シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

少年は残酷な弓を射る

2012-07-18 | シネマ さ行

見に行くかどうかボーダーの映画だったのですが、原作が賛否両論ということでちょっと興味が湧いたので行ってきました。空いてるかな~と思っていたら単館系だけど、結構いっぱいでした。いわゆる「お母さん」と呼ばれるような世代が多かった気がします。やっぱり母として気になる作品なのかな。

結論から言うと、んーーーーー、どうなのなぁ?よく分からない。映画として退屈なわけじゃないけど、見終わって「で?」と思ってしまった。

冒険作家エヴァティルダスウィントンが夫フランクリンジョンC.ライリーに出会っていわゆるデキ婚。こういうところから特に母親であるエヴァが望んでできた子ではないという意味なのか。生まれたケヴィン(のちのエズラミラー)はとにかく母親エヴァには懐かない。母親と二人っきりの昼間には泣き通しで、父親が帰ってくると良い子になる。小さい赤ん坊のときからそんな調子で3歳、4歳、5歳になっても変わらない。父親の前では良い子なのでケヴィンの態度の悪さをいくらエヴァが訴えてもフランクリンには分かってもらえない。

もう幼稚園に行くような歳になってもおむつの取れないケヴィン。エヴァに叱られると嫌がらせのように大便をし、おむつを替えさせる。おむつを替えた直後にまた嫌がらせのように大便をしたケヴィンにカッとなってケヴィンを壁に投げつけてケガをさせてしまったエヴァ。ケヴィンは父親には自分でベッドから落ちたことにし、事あるごとにその件で母親を脅すようになる。そして、このケガの直後トイレで用を足すようになるケヴィン。母親がついにキレてケガをさせるのを待っていたかのようだ。

その後もケヴィンの執拗な母親への嫌がらせのような行動は続き、ケヴィンが思春期に入るころにも関係はそのままだった。その後生まれた妹にもケヴィンは巧妙にいじめのようなことをしているが幼い妹はケヴィンのそういう意図には気付いていない。おそらく妹の行動も母親への嫌がらせのためと思われる。

そして、ケヴィンはついに大きな事件を起こす。

エヴァがデキ婚ですべてのキャリアを捨て育児ノイローゼみたいなものなり、その結果ケヴィンがこんなふうになったと考えられれば都合がいいのだけど、ケヴィンは最初から本当に小さい赤ん坊のときから母親に懐かなかった。こんな子供本当に存在するの?っていうくらいに。ただ単にケヴィンが悪魔的な性質を持った子供なのだと考えればいいのかな。子供を愛さない親はいてもほんの小さいときに親を愛さない子供はいないと思うのでケヴィンのケースをどう考えていいのか全然分からない。一度幼少期に病気になったときにめちゃくちゃ母親に甘えていたけど、それも体調が治るとまぼろしのように消えてしまった。あれは一体なんだったんだろう?

ほんの小さいときに親を愛さない子はいないと書いたけど、これはワタクシの勝手な持論なので、もしかしたらケヴィンのような悪魔的な子というのも存在するのかもしれない。それを受け入れられない人にはあまりに衝撃的なお話ということになるのかな。ワタクシはこういう持論を持ちつつもある一定の割合で救いようのない悪魔は人類の中に存在すると思っている人間なのでケヴィンの存在そのものは特に衝撃ではない。ただ、この作品の中にケヴィンの視点というものは存在しないので、母親の目から見たケヴィンと本当のケヴィンにどれだけのギャップがあったかは分からない。とは言え、行動だけを客観的に見てもやはりケヴィンは異常だ。

エヴァはケヴィンの犯した罪の咎をすべて引き受けるように、みじめな生活をし同じ土地に住んで住民たちの非難の目を浴びている。エヴァはケヴィンのために自分を罰している。それが見ていて非常に痛々しい。ケヴィンの存在がワタクシにとって衝撃ではなくとも、エヴァにとってはあまりに絶望的で衝撃的だ。自分の産んだ子が悪魔だった。それを受け入れながら生きるエヴァを見ているのが辛い。

最後に事件から2年が経ち少年院で「なぜ、あんな事件を?」とエヴァに聞かれ、ケヴィンは「あのときは分かっていたけど、いまはもう分からない」と答える。このときのケヴィンの表情が非常に微妙だ。あれは小さな希望の光として考えるべきなのかな。そうなんだろうな。ワタクシの好みとしてはもっとゾッとする終わり方をしてほしかったんだけど。

見終わって「で?」と思ったのは、結局この作品で何が言いたいのかってことが分かんなかったからだと思う。ただのホラーとして考えれば問題ないんだけどね。

エズラミラーはこの作品で一気に注目株の新人となったが、あの最後の表情ができてしまう役者が誕生したと思うと映画ファンとしては非常にスリリングな気持ちになった。(来日したのを見たら長髪でなんだかキモくなってたけど)
ティルダスウィントンの演技もいつものだけど、今回も非常に素晴らしく彼女のおかげで映画全体が緊張感に包まれている。

この作品を見に来ていたお母さんたちはどう感じたのかな。うちの子があんなじゃなくて良かったと思ったか、うちの子もあんなふうになりかねないと思ったか。映画にはレートというのがあってこの作品は日本ではPG-12でアメリカではRなんだけど、(相変わらず日本はユルい)年齢どうこう言うよりもこの作品は「R-妊婦」にしたほうがいいね。妊婦でこの作品を見に行くような悪趣味な人も少ないと思うけど。



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