日本ではもう「立山黒部アルペンルート」でしか乗ることができないトロリーバス。見た目は「バス」ですが、実は法的には「鉄道」扱いです。いったいどこが「鉄道」なのでしょうか。実際に乗ってみたところ、トロリーバスの不思議な姿が見えてきました。

無軌道な電車、トロリーバス

 見た目は「バス」なのに、電車のごとく上空の架線から電気を取り入れ、モーターで走行する乗りもの「トロリーバス」。かつて日本では東京都区内をはじめ、名古屋市や大阪市などでも走っていましたが、現在は長野県と富山県を結ぶ「立山黒部アルペンルート」でしか乗ることができません。

 この「トロリーバス」、日本での法的な扱いは「鉄道」で「無軌条電車」と呼ぶなど、ちょっと不思議な存在です。見た目は「バス」ですが、なぜ「鉄道」なのでしょうか。実際に乗ってみたところ、これが意外と「鉄道」らしい乗りものでした。

 ちなみにトロリーバス、かつては「無軌条電車」ではなく、軌道(線路)がない電車「無軌道電車」と呼ばれていました。しかし印象が悪いことから「無軌条」に改められています。「軌条」はレールの意味です。

まるで鉄道のローカル線のようなトロリーバス

「立山黒部アルペンルート」で2路線運行されているトロリーバスのひとつで、長野県大町市の扇沢駅と、富山県立山町の黒部ダム駅を結ぶ関電トンネルトロリーバス。昭和30年代、その難工事が映画などで知られる黒部ダムの建設に伴い、資材輸送などを目的に掘削された「関電トンネル」を走るトロリーバスです。

 この関電トンネル、径が小さく、基本的に1車線しかありません。そのため途中でクルマがすれ違えるよう、2車線になった「信号場」がトンネル内部に1カ所、設けられています。そしてそこでトロリーバス同士がすれ違うよう、“ダイヤ”が組まれています。

 見た目こそ「バス」ですが、まるで線路が1本しかない「単線」のローカル線のようなシステムです。法的に「鉄道」である理由が少し分かった気がしますが、この信号場ではさらに、ある“鉄道らしい儀式”も行われました。

あるものを交換する“鉄道らしい儀式”

 その“鉄道らしい儀式”とは「タブレット交換」です。

 線路が1本しかなく行き違いができない鉄道路線では、“通行手形”を持っていないとその区間を走れない、という信号のシステムがあります。ひとつの列車だけに“通行手形”を渡すことで、行き違いのできない区間に複数の列車が進入し、正面衝突するのを避けるための仕組みです。

 この“通行手形”のことを「タブレット」といい、関電トンネルトロリーバスはこれを使用。信号場以外では行き違いのできないトンネルで、安全運行を実現しています。

 具体的には、扇沢駅から黒部ダム駅へ発車するトロリーバス【A】は、「扇沢〜信号場」間を通れるタブレットを持って発車。このタブレットを信号場で、反対の黒部ダム駅からやってきたトロリーバス【B】とすれ違うとき、【B】が持っている「信号場〜黒部ダム」間を通れるタブレットと交換する、という形です。

 これもまた、見た目こそ「バス」ですが、まるで線路が1本しかない「単線」のローカル線のようなシステム。トロリーバスが法的に「鉄道」である理由がさらに少し分かった気がします。

 ただ鉄道とは異なる、トロリーバスらしい工夫もそこに見られました。

学校遠足バスのようなトロリーバス

 一般的な鉄道で複数の車両を同じ列車として走らせたい場合、連結して運行するため、何両あっても物理的に繋がった“ひとかたまり”です。

 ですがトロリーバスは乗客が多いからといって、複数の車両を連結して走らせることはできません。学校遠足のバスのように、連なって走る形になります。

 しかしその場合、ある“危険”が生じます。3両のトロリーバスが連なって走っていたところ、最後尾の車両だけ何らかの理由で遅れてしまったら。そして信号場ですれ違う反対側からのバスが、2両だけとすれ違って、まだ1両が到着していないにもかかわらず、信号場を発車してしまったら……。

 もっとも、行き違いで交換せねばならないタブレットは最後尾の車両が持っているため、そういう事態にはなりませんが、この関電トンネルトロリーバスでは、さらに“ある工夫”がされていました。車両前面、後面の上部に設置されているランプです。

 かつて大型トラックに搭載が義務づけられていた、走行速度を色で表す「速度表示灯」に似ていますが、目的はまったく違います。

 例えば3両のトロリーバスが連なって走る場合、前から1両目と2両目は「青」のランプを、最後尾の3両目は「橙」のランプをともします。つまり最後尾車両は「橙」にすることで、最後尾車両を見た目だけで分かるようにしているというワケです。

 学校遠足バスで、連なった最後尾車両が「終」と表示しているのと似ています。この点については、「鉄道」より「バス」らしいところかもしれません。

 ちなみに、黒部ダムへ通じる関電トンネルにはトロリーバス以外にも作業車両が走りますが、そのダイヤも決められているほか、トンネル内に入ったクルマの数は全てカウント。安全を確保しているそうです。

 なお「立山黒部アルペンルート」の運行は11月30日(月)まで。秋のシーズンを過ぎた現在は、各交通機関に通常の2割引で乗ることができます。


いつかは訪れたいと念願して数十年。

実現できるんだろうか…。