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「長野でのんびり翻訳生活」の野望

翻訳とか原書を読む会とか

drawers

2008-06-27 16:21:22 | Angela's Ashes

昨日はフルコースだった。

原書を読む会→小学校(授業参観・中学入学願書関係・PTA)→プライベートレッスン(ちなみに生徒役)→塾お迎え(15分、時間を間違えてしまった)→レイトショー(なんと『インディー・ジョーンズ』さ。軍隊ありに食べられる夢を見なくてよかった……)

引きこもりの身ゆえ、一日中外に出ていると結構つらい。朝、5時前に起きられたのは奇跡だと思う。

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小説を読んでいると、何でこれがあるんだろう、と不思議に思う文章に出会う。そういう場合は、たいてい意味そのものや、言葉のおもしろさが理解できていない。昨日の『アンジェラの灰』でも、そんなちょっとした、でも、ふふふ、と笑ってしまうような見逃せない1文に出会った。

郵便局の電報配達係としてアルバイトで働くようになったフランキー。職場の年季の入ったおばさんが、これはしちゃいけない、あれはしちゃいけないと講釈をたれている。

Mrs. O'Connell and Miss Barry at the post office tell us everyday our job is to deliver telegrams and nothing else. We are not to be ding things for people, going to shop for groceries or any other kind of message. They don't care if people are dying in the bed. They don't care if people are legless, lunatic or crawling on the floor. We are to deliver the telegram and that's all. Mrs. O'Connell says, I know everything ye do, everything, for the people of Limerick have their eye on ye and there are reports which I have here in my drawers.

A fine place to keep reports, says Toby Mackey under his breath.P.316

配達しに行った先で、人が死にかけていても気にしちゃいけないらしい。電報を配達するのが仕事だから。こういうエピソードがテンコ盛りなので、結構気が滅入るが、最後のセンテンスで、おやっ、と思った。

A fine place to keep reports」はトビーが(たぶん)「ちっ」と舌打ちしながら、ぼそぼそ呟いたセリフだ。「ふん、そりゃぁ、いい保管場所だよなぁ」→「そんなところに置いてりゃ、誰も見られやしない」→「本当に報告書なんてあるのかよ」という流れかな、と考える。

でも、それではおもしろくない。この本がいいのは、極端に悲しくなるような話でも、カラッと書かれているところ。「ふん、そりゃぁ、いい保管場所だよなぁ」では、わざわざこの1文が書かれた意味がない。

そんなかんなでモタモタしていると、「drawerがダブルミーニングなのでは?」と参加者からの天の一声が。「drawerは、確かに引き出しという意味もあるけれど、昔でいえば、ズロースという意味もあるから、それにひっかけているのではないかしら?」

ほぉぉぉ~、マダムの口から「ズロース」などという言葉が出てくると、乙女のわたしとしては赤面してしまうが、うむむむ、きっとそうに違いない、絶対間違いない。「パンツの中に隠せば、そりゃぁ、誰も見られないわなぁ」

さてさて、では土屋さんの訳はどうなっているのか。

リムリックの人々があなたたちのやることを見ていて、報告をくれます。あっちこっちから寄せられた報告が、私のこのブリーフケースに詰まっています。

ブリーフじゃなくてズロースだろう、とトビー・マッケイがつぶやく。(下巻 P.278

わたしが山田君なら座布団10枚。あなたならどう訳す?


今度はodd

2008-02-10 15:37:59 | Angela's Ashes

「傷の入ったリンゴやくさったリンゴは在庫の数には入れない」だのなんだの、そういう本を訳していたからだと思う、「the odd apple」と書いてあるのを読んで、商品にならないリンゴを即座に思い浮かべてしまった。

Will that horse fall down hungry for the want of oats and hay and the odd apple? (P.265)

調子の悪いMr. Hannonの手足となり、石炭を運び、馬を操ったFrankie。初めて稼ぎを一銭残らず家に入れて「男」になって有頂天だったが、その喜びもつかの間、Mr. Hannonの足の傷が悪化し、石炭運びの仕事もおしまいになってしまった。稼げない自分もかわいそうだけれど、主をなくした馬もかわいそう。エサももらえずに飢え死にしてしまうかもしれない。そんな場面の一文だ。

まず「apple」に複数の「s」がついていないことにフト気づいた。なぜapplesじゃないんだろう。いやいや、それ以前の問題だ、馬にやるエサのリンゴに形が良いも悪いもなかろう。つまり、「odd」≠「普通でない」。「odd」には他にも「残り物の」とか「時たまの(= occasional)」という意味もある。

COBUILDにはこう書かれている。

You use odd before a noun to indicate that you are not mentioning the type, size, or quality of something because it is not important. =occasional

土屋氏の訳はこれだ。

オート麦と干し草と、たまにはリンゴを食べさせてやらなかったら、馬はお腹をすかして倒れてしまう。(下 P.172

「自分の解釈ではどこか変だ」と思うようになるには何が必要なのだろうか。文法力か? もちろん文法を知らなければお話にならない。でも、それとは別の何かが必要なのだと思う。どこまでその場面に入っているか、なのかもしれない。自分の描いたストーリーを「あれ?」と思える第3の目を鍛えないと。


どうして「全部」なのか

2008-02-08 06:31:25 | Angela's Ashes

きっかけは

We have the sixteen bags delivered by noon.

(P.264)だった。

なぜWe deliver the sixteen bags by noon.ではないのか、なぜそれではダメなのか(『Angela's Ashes』の文章は基本的に現在形で書かれている)。have+目的語+過去分詞はよく見かける表現で、例文として I have my hair cut.. (あたし、髪、切ったの)がすぐ思い浮かぶ。

ノグチさんが英文学を専攻する日本語ばりばりの英国人ネイティブに聞いてくれた。その彼によれば、このhaveは「使役」のhaveらしい。「使役」という日本語を知っているなんざ、隅に置けない。

えっ、ということは何? つまり、例のI have my hair cut.と同じということですかぁ~? ふぇっ?!

わたしはとてもかわいい中学生だった頃、「I cut my hair.」と言ったら、先生から「へぇ、どのヘンを自分で切ったの?」とにやにや笑いながらいじめられた経験がある。そんなわたしには、3○年越しのビックリだ。使役のhaveといえば、自分ではない誰かにやってもらう、あるいは、やらせる動作の場合に使うのではなかったのか?! だから、「使役」っていうんでしょう?!

ところが、だ。彼いわく、この文章の場合、主眼は動作の主体ではなく、袋が運ばれたという状態に置かれている。だから、運んだのは自分達かもしれないし、自分達が頼んだ誰かかもしれない。重要なのは「誰が」ではない――なるほど。

そうなのか、I have my hair cut.でも、ひょっとしたら自分が髪の毛を切ったかもしれないんだ、前髪とか……そうだったんだ……へぇ~、へぇ~、へぇ~。

で、しつこいけれど、『ランダムハウス』を調べてみた。have + 目的語 + 過去分詞(あるいは原形不定詞、現在分詞)の場合、haveの解釈には4つあるそうだ(そういえば、ノグチさんもそんな説明をしてくださったっけ)。

使役:させる、してもらう

経験:される

被害:される

完了:してしまう、し終える

う~ん、We have the sixteen bags delivered by noon.haveは「完了」なのではなかろうか。そうそう、ノグチさんも同じことを指摘されていた。今回の文章とほとんど同じような例文も『ランダムハウス』に載っている。「Have the job finished by noon. 正午までにその仕事を仕上げなさい」

でも、考えてみれば、使役だの、経験だの、完了だのは、後付の説明にすぎない。Collins COBUILDをみると、「If you have something done, someone does it for you or you arrange for it to be done.」ともある。この文章でフォーカスされるべきなのは、英国人ネイティブが説明してくれたように、「誰が」ではなく、袋を配達し終わったという事実なのだろう。

金子書房の『英文法解説』も開いてみる。haveの解釈は基本的に「目的語を過去分詞の状態で持つ」だそう。使役だの、なんだのは、前後関係によって決まるらしい。

She had a book stolen from the library. という文を前後関係なしに解釈すると、「本を盗まれた」と「(人を使って)本を盗ませた」のどちらも可能であり、「盗まれた本を持っていた」(She had a book [which was] stolen from the library.)という解釈も当然成り立つことになるとQuirkCGEL, §16.54n.)が言っている。(P.286

げげげ、怖ろしい。本を持っているのと、持っていないのとではえらい違いだ。

ちなみに、土屋氏は「We have the sixteen bags delivered by noon.」をこう訳されている。

お昼までには十六袋全部の配達がすんだ。」(下巻 P.170)。

weが誰で、どうやってthe bagsdeliverしているのか、なぜwedeliverすることになったのか、それまでの内容をよくわかっているからこそ「配達がすんだ」という言葉を選択できる。言葉を訳すのではない、本来その文章が持っている意味を訳してくれている。

そして、なぜ「全部」なのかも、少しわかってきた。


done と blanket

2008-01-10 14:26:26 | Angela's Ashes

今年も原書を読む会を始まった。皆さん、元気に読んでいきましょう!

早速、アンジェラで発見あり。

P.253 ~if they go they can stay gone, she's done baking bread, she's never going to the lunatic asylum again, if he brings that child home drunk she'll go to Scotland and disappear from the face of the earth.

病院に度々送られたことがある「彼女」は、病院に入る前、自分が留守中に家族が困らないようパンを何日分も焼いておくのが習慣だった。そのパン焼きをdoneだという。さて、このdoneって何?

ここは形容詞で、fed up with exhausted と解釈すればいい。オザワさんからP.216 the lower classes who fill the tuppenny seats in the gods at the Lyric Cinema and are never done shouting at the screen, にも同じ使い方があったと教えてもらった。よく覚えていらっしゃる。さすが。今年も皆さんの明晰な頭脳が頼りです。

もう一つ、people conceived beyond the blanketP.254)。conceivedには思わず、What's that?と聞きたくなったが、Frankyがしっかり代わりに尋ねてくれている。That's when the sperm hits the egg and it grows and there you are nine months later.だそうだ。ふ~む、保健の時間のようなわかりやすい説明をありがとう。それから、blanketという言葉も奥が深くて学びが多くある。the blanketthe wrong sideだけは使わないようにしないとね。

そんなシモネッタ~で今年もスタートだ。


行間

2007-09-01 17:29:33 | Angela's Ashes

先週の土曜日、鉛のような大鞄を抱えて都会を歩いたせいか、どうもあの日から腰の痛さが尋常でない。ブヨブヨがほんの少し減ったおかげで、せっかく立ったまま靴下を履けるようになったというのに、今じゃパンツを下ろすのも一苦労だ。

そんなわたしに今日は学校の草取りが待っていた。何かの罰ゲームか、こりゃ。「ゴメンなさい」しようかとも思ったが、その勇気がないものだから、1時間半がんばらせてもらった。どうか、「あ~ぁ、あのときやっぱり断ればよかった……」な~んてことになりませんように……。

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行間をどこまで表現するのか。

著者が直接言葉で伝えたいこと、言葉を使わずに伝えたいことが文面からドンピシャと分かれば、おのずと答えが見えてくる。翻訳とはその答えの連続であるようにも思う。

まっ、行間をどこまで書けばいいのかが分かれば、今わたしは翻訳家の受精卵であるわけがなく(ちょっと前まで、自分が「翻訳家の卵」である妄想を抱いていた。ようやく最近、まだ受精卵にすぎない存在だと認識。残念ながら100歩後退だ)、師を煩わせることもなく、トットと一人前の翻訳家に成長しているはずなんだけど。

Angela's Ashes』を読んでいると、行間がことさらに重要であるように感じる。思わずマコートに電話して、一文、一文確認したくなるほど。

たとえば、先週読んだ箇所でマコートに電話したくなったのはここ。

(腸チフスで死の淵をさまよったフランキーだったが、なんとか一命を取りとめた。元気になるにしたがい、隣室のジフテリアのパトリシアと仲良くなる。でも、おしゃべりは禁止されている彼ら、詩を読んでいるところを看護士に見つかり、フランキーは大目玉をくらう。「おしゃべりはダメだ、といっているのに……違う階の病室に移りなさいっ!」と怒られてしまった。シスターもお冠だ)

Sister Rita stops us in the hall to tell me I'm a great disappointment to her, that she expected me to be a good boy after what God had done for me, after all the prayers said by hundreds of boys at the Confraternity, after all the care from the nuns and nurses of the Fever Hospital, after the way they let my mother and father in to see me, a thing rarely allowed, and this is how I repaid them lying in the bed reciting silly poetry back and forth with Patricia Madigan knowing very well there was a ban on all talk between typhoid and diphtheria. She says I'll have plenty of time to reflect on my sins in the big ward upstairs and I should beg God's forgiveness for my disobedience reciting a pagan English poem about a thief on a horse and a maiden with red lips who commits a terrible sin when I could have been praying or reading the life of a saint. She made it her business to read that poem so she did and I'd be well advised to tell the priest in confession. (SCRIBNER P.198)

引用符を一切使わないスタイルなので、慣れるまでは???だが、これが慣れると自然に読めるようになるのだから、不思議だ。時制のあり方はちとややこしくて、いまだに四苦八苦しているが……。問題は、Sheで始まる太字部分の最終文。sheはシスター・リタ、Iはフランキーのこと。あなたたちが何を読んでいたのか把握するのはわたしの務めでもあります、だから、読ませてもらいました、しっかり司祭様に懺悔なさい、いいですね、とシスター・リタは言う。さて、土屋先生の訳はこうだ。

なんで詩の内容を知っているかですって? あなた方が何を読んでいたのかを知るのは私の仕事ですからね、私もその詩を読みました。フランキー、あなたは不服従の罪を神様に謝って許しを乞いなさい。告解でも、司祭様によくお話するのですよ。(新潮文庫 下巻 P.28

「あなたは不服従の罪を神様に謝って許しを乞いなさい。」はもちろんのこと、なんで詩の内容を知っているかですって?」ですって?! 君はこの一文を書けるか?! わたしゃ、とても、とても……。