ようやく『Never Let Me Go』読了。イシグロ、イシグロ、と言っているわりには、これが2冊目のイシグロとは、自分でも意外だ。
時代もテーマも全く違うにもかかわらず『The Remains of the Day』のStevensの思考が思い出されるのは、きっとそれがイシグロ特有の思考回路だからだろう。
「このミステリーがすごい!2007年版」の海外編BEST10で、本書の訳本『わたしを離さないで』(早川書房)は第10位に挙げられている。けれど、いわゆる謎解きとは一線を画す。アーサー・C・クラーク賞の候補になったくらいだから、SF色が強い、ということか。
柴田元幸氏は解説でこう書いている。
『日の名残り』までは、要するに現実に何が起きたのかを解き明かすこともある程度大きな要素だったのに対し、その後は次第に、一人の人間の頭のなかで起きていることが主要な関心事になってきたとも言える。
その意味では、今回の『わたしを離さないで』は、いわばカズオ・イシグロ自身の頭のなかで醸造された奇怪な妄想をとことん膨らませ、持ち前の緻密な書きぶりを駆使して強引かつ精緻に最後まで書き切ったような迫力がある。(P.346)
その「奇怪な妄想」が決して彼だけの妄想ではなく、どこかの国のどこかの場所で実際にありえそうなこと、決してないとはいえないことだからこそ、多くの読者が思わずページをめくってしまうのかもしれない。同じようなテーマで、ジョディ・ピコが『My Sister's Keeper』(邦題『わたしのなかのあなた』川副智子訳 早川書房)を書いている。これも読んでみたい。
『Never Let Me Go』を翻訳し『わたしを離さないで』という作品に仕上げたのは土屋政雄氏。ひとつの作品で二度楽しめるのは、すばらしい翻訳家がいるおかげだ。ちらっとページをめくると、「です・ます」調で書かれている。えっ、出だしからわたしの『Never Let Me Go』と違う。はて、本当に違うのか、違うのならどう違うのか。土屋先生はどうやってイシグロの世界を見せてくれるのか。さぁ、『わたしを離さないで』を楽しむとしよう。

