goo blog サービス終了のお知らせ 

「長野でのんびり翻訳生活」の野望

翻訳とか原書を読む会とか

肯定ではない二重否定

2011-06-22 08:34:28 | The Murder of Roger Ackroyd

「否定+否定=肯定」。単なる肯定よりは奥歯にものが挟まったようなといえばいいのか、もったいぶった言い方といえばいいのか、慇懃な表現と言えばいいのか、ええ~ぃ、そうなのか、そうじゃないのか、はっきりしろよ、的な感じがしないでもない。

でも、『英文法解説』には、「否定が2つ重なっても否定の意味になる二重否定(Double Negation)があり」(P.164)と書かれている。本来、語学での二重否定というのは、そういうことを指すそうだ。ふへ。例文は、「He couldn’t find it nowhere.」。つまり、見つけられなかったという意味。ややこしい。コンテクストや誰のせりふなのかによって、解釈を変えなければならないということだ。

で、問題のせりふは、Carolineのもの。執事はいないものの、ハウスメイドは雇っているお宅のお姉さまだ。親の遺産でのんびりと暮している。上記の「否定の意味になる二重否定」を使うタイプの人とは思えない。

原文紹介。見つかった結婚指輪について、CarolineJamesに自説を披露するところだ。

‘Mark my words,’ she said suddenly, ‘I shouldn’t be at all surprised if Geoffrey Raymond and Flora weren’t married.’
‘Surely it would be “From G.,” not “From R.” then,’ I suggested.

‘You never know. Some girls call men by their surnames. And you heard what Miss Gannett said this evening --- about Flora’s carryings on.’ (P.245)

問題は、

I shouldn’t be at all surprised if Geoffrey Raymond and Flora weren’t married.

FloraPatonと婚約している。なので、「RaymondFloraが結婚していなくても、ちっとも驚かない」はヘン。当然のことだから、驚く人がいるはずもなく、わざわざ言及する価値もない。だから、話の流れとしては、「RaymondFloraが結婚しているとしても、全く驚かない」つまり、if以下が肯定文になってくれないと、困る。とても困る。既訳もそのように解釈していた。

はて、この「二重否定」はどう解釈すればいいのか。

それで、『英文法解説』をもう少し見てみた。書き込みがあるので、きっと何度もチェックしているページ何だろうなぁ。全く記憶にないけれど。

果たして、探し物が見つかった。

「同様に非合理的なnotが、驚きや疑いを表す一定の口語表現で使われることがある」(P.164

例文は、I shouldn’t be surprised if it didn’t rain (= rained). (ひと雨あって当然だろう)

さすが『英文法解説』。(ちょっと読みづらいのはご愛きょう)

さぁ、皆さん、ご一緒にポチっとな。

英文法解説 英文法解説
価格:¥ 1,785(税込)
発売日:1991-06

で、結局、すべてはコンテクスト次第、っていうこと?


関係代名詞のbut

2011-05-17 13:55:20 | The Murder of Roger Ackroyd

The Murder of Roger Ackroyd。Mrs. Ackroydが義理の兄RogerのケチっぷりをShepperdに訴える場面。

A martyrdom -- a long martyrdom. That’s what my life has been. I don’t like to speak ill of the dead -- but there it is. Not the smallest bill but it had all to be gone over -- just as though Roger had had a few miserly hundreds a year instead of being (as Mr Hammond told me yester day) one of the wealthiest men in these parts.’ (P.208)

問題は、Not the smallest bill but it had all to be gone over。どんなに小さな請求書でも事細かにチェックする、と言いたいのではないだろうか。既訳も「どんな些細な請求書もいちいちチェックされたんです」(早川書房 羽田詩津子訳 P.251

ひょっとしたら、Not the smallest bill but had all to be gone over.とか? それなら、butを関係代名詞と捉えれば解決する。つまり、

There was not the smallest bill that did not have all to be gone over.

ちょっとした請求書であっても、隅から隅までチェックされずにすむものはなかった。(試訳)

タイポ説はあんまりか……。


What little と No object/moving it

2011-01-11 07:28:30 | The Murder of Roger Ackroyd
The Murder of Roger Ackroydから。

Sheppard Parkerがドアを蹴破って書斎に入るも、Ackroydはアームチェアに座ったままだ。部屋着の襟の下には、短剣が刺さっているのが見える。

20110111064515

I did what little had to be done. 医師でもあるSheppardに、やるべきことはどのくらいあったのか。No object以下の意味は?

what little [little名詞] {修飾する節を伴って}わずかながらすべてのもの,なけなしのもの. 例文)He did what little [=the little that] he could. 微力ながら彼はできるだけのことをした.(ランダムハウス)

【既訳】

 やるべきことはほとんどなかったが、わたしはそれをすませた。死体の位置は変えないように、そして、短剣にも触れないように注意した。短剣を抜いても、何もならなかった。アクロイドは明らかにしばらく前にこときれていたからだ。(ハヤカワ文庫・羽田詩津子氏 P.83

----------

 すべきことはしたが、死体を動かさないように、短剣には手をふれないように注意した。短剣を抜き取ったところで、もはやなんの役にも立たなかった。アクロイドは、明らかに、かなり前にこと切れているからだ。(創元推理文庫・大久保康雄氏 P.78

----------

 しておかなければならないことがいくつかあったので、私はそれをかたづけた。死体の位置を動かしたり、短刀に手を触れたりしないよう、よく気をつけて行動した。短刀を抜き取ったとしても、もはやどうしようもない。かなり前にこときれているのは明らかだった。(ハヤカワ文庫・田村隆一氏 P.66

----------

 ちょっとしたことだが、しなければならないことがあったので、わたしはそれをかたづけた。そして、死体の位置を動かさないように、短刀に手を触れないようにと注意した。短刀を抜いても、なんの役にもたたなかった。アクロイドがかなり前にこときれているのは明らかであった。(新潮文庫・中村能三氏 P.67

----------

 私のなすべき事はごくわずかであつた。私は死がいの位置をうごかさないように注意し、短刀には全然手をふれないでおいた。アクロイド氏が死んでから、かなりの時間がたつていた。(ハヤカワ・ミステリ224・松本恵子氏)

---------

【試訳】

わずかしかないとはいえ、私はやるべきことをすませた。体の位置をずらさないように、短剣には一切触れないように気をつけた。今さら短剣を抜き取ったところで、何の役にも立たない。アクロイドがしばらく前にこと切れたのは明らかだった。


salver

2010-12-23 07:52:16 | The Murder of Roger Ackroyd

つまらないことって気になりだすと、気になって仕方ない。今度はトレーのこと。

映画監督だとしよう。この場面を撮影するとき、執事役にどんな動きの指示を出せばいいんだろう。トレーは何枚用意すればいい?

I broke off. The door opened noiselessly and Parker entered with a salver on which were some letters.

‘The evening post, sir,’ he said, handing the salver to Ackroyd.

Then he collected the coffee cups and withdrew.

(The murder of Roger Ackroyd, P.61, HarperCollins)

                        

 私は口をつぐんだ。音もなくドアが開き、パーカーが入ってきたのだ。封書が何通かのった小さな銀盆を手にしている。

「夕方の郵便物でございます」パーカーはそう言いながら、アクロイドに銀盆を手渡した。

 それから、置いてあるコーヒーカップを集めると、部屋を辞した。

アクロイドが手にしたのは何か。手紙だけか、盆ごとか。このときパーカーが持っていたsalver、四角くて枠のついたものをイメージした。間違いなくピッカピカのシルバー。でも、ググると丸っぽくて足のあるタイプしか出てこない……。コーヒーカップを運ぶ盆と手紙を載せる盆が同じとは考えにくいので、コーヒーを下げるために使われた盆は、パーカーが前にコーヒーを持ってきたとき、この部屋に置いたままだったのではないかと想定(as Parker entered with the coffee tray, P.54)。今回のsalverは、今、アクロイドの机の上にあるのでは。

-----

【既訳】-----

 わたしは言葉を切った。ドアが音もなく開き、パーカーが手紙を何通かのせた盆を持って入ってきた。

「夕方の郵便物でございます」パーカーはアクロイドに差し出した。

 それからコーヒーカップを集めて、部屋を出ていった。(ハヤカワ文庫・羽田詩津子氏)

----------

 私は口をつぐんだ。ドアがあいて、パーカーが何通かの手紙をのせた銀盆を持って入ってきたからだ。

「夕方の郵便がまいりました」銀盆を渡しながら彼は言った。

 そして、コーヒーの茶碗をかたづけて出て行った。(創元推理文庫・大久保康雄氏)

----------

 私は口をつぐんだ。ドアが音もなく開いて、何通かの手紙をのせた銀盆を持ったパーカーが入ってきたのだ。

「夕方の郵便物でございます」執事は銀盆をアクロイドに渡した。

 それからコーヒーカップを集めて、出て行った。

(ハヤカワ文庫・田村隆一氏)

----------

 わたしは言葉を切った。ドアが音もなく開いて、パーカーが幾通かの手紙をのせた銀盆をもってはいって来た。

「夕方の配達でございます」と彼は云って、銀盆をアクロイドに渡した。

 それから、彼はコーヒー茶碗を集めて出て行った。

(新潮文庫・中村能三氏)

----------

「それはそうですね。あなたがお考えになるように夫人から……」と私がいいかけたところへ、パーカーが音もなく戸をあけて入ってきたので、私は言葉をきった。

「だんな様、お手紙がまいりました。」

 パーカーは銀盆にのせた通数の手紙をアクロイド氏にさしだした。そして、そこにあつたコーヒー茶碗をまとめて部屋を出ていつた。

(ハヤカワ・ミステリ224・松本恵子氏)