すだけのショップか、あるいは大半を他所に作らせ、自分ではアッセンブルのみ行う程度の会社が、ネットショップで成功している。
しかし、仮に製造業者が本格的に直販に乗り出した場合、その流れがいつまでも続くとは思えない。
大きな流れの中では、間に入っているだけの中間業者は、やがては淘汰されていくだろう。
自分の手でものを作る設備のある会社には、アイディアをどんどん現実化出来るという強みがある。

その上ダイレクトに売れば、利益は倍にもなるのだから、メーカーとしてはありがたいわけである。
それが許されるなら、すぐにでもそうしたいところだろう。
1万円で小売店に卸していたものを、中間は飛ばして、2万円で直接エンドユーザーに売ることが出来るのだ。
2万円では小売店が売っていた価格と変わらないから、1万5千円に値引きすれば、ユーザーにもかなりのメリットが出る。
それでも原価が5千円だとしたら、今までの利益は5千円だったが、今後は1万円になる。

ユーザーの世代交代は予想外に急速であるから、「買い物はすべてネット」という時代に進化するのも、案外早いのではないか。
以前も書いたが、極論すると、街のお店で買い物をすることは禁止、売買はすべてネットを通じて行い、街にあるのはショールームのみ・・という時代になるかもしれない。
街のお店では在庫を持つ必要が無いし、商品のアドバイス、特注品の受付窓口などに特化できる。
どうしても店頭で注文したい場合は、そこに置いてある端末から発注する形をとればいい。

ところで、そうなると会社も形態を変えなくてはならない。
今までは、全国展開で各地に営業所を持ち、大勢の営業の人間が小売店を歩き回る、という形態が、大きなメーカーのひとつのパターンであった。
ところがエンドユーザーにダイレクトで販売するとなると、営業部門の人間がほとんどいらなくなってしまう。

製造部門の人員は、今までと変わらないだろう。
しかしそれ以外の人員は、数名のオペレーター、数名のITの専門家とデザイナー、営業はネット関連会社向けに何人かいれば十分で、それも他の仕事と兼任できるだろう。
現状は製造部門と同人数程度の営業の人間がいる会社も多く、半分から3分の1くらいの人が不要になってしまう。
一番重要な人材は、有能なアイディアマンや優れた美的センスの持ち主なのだが、人との折衝を専門とする営業の人は、そういうことが不得手な場合が多く、その役割を果たすのは難しいだろう。

つまり今までと会社の規模、構成自体が別のものになっていくと思われる。
会社を大きくしよう・・というベクトルはすでに無くなっている。
小さく小回りの利く会社のほうが有利である。
どこにもないオリジナルの製品を作る、自分が本当に作りたいものを作る、という点においても、その方がやりやすい。
グローバル化の必要は無いから、株を公開する必要もなく、そちらの世界への影響も出てくるかもしれない。
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