シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

風の馬

2009-07-09 | シネマ か行

これは1998年の作品ですが、七芸さんで、「チベット問題」特集ということで他の2本とともに公開されています。他の2本は時間の関係で見に行けるかどうか分かりませんが、1本でも見ておきたかったので、行ってまいりました。

外国のメディアが入るのが難しいと言われるチベットのラサで撮影された実話を基にした作品。中国当局の厳しい管理下におかれたチベットに住むドルジェジャンパ・ケルサンとドルカダドゥンの兄妹。彼らのおじいさんは昔中国政府に反対したビラを1枚貼っただけで処刑された。兄のドルジェは無職でぷらぷら遊んでおり、妹はパブで歌手デビューを目指して歌っていた。ドルカの恋人は中国人。彼が政府のつてを使ってデビューが決まった。しかし、歌わされるのはチベット人が毛沢東を慕う賛歌。ドルカは中国に迎合してでも歌手になりたかった。そんなドルカをドルジェは軽蔑している。そんなとき、いとこで出家したペマが中国を批難する声を市場で挙げたために捕まり、刑務所で拷問を受け、帰されることになる。ドルジェ兄妹の家に引き取られたペマ。刑務所から帰されたのは酷い拷問により死にかけているからだった。中国当局はチベット人に獄死されると困るからその前に解放するのだ。そんないとこの姿を見て、中国政府に迎合してまでデビューする自分を恥ずかしく思い、デビューを断念するドルカ。親しくなったアメリカ人観光客エミーにペマが刑務所で体験したことを語り、ビデオ撮影してもらいそれを持って出国してもらうことにした。

結局、ドルカはデビューを拒否したため、当局に目をつけられ、ラサから逃げることに。それによって、同じように目をつけられたエミーも出国のときにテープを没収されてしまう。兄と妹は当局の目を逃れヒマラヤ山脈を徒歩で渡り、ペルーへ脱出した。

冒頭で中国政府がチベット人たちにダライラマの写真を飾ることを禁じるシーンがある。写真を飾っているだけで罪になるというのだ。尼僧たちはそれを聞いただけで泣き崩れてしまう。チベット人たちにとて、ダライラマがどれほど心の支えになっているかが分かるシーンだった。役人はダライラマを思うだけでも罪になると言い、抜き打ち検査で見つけた写真の持ち主は連行される。なんという人権侵害。こんなことを平気で行っている中国でオリンピックなんてやっていいのかって今さらながらに思えてしまう。

他にも中国のチベット侵攻、抑圧、弾圧、占領はさまざまな側面があり、聞くだけで鳥肌が立つような恐ろしい事態となっている。イスラエル・パレスチナ問題でも同じように感じたが、こんな国が世界で堂々と大手を振って歩いていると思うと、本当にいたたまれない。アメリカが北朝鮮やイラクを悪の枢軸とかなんとか言ったことがあったけど、イスラエルや中国も充分に悪の枢軸というようなことをしているじゃないかと思えてくる。こんなこと、チベット人が言ったら即投獄、拷問、収監、強制労働ってことになる。この映画のエンディングロールでキャストの名前の多くが「非公開」となっていたことがそれを物語っている。

映画としては、ちょっと教育テレビの語学番組の寸劇を見ているような感覚になるところも多々あったが、後半はそんなことは忘れて、この現状に実際に頭が痛くなってきた。もっと日本人の多くがこの問題に目を向けられるよう、この映画がテレビなどで放映されるといいんだけどな。