小田急「ロマンスカー」のうち30000形電車「EXE」はある賞を唯一、受賞していません。しかし一定の評価があり、その能力が登場から20年を迎えて“進化”。快適性などが向上します。

唯一「なかった」ロマンスカー

 小田急電鉄が2016年12月15日(木)、唐木田車両基地(東京都多摩市)で30000形電車「EXEα(エクセ アルファ)」を報道陣へ公開しました。1996(平成8)年にブロンズ色の外装、「EXE(エクセ)」という車両の愛称で登場した特急用車両30000形をリニューアルしたものです。

 この30000形「EXE」は「ロマンスカー」車両で唯一、「あること」がなかった車両です。

「ロマンスカー」と呼ばれる小田急電鉄の特急は、箱根などへの観光特急という側面があり、非日常的な展望席構造を持つ車両も存在。それが小田急のシンボルにもなっています。

 しかし「ロマンスカー」は、通勤などの輸送も大きな任務。展望席構造など「ロマンスカー」に観光のイメージが強かったなか、日常的な需要にも応えるため1996(平成8)年にデビューしたのが、この「EXE」です。展望席構造は採用されず、かんたんにいえば観光でも通勤でも利用できる汎用(はんよう)的な特急車両として登場しました。

 ですがこの「EXE」だけ、「ブルーリボン賞」を受賞できませんでした。

小田急「ロマンスカー」のため作られた賞 しかし「EXE」だけ…

 鉄道愛好者団体の「鉄道友の会」が毎年、新たに運転を開始した優れた車両に贈っている「ブルーリボン賞」。同賞が制定されて以来、小田急「ロマンスカー」の車両はすべてそれを受賞してきたほか、そもそも、1957(昭和32)年に登場し、その後の新幹線誕生にも貢献した小田急「ロマンスカー」3000形電車(SE車)に賞を授与したい、というのが「ブルーリボン賞」の始まりです。

 これを受賞できなかった小田急「ロマンスカー」は同賞の制定以降、現在に至るまで「EXE」のみ。小田急関係者によると「EXE」の登場当時、「展望席がないのは『ロマンスカー』じゃない」といった声もあったといいます。

 しかし、だからといって「EXE」に問題があるわけではなく、定員の多さ、2008(平成20)年に登場した60000形ロマンスカー「MSE」にも受け継がれた、6両と4両に分けて走らせられるといった運用上の利便性、鉄道車両としての快適性などについては一定の評価を得ています。このたび行われた「EXEα」へのリニューアルでは、その「能力」がさらに進化しました。

「EXEα」、その進化ポイントとは? 定評のあった座席はさらに

「EXE」をリニューアルした「EXEα」、進化した能力のひとつは「快適性」です。木目調の内装と、直接照明と間接照明を組み合わせた演出で「気品と落ち着きのある空間」にしたとのこと。

 また「EXE」は元々、クッションが効いた座席が評価されていましたが、それも進化。座面のひざ側が足に合わせて沈む造りになり、座り心地が良くなっています。なおコンセントについては、第2陣以降のリニューアル車両から設置を考えているそうです。

 和式トイレの廃止、広い「ゆったりトイレ」の設置、温水洗浄機能付き便座の採用、授乳などに使える多目的室の設置もポイントです。観光需要にも対応するため、スーツケースを置ける大型収納スペースも用意されています。

「安全性」も進化しました。各車両の出入口や客室内に防犯カメラが設置され、乗務員室でリアルタイムに映像を確認できるとのこと。また省エネ機器の採用、モーターの低騒音化などで「環境性能」も進化しました。

 近年、首都圏の鉄道では有料で着席サービスを提供する動きが進んでいます。そのなかで、「ブルーリボン賞」は受賞できなくとも、利便性や快適性については一定の評価があった「EXE」の、「EXEα」への“進化”。人口減少社会を迎え、各鉄道会社が利用者確保のため沿線価値やサービスの向上につとめるなか、小田急の新たな武器になりそうです。

 リニューアルされた「EXEα」は、2017年3月から運転が始められる予定です。

【写真】「6:4分割式」が特徴の「EXEα」


実家へ帰った際、たまに乗ることがあるけど、『ロマンスカー』で初めてこの車両が来たときのガッカリ感が…ね。 

『ロマンスカー』ではなく、たとえば『ビジネス特急』とでも名付ければ…。