冷え冷え

今日はリハビリだった。今日から悪い方の足に2kの加重をしての訓練が始まった。とにかく日々の訓練が成果を出せば良いが..。そして午後からは「コロナワクチン5回目接種」に行く。ともかくも副反応に怯えている。

　指先の冷え冷えとあり今日の朝

◉連載小説「医と筆と」26

　そんな矢先のことである。訪いを入れる聞き覚えがある声は吉原の面番所に詰めている同心、岸田与衛門である。湊の往診帰りを待つかのように慌ただしくやってきた。つい十日も前に吉原への往診の折り、言葉を交わしたばかりであった。

「これは、与衛門殿、いったい何用ですか」

　丁度、患者も切れやっと静かになったところで、与衛門は噴上る汗をふきふき診療部屋まで上がってくると、おうめが差し出す冷えた麦湯を一息に呑み干した。走ってきたのだろう、袴の股立を端折り背中は汗でぐっしょりと濡れており湯気が立つようである。夕餉の支度をしているお滝の傍らで順庵の好物、茄子の田楽を造っていた吉乃も襷を外し急いで土間から上がってきた。

「それが、お主にいつぞや聞いたことがある亀吉の出生のことで、かねがね気に留めてはいたのだが、もしや関わりがあるのでは、と思われる女子が源森橋(みなもりばし)袂の桂木宗山先生のところに担ぎ込まれておるのです」

　源森橋といえば吾妻橋手前より源森川に掛かる小さな橋で遠くはない。湊は思わず腰を浮かす。

「なに、それは真実(まこと)ですか」

「あそこ辺りは源森橋の自身番の管轄ですが、実は私はそこの同心のものと昵懇の間柄でして、たまたま、近くに出向いたついでに立ち寄ったのですが、話によれば今朝方、その女子は血まみれで道端に倒れており、すわっ、刃傷沙汰かと馳せ参じたそのときは、もはや虫の息だったようで」

「刃傷沙汰ではなかったのですね」

「労咳(ろうがい)です。血を吐くだけ吐いており、もはや半日は持つまいと、医者の診たてです」

「して、そのなにゆえ、その女子が亀吉の母親とは」

「はい、病からして住まいはそう遠くではあるまいと訊き込んだところほどなく分ったそうです。その女子は名前をあやめと名乗っておりまして、浅草堂前近辺の切り店で人参十本分の安い銭で体を売る、ちょんの間稼ぎ。俗にいうところのお百さんと呼ばれる女子だそうです。ここからが肝心なのですが、何でも、同業の女子どもの話によれば、酒を呑んでぽろりと漏らした身の上話がどうも気になることなんですよ」

「して、それは、何と」

「何でも育てられずに捨てた子どもがいる。という話でして、しかも、自分のせいで子どもは片腕が利かぬ知恵遅れに産まれてしまったと泣いていたと」

「それならば、間違いはないようですね、しかし、こんな近くにいたとは」

　思わず絶句する。与衛門は話の先を続けた。

「男に盥回しにされできた子で父親(てておや)は分らぬそうで、自分だけでは育てることは到底出来ない、と踏んで捨ててきたものの、やはり母親ですねぇ、離れきらずに子どもの様子の分る、近辺に隠れ住んでいたようです。たまに子どもの様子を見ていたのか、酒に溺れてそんなこともついぽろりと」

　話を聞き終わらぬうちに吉乃はもう外出の支度をしていた。宗也とおうめに後を頼むと湊と共に駆けつけたのである。