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聖教新聞 〈揺れる欧州統合 英国離脱の衝撃〉 第6回 シルバー民主主義 (2016. 9.11.)

2016年10月03日 22時18分39秒 | コラム・ルポ

〈揺れる欧州統合 英国離脱の衝撃〉 第6回 シルバー民主主義2016年9月11日

オールドストリート駅周辺の路地裏でストリートアート作品を描く若者たち

 

 

 

世代間の亀裂が露呈
残留求め大規模デモ

 「リグレジット」――後悔を意味する「リグレット」と、出口を意味する「エグジット」をつなげた新たな造語である。選挙期間中の離脱派の“ウソ”や、国民投票の“まさか”の結果に、自身の選択が安易だったと後悔する人々の悲痛の表現だ。離脱という結果は英国民に衝撃を与えたが、とりわけ失望しているのは、未来を担う若者たちである。第6回のテーマは、中高年の世代の意思が幅を効かす一方で、青年世代の声が尊重されにくい「シルバー民主主義」について。最新の英国内の動向と重ね併せてまとめた。(樹下智記者)

若者たちの不満が噴出

 「欧州のどこでも、学び、働き、生活し、定年退職できる私たちの権利を守れ」――9月3日、ロンドン。国会議事堂の周辺がEU旗の青一色に染まる。英国のEU離脱(=ブレグジット)反対のプラカードを掲げた人々の叫びが、首都の心臓部にこだました。
 「EUの中の英国」が常態だった若者世代にとって、EU域内での自由な移動、雇用、教育の機会を失う喪失感は大きい。中高年が若者たちの未来を奪ったとの不満が噴出している。
 主催団体「欧州のための行進」によると、前回の大規模デモ(7月2日)の参加者は5万人。今回の人数は明かされていないが、何千人もの市民が行進したと英国の主な新聞が報じている。EU離脱派と“衝突”する一幕もあった。
 デモは各地で行われたが、とりわけロンドンの規模は大きい。ブレグジットを決めた国民投票では、ロンドンのほぼ全ての地区で残留派が勝利。「欧州のための行進」は、「ロンドンの声」「若者の声」の象徴ともなっている。
 離脱派多数の地区が注目されがちだが、残留派が圧倒した地域にも特徴がある。ロンドンのランベス区(残留支持78・6%)、ハックニー区(同78・5%)は、ともに若者、移民が多い地域で、年金生活者が少ない地区だ。
 ハックニー区の南端、オールドストリート駅周辺で若者の声を取材した。“ロンドンで一番クール(おしゃれ)なエリア”と呼ばれる場所の一角。街を歩くと、いたるところから流行の音楽が聞こえてくる。
 「EUの中にいる方が、英国はもっと強くなれる」(20代女性)
 「他の欧州諸国と団結した方がいいに決まっている」(30代男性)
 EU残留を支持する声がやはり多い。話を聞いた中には、「移民問題があるから『心は離脱』、経済的に困るから『財布は残留』」といった考えの30代男性もいて、残留に投票したという。
 だが印象に残ったのは、「国民投票の当日は大雨だったので……」等の理由で棄権した若者が少なからずいたことだった。壁に絵を描いていた男性の2人組は、こう語っていた。
 「政治には興味がないんだ。だって全部、メディアにコントロール(管理)されてるんだろう。何も信じられないよ」

中高年層の利益を優先

 若者の低投票率は先進国共通の課題。少子化の進む社会にあって、高齢者の利益が優先される政策決定の偏りが深刻な問題となっている。とりわけ日本は、世界で最も速いスピードで高齢者人口が増えており、「増税にも社会保障の抑制にも反対」という、高齢世代の利益を反映した「近視眼的な政治」に陥っているとの批判が(八代尚宏著『シルバー民主主義』)。英国は日本ほど少子高齢化が進んではいないが、平均年齢は上昇している(一昨年で40歳)。
 ブレグジットを決めた今回の国民投票における世代別の投票行動を見ると、年齢が高くなるほどEU「離脱」を支持したことが一目瞭然である(※図参照)。18歳から44歳までは半数以上が残留を支持。だが、45歳以上の人口の方が約500万多く、また投票率も高かったため、全体でEU離脱支持が過半数を超えた。
 そのため、「リグレジット」に込められた若者たちの失望は、「投票に行かない者が悪い」としばしば批判される。事実、18歳から24歳の投票率が36%と低かったとの分析が広く受け入れられた。
 だが、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのマイケル・ブルター教授らが、新たなデータ分析をもとに報告書を発表すると各紙が注目した。
 「(選挙登録した)18歳から24歳の実際の投票率は64%で、全世代平均との差は8%。若者が実際に投票したかを知るのは政治的に重要だ。理由の一つは、彼らの多くが国民投票の結果に不服で、自分たちの意見を聞いて欲しいと願っており、それに対して『それほど気にするのなら、面倒くさがらず投票すれば良かったのに』との主張が存在するからだ」

軽視できない青年の声

 ロンドン以外で残留派が多数だったのは大学都市のケンブリッジ(73・8%)とオックスフォード(70・3%)だ。
 学生たちの意見を聞くためオックスフォード大学がある街を訪れた(8月1日)。夏休みでキャンパス内は人通りが少なかったが、市街地は観光客でにぎわっていた。レストランに入り、アルバイト学生として働いていたナターシャ・ブラックさんに声を掛けると、快く取材に応じてくれた。21歳になったばかりの彼女は、今秋からロースクール(法科大学院)に進むという。
 「EU加盟前の英国を知る人は、若者が何も知らないと思っているかもしれませんが、私たちは私たちなりに一生懸命に考えています。欧州単一市場へのアクセスを失うと物価が必ず上昇します。ただでさえ学生ローンが高額なのに……」
 「彼にも聞いてみて」と、同級生のカロム・マッキンノン・スネルさんを紹介してくれた。彼女とは意見が全く違う。
 「単一市場ばかりに頼っていては、英国はだめになってしまう。英国らしさを守らないと。周りの友人はほとんど残留支持だけど、僕の意見は違います。英国のことは英国が決めるべきです」
 現在の若者世代が年齢を重ねた時、EU再加盟のため国民投票を望むだろうか。ブラックさんは首を横に振った。
 「再加盟は条件が悪すぎます。今、離脱しないのが最善です。いずれにせよ、離脱派も残留派も、選挙戦で事実を誇張して伝えました。(政府には)拙速に離脱交渉を開始してほしくないです」
 訪れた日のオックスフォードは、あいにくの雨だった。英国を担う人材を輩出してきたこの街も、国民投票の後は「リグレジット」の涙に濡れたのだろうか。
 「世代間の格差」は、ブレグジットが示した英国社会の亀裂の一つにすぎない。また、全ての若者が残留に投票したわけでもない。だが、「シルバー民主主義」の負の側面を考慮するならば、18歳から44歳の過半数がEU残留を望んだ事実は、決して軽視されるべきではない。
 英紙ガーディアンは最初の大規模デモの翌日、「ブレグジット後、私たちは若者と高齢者の絆を強くしなければならない」との論説を掲載し、こう結んだ。
 「若者が望むようにEU加盟を維持するのは難しいだろう。だが、英国が高齢者のためだけの国ではないと説得することはできるはずである」

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とても他人事ではないよ~。 

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