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「長野でのんびり翻訳生活」の野望

翻訳とか原書を読む会とか

smelling salts と水銀の体温計

2008-07-05 17:16:56 | The Thirteen Problems

クリスティーの本には薬物がよく登場する。看護士や薬剤師としての経験が色濃く反映されているからに違いあるまい。特に、一時日本でも流行っていた(?)青酸カリ(potassium cyanide)はお馴染みさんだ。ミス・マープルの'The Blue Geranium'も例外ではない。

この話の中には smelling saltsなるものも登場する。辞書を引くと、「芳香塩、かぎ薬、気付け薬」などと書かれている。芳香塩は、ラベンダーなどのエッセンシャルオイルと一緒に使うと、リラクシゼーション効果があるらしい。また、刺激臭を放つので、気を失った人に嗅がせると意識が回復する。映画やドラマで、そういうシーンを見かけたことが何度もある。ちょっと昔の洋画で、長いドレスの貴婦人らしき女性たちがなよなよと倒れこむ、あれだ。彼女たちの場合はフリではなく本当に失神していて、気付け薬の瓶を手放させないのにはちゃんとした理由があるという。現在では、スポーツ選手が使っているという記述も見かけた。

炭酸アンモニウム――と言われてもよくわからないが、Wikipediaの「空気中に放置してもゆっくりと二酸化炭素とアンモニアを放出しながら分解し~水溶液は塩基性を示す」で、ふ~ん、だからあのトリックが使えるのか、と思わず納得する。

でも、実際にはどんなものなのだろう。ひとまねこざるになった気分で、薬局に行ってみた。軽い気持ちで「気付け薬、ありますか?」と聞いたら、お姉さんの眉間に皺が寄った。「はぁ~?」という声まで聞こえてきそうだ。

「き、何ですか?」

「き・つ・け・ぐ・す・りっ」

「ひきつけの薬ですか?」

「……。いいえ、気付けの薬です」

引き下がればいいものを、何としてでもこのお姉さんに理解してもらいたくなった。こういうときの自分の脳の動きを見てみたい。「失神した人に嗅がせたりするんですよ」ウンヌンカンヌンと説明してみたが、結局「何言ってるんだかよくわからないおばさん」になりさがって幕が閉じた。

気付け薬が置かれていないのはわかった。でも、「気付け」という言葉さえ今は使われていないらしいと知って、複雑な気持ちになった。

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オオクボ調査によると、どうやら最近では「水銀の体温計」も通じないらしい。世の中は少しずつ変わっている。


「疑い」と「可能性」

2008-02-25 15:19:17 | The Thirteen Problems

question というのは実に厄介な言葉で、出会うたびにドギマギする。厄介な言葉がquestionだけなら、ドギマギしたところで大した問題ではないかもしれないのだけれど、他にも厄介な言葉を抱えているものだから、なるべくドギマギ度を低くしたいと思う。

そう思っていはいるものの、P.96questionにすっかり振り回されてしまった。余命幾ばくもない大富豪の遺産相続に関して、本人直筆の遺書の正当性を論じる場面だ。heは大富豪、I solicitorEurydiceは大富豪の家にもぐりこみ、彼の心をつかんだ霊媒師のこと。

He produced a sheet of paper with a few words roughly scribbled on it in pencil. It was quite simple and clear. He left ???5000 to each of his nieces and nephew, and the residue of his vast property outright to Eurydice Spragg 'in gratitude and admiration.'

I didn't like it, but there it was. There was no question of unsound mind, the old man was as sane as anybody.

Iはこの遺書の内容を気に入らないが、富豪本人がそう書いたのだから文句の付けようもない、その上、There was no question of unsound mindなのだから。

さて、questionには二つの意味がある。疑いと可能性だ。そうすると上の一文は、questionが「疑い」なら、no questionは「疑いはない」で「精神異常なのは明らかだ」。ところが、「可能性」なら、「精神異常であるはずがない」。正反対の意味になる。

一体、どちらなんだ……と思う間もなく、コンマに続いて畳み掛けるようにthe old man was as sane as anybody.がくる。つまり、このquestionは明らかに「可能性」の意味で使われているということ。このコンマを、「つまり」と読んであげればいい。

「じゃあ、はじめっから、There was no question of unsound mind、なんて言わなきゃいいのに」な~んて思う人は顔を洗って出直そう(ハイ、顔を洗って出直します)。

そんなわけで、明日はP.97'"I want you to witness my will. Emma, get me my fountain pen."から読みます。


「海水着」の怪

2008-02-06 09:48:35 | The Thirteen Problems

第4章、「The Bloodstained Pavement」。終ってしまった。でも、どうしても納得いかない。納得いかないのは「two bathing dresses」だ。

I gathered that the bathing party had returned safely, because two bathing dresses, a scarlet one and a dark blue one, were hanging from the balcony, drying in the sun. (P.77)

Innの前に陣取って絵を描いていたJoyceが、balconyに干してある水着を見て、「あぁ、みんな水浴びから戻ってきたんだな」と思うシーン。この時点で読者が知っている情報は、水浴びに行ったのが、Denisと野暮ったいMargery夫婦と派手ハデCarolの3人だということ。CarolDenisの古い知り合いで偶然Innで再会した。水浴びスポットへは3人一緒に行かず、夫婦はボートを使って海ルート、ボート嫌いのCarolは岩場を歩いての陸ルートだった。

さてJoyceが見たのはどんな水着なのか?

両方とも婦人ものの水着? でも、部屋の主の水着なら、Denis Margery 夫婦のもののはず。紳士ものでも「dress」というのか。「scarlet と「dark blue」が暗示しているのは何か。

この後の展開を考えると、どうにもこうにも納得がいかない「two bathing dresses」だ。

ちなみに既訳は以下のとおり。

海水浴に行ったあの三人も無事に帰ってきたのでしょう、赤いのと青いのと海水着が二つ、バルコニーに吊るしてほしてありました。(ハヤカワ、P.102

海水浴に行った三人も無事に帰ったとみえて、まっ赤なのと紺色のと二つの水着がバルコニーにほしてありました。(創元、P.76

それにしても、「海水着」。妙になつかしい響きではありませんか。


Dr Symonds

2007-11-05 12:30:19 | The Thirteen Problems

P.43 警察はMiss Ashleyの尋問を行いたいが、医師のSymondsが頑なに拒絶する。

They evinced a strong desire to cross-examine Miss Ashley, but there they ahd to reckon with Dr Symonds, who opposed the idea vehemently. Miss Ashley had come out of her faint or trance and he had given her a long sleeping draught. She was on no account to be disturbed until the following day.

She was ~で始まる最終文。果たしてこれは事実なのか、それとも、Dr Symondsの主張なのか。

■明日はP.46 There was a silence.より読みます。


Idol Houseを作ったのは誰だ?

2007-10-22 11:17:42 | The Thirteen Problems

P.34 There is, I believe, one known Grove of Astarte in this country --- in the North on the Wall.

the Wall というと、カーライル(イングランド)近郊東西に走る「ハドリアヌスの長城のことを思い浮かべます。ただし、このthe wallは、場所がDartmoorであることを考えると、Dartmoor Wallだと思った方がよさそうです。

P.34 '"In the centre of the Grove there should be a Temple," he said. "I can't run to Temples, but I have indulged in a little fancy of my own."

'we had at that moment stepped out into a little clearing in the centre of the trees. In the middle of it was something not unlike a summerhouse made of stone.

ヤナギサワさんのおっしゃるとおり、Haydon自身がthe Idol Houseを作った、もしくはHaydonが作らせたと考えるべきでしょう。GroveHaydonの所有地、しかも、自分のが欲しい、と言っているのですから。極めつけがrun to。これはaffordと同じ意味になります。ランダムハウスの例文は「My income won't run to that house. 私の収入ではあの家は借りられ[買え]ない.」。

ハヤカワ:「この森の中には本来なら寺院があるはずなんだろうがね。ぼくにもそこまでは手が回らなかったんだ。しかし、ちょっとばかり気まぐれをやってみたよ」

創元:「森の中央には聖堂があるはずなんだ。ほんとうに聖堂があったかどうかまで、まだわからないが、自分で気まぐれに空想して楽しんでいるんだ」

試訳:「この森の真ん中には聖堂がなくちゃねぇ。聖堂を作るだけの余裕はないけれど、ぼくにはこれがあるからね」

ご指摘どおり、can'tが重要でした。白旗です。でも、しつこくて申し訳ないのですが、どうしても、こういうチマチマしたことをしそうな人には思えないんだけど……上流階級の方々の考えはよくわかりません。ちなみに私の中でHaydonはバリバリのbiです。

■明日はP.37 中頃の'After dinner we went outside. It was a lovely night, warm and soft, and the moon was rising.から。