つまらないことって気になりだすと、気になって仕方ない。今度はトレーのこと。
映画監督だとしよう。この場面を撮影するとき、執事役にどんな動きの指示を出せばいいんだろう。トレーは何枚用意すればいい?
I broke off. The door opened noiselessly and Parker entered with a salver on which were some letters.
‘The evening post, sir,’ he said, handing the salver to Ackroyd.
Then he collected the coffee cups and withdrew.
(The murder of Roger Ackroyd, P.61, HarperCollins)
私は口をつぐんだ。音もなくドアが開き、パーカーが入ってきたのだ。封書が何通かのった小さな銀盆を手にしている。
「夕方の郵便物でございます」パーカーはそう言いながら、アクロイドに銀盆を手渡した。
それから、置いてあるコーヒーカップを集めると、部屋を辞した。
アクロイドが手にしたのは何か。手紙だけか、盆ごとか。このときパーカーが持っていたsalver、四角くて枠のついたものをイメージした。間違いなくピッカピカのシルバー。でも、ググると丸っぽくて足のあるタイプしか出てこない……。コーヒーカップを運ぶ盆と手紙を載せる盆が同じとは考えにくいので、コーヒーを下げるために使われた盆は、パーカーが前にコーヒーを持ってきたとき、この部屋に置いたままだったのではないかと想定(as Parker entered with the coffee tray, P.54)。今回のsalverは、今、アクロイドの机の上にあるのでは。
-----【既訳】-----
わたしは言葉を切った。ドアが音もなく開き、パーカーが手紙を何通かのせた盆を持って入ってきた。
「夕方の郵便物でございます」パーカーはアクロイドに差し出した。
それからコーヒーカップを集めて、部屋を出ていった。(ハヤカワ文庫・羽田詩津子氏)
----------
私は口をつぐんだ。ドアがあいて、パーカーが何通かの手紙をのせた銀盆を持って入ってきたからだ。
「夕方の郵便がまいりました」銀盆を渡しながら彼は言った。
そして、コーヒーの茶碗をかたづけて出て行った。(創元推理文庫・大久保康雄氏)
----------
私は口をつぐんだ。ドアが音もなく開いて、何通かの手紙をのせた銀盆を持ったパーカーが入ってきたのだ。
「夕方の郵便物でございます」執事は銀盆をアクロイドに渡した。
それからコーヒーカップを集めて、出て行った。
(ハヤカワ文庫・田村隆一氏)
----------
わたしは言葉を切った。ドアが音もなく開いて、パーカーが幾通かの手紙をのせた銀盆をもってはいって来た。
「夕方の配達でございます」と彼は云って、銀盆をアクロイドに渡した。
それから、彼はコーヒー茶碗を集めて出て行った。
(新潮文庫・中村能三氏)
----------
「それはそうですね。あなたがお考えになるように夫人から……」と私がいいかけたところへ、パーカーが音もなく戸をあけて入ってきたので、私は言葉をきった。
「だんな様、お手紙がまいりました。」
パーカーは銀盆にのせた通数の手紙をアクロイド氏にさしだした。そして、そこにあつたコーヒー茶碗をまとめて部屋を出ていつた。
(ハヤカワ・ミステリ224・松本恵子氏)