回路


LEICA X1

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Mrs.COLKIDは、人の顔をよく覚えている。
テレビに出ている俳優のことなど、この人だあれ?と聞けば、大抵即座に答えが返ってくる。
単に名前だけでなく、過去にどういうことがあった人だとか、履歴まで詳細にわかっている。
僕自身がこういうことには弱くて、全然覚えることが出来ないこともあるのだが、それにしても感心する。
辞書代わりになるほどだ。

僕の母親もそうだ。
会社に来るお客さんのことなど、かなり克明に細部まで記憶している。

40年近く前に、会社に非礼なことをして、立入禁止になった人が、最近になって急に現れたことがある。
向こうは僕の父親が亡くなっていることを知り、しめしめと思ったのか、私はあなたのお父さんとは仲がよかったのだと、親しそうに話してきた。
ところが母親に一発で見破られた。
僕を陰に連れて行き、あの人は、過去にこういうことをして、こういう関係になったはずだ・・ということを伝えた。

僕がウエスタンの研究をしている時も、50年代の西部劇のテレビ俳優の写真を母親に見せると、こういう番組に出ていたという答えが返ってくる。
人の顔を判別し、さらには記憶する回路が、頭の中にしっかり入っているのがわかる。
もちろん僕にもあるのだが、その機能は相当貧弱であると自覚している。

ところが、彼女たちに共通している、ある事象に気付いた。
人間にかけては、確かに判別能力に長けている。
ところが、人間以外の生き物にかけては、その能力がうまく機能していないようなのだ。

逆に僕の場合、山を歩いていて出会う生き物や、テレビに出てくる動物など、ちょっとした特徴や動きから、即座に判別できる。
飛び方を見れば、夜の街灯に集まってくる虫の種類も大体わかる。
ところが二人とも、そういうことに滅法弱いのだ。

母親などは、散歩している犬を見ても、どこの犬かすぐには判別できないようだ。
茶色い犬を見て、(お向かいの家で飼っている白い犬の)○○かしらなどと言う。
これは犬に対して失礼だ。
またMrs.COLKIDは、特に絵に描いた動物やぬいぐるみなどの判別が苦手で、犬や猫ならまだしも、イノシシ、モグラといった少しマイナーな動物になると、間違えて素っ頓狂なことを言うことがある。

ひとつには、人間の顔を判別するプログラムが、動物には通用しないのではないかと思われる。
カメラの顔認識装置と似たロジックになっているようで、人間以外の生き物には正確に機能しないのだ。
目が両サイドにあったり、鼻が顔の先端にあったり、耳が上に立っていたりすると、もう適応外になってしまう。
その結果、動物の種類の判定が上手くいかず、記憶装置とも連動できない。

ふたりの反応を観察していて、その回路の欠陥に気付いたわけだ。
ところが、母親からそれは違うと否定された。
母親の説では、単に人間以外の生き物に、あまり興味が無いからに過ぎないという。
逆に、あなたは自分の好きなものだけで、一番大切な人の顔を真面目に覚えようとしないと怒られた。
僕の父親もその傾向があったそうで、これはよくない遺伝だと厳しく言われてしまった。
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