ボリショイ&マリインスキー合同ガラ

  ボリショイ・バレエとマリインスキー・バレエの合同ガラ公演(Aプログラム)を観に行ってきました。演目はよく知られている作品のパ・ド・ドゥがほとんどだったので、気軽に踊りそのものを楽しむことができました。忘れないうちに感想を短くメモしておきます。

  Aプログラムはボリショイ・バレエが先攻です。

  「エスメラルダ」第二幕のパ・ド・ドゥ、ダンサーはエカテリーナ・クリサノワ、ドミートリー・グダーノフ。さっそくロシアのバレリーナのプロポーションの美しさと優れた身体能力に打ちのめされる。濃い緑のチュチュを着たクリサノワは長い脚を耳の傍まで高く上げて、爪先でタンバリンをリズムよく叩く。脚の形が実に美しい。弓道に使う弓のようだった。クリサノワがコーダで何かミスをしたように覚えているが、最初だから緊張もするだろう。

  「マグリットマニア」(ユーリー・ポーソホフ振付)デュエット、ダンサーはネッリ・コバヒーゼ、アルテム・シュピレフスキー。コバヒーゼは両脇に深いスリットの入った赤いドレス、シュピレフスキーは白いシャツにサスペンダーを付けた黒いズボン。クラシックお約束の動きがほとんどないモダン作品。コバヒーゼの腕の動きがとても柔らかで美しかった。シュピレフスキーはコバヒーゼをリフトしっぱなしだったけど、ふたりは闇の中を白い流線を描いてすべるように踊っていた。

  「海賊」第一幕の奴隷の踊り。ランケンデムとグルナーラの踊りらしい(海賊はまともに観たことがないので分からない)。ダンサーはニーナ・カプツォーワとアンドレイ・メルクリーエフ。カプツォーワは白い紗のヴェールをかぶって登場した。メルクリーエフが途中でそのヴェールを外す。このへんから、ボリショイ・バレエのダンサーたちが、揃いも揃って背が高くてスタイル抜群、しかもみな恵まれた身体能力と超絶技巧を誇るという事実を痛感し始める。

  「ジゼル」第二幕のパ・ド・ドゥ、ダンサーはスヴェトラーナ・ルンキナ、ルスラン・スクヴォルツォフ。ルンキナのジゼルはすばらしかった。動きは丁寧でゆっくりと回転するときやアラベスクをするときの足元も安定している。片脚を前に上げ、同時に上半身を後ろに反り返らせたジゼルの腰をアルブレヒトが支え、その瞬間にジゼルが前に向き直る動きでは、スクヴォルツォフのサポートがバッチのタイミングで見事だった。スクヴォルツォフは腕が長いのか、ルンキナからずいぶんと離れたところから支えていた。

  「ファラオの娘」第二幕のパ・ド・ドゥ。王女とタオール(←名前あやしい)の踊りだよね、確か。全幕で観ると耐え難かったが、パ・ド・ドゥだけ観るとすばらしい。ダンサーはマリーヤ・アレクサンドロワ、セルゲイ・フィーリン。アレクサンドロワは紫のチュチュ、フィーリンは古代エジプト風の(?)白地に水色の入った胸当てと短いスカート状の腰巻。アレクサンドロワは華やかでいいねえ。ヴァリエーションでのアレクサンドロワの爪先が、超高速で激複雑な振付なのにも関わらず、正確に動いてステップを踏んでいくので、心の中で絶句してしまった。

  「パリの炎」(振付:ワシリー・ワイノーネン)第四幕のパ・ド・ドゥ。ダンサーはナターリヤ・オシポワ、イワン・ワシリーエフ。オシポワとワシリーエフの白い衣装にはトリコロールの色が入っている。どーやらこれはフランス革命を描いた作品くさく思える。オシポワの体には空中浮揚装置かジェット噴射エンジンでも付いているのか。なんで助走もしないのにあんなにふわっと高く跳べるのだろう。ワシリーエフは(たぶん)コーダでとても人間技とは思えない回転ジャンプをした。斜め跳びして回転するんだけど、その体の角度が尋常じゃない。床に対して45度くらい?なのに片膝ついてポーズを決めて着地する。もうちょっと美しく跳んでくれたらもっとすばらしかった。

  後攻はマリインスキー・バレエです。

  「ばらの精」、ダンサーはイリーナ・ゴールプ、イーゴリ・コールプ。イーゴリ・コールプがはなからものすごい大ジャンプで舞台に飛び込んできた。回転では足元が多少グラついた。珍しい。一番手だから緊張していたのね、きっと。野郎のくせに腕の動きがゆらゆらと波打つようでとてもきれいだった。

  「サタネラ」(振付:マリウス・プティパ)パ・ド・ドゥ、ダンサーはエフゲーニヤ・オブラスツォーワ、ウラジーミル・シクリャーロフ。オブラスツォーワは黒地に紅の入った、オディールみたいなチュチュ。シクリャーロフのパートナリング(特にろくろ回し、リフト)が相変わらずぎこちなくて、終わったとたんに後ろの観客が「何かヘンじゃない?」とささやいているのが聞こえた。それなのにヴァリエーションでは飛ばしまくる。去年のマリインスキー・バレエ日本公演でもそうだった。もっとパートナリングを頑張りませう。

  「三つのグノシエンヌ」(ハンス・フォン・マネン振付)、ダンサーはウリヤーナ・ロパートキナ、イワン・コズロフ。ロパートキナは膝下丈の薄い青い生地のドレス。コズロフの衣装は忘れた。第1曲はふたりが組んで、第2曲はふたりが並んで同じ振りを、第3曲は再び組んで踊る。バレリーナとして、ロパートキナは別格だと思った。背が高く、手足が長くて、プロポーションは完璧、それに手足の動きが他のバレリーナとはぜんぜん違う。動きに緩急をつけ、また音楽を的確に捉えてメリハリをつける。

  振付は少し変わっていて、これもモダン作品に属すると思う。足首を曲げたり、ロパートキナが人形のように体を硬直させて持ち上げられたりする。振付もすばらしいのだろうけど、ロパートキナは振付を完全に凌駕してしまっている。まさに踊りだけで「見せた」。コズロフのサポートやリフトもすばらしかった。ぎこちなさやたるみがまったくない。彼らが踊っている間、観客は息を呑んで見つめていた。私もすごく集中してガン見していた。

  マリインスキー・バレエのダンサーたちは、見てくれ(身長と体型)ではボリショイ・バレエのダンサーたちにやや劣る。またミスもボリショイ・バレエに比べて多い。ロパートキナが来なかったら、マリインスキー・バレエはボリショイ・バレエに容姿でも踊りでも負けていただろう。ロパートキナを来させたのは賢明な判断だった、と思った。

  「ディアナとアクティオン」パ・ド・ドゥ、ダンサーはエカテリーナ・オスモールキナ、ミハイル・ロブーヒン。今日の公演で最も見ていて気の毒に感じた演目。ヴァリエーションでのオスモールキナは不安定で(特に片脚で回転してから、そのままもう片脚を後ろに伸ばすところ)、またロブーヒンは、ヴァリエーションでの最初の回転ジャンプをするタイミングを逸したのではないだろうか?出てきていきなり回転ジャンプするはずだよね?

  「グラン・パ・クラシック」、ダンサーはヴィクトリア・テリョーシキナ、アントン・コールサコフ。テリョーシキナはすみれ色のチュチュ。申し訳ないけど、やっぱりテリョーシキナばかりに目が向いてしまった。コールサコフさん、すみません。アダージョでのテリョーシキナのバランス・キープもすごかったけど、ヴァリエーションでのテリョーシキナは更に安定していて、定期的に脚の方向を変えながら、爪先を細かく上げ下げして、ゆっくりと前に進んでいくところも、最後までリズムよく動き、またパワーが落ちなかった。音楽の雰囲気と同じく、きちんとしていて端正だった。

  「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」、ダンサーはアリーナ・ソーモワ、アンドリアン・ファジェーエフ。ソーモワはピンクの衣装だった(布地の質とデザインはいつものあれ)。ソーモワの腕の動きがたおやかでとても美しくなっていた。またソーモワは脚がとびきり長く、体も極端に柔らかい。だから脚を高く上げたりする動きがすごく様になる。でもヴァリエーションはあまりに動きが速すぎて、私の目が追いつきませんでした。

  「瀕死の白鳥」、ダンサーはウリヤーナ・ロパートキナ。これはもう号泣ものだった。鼻をすする音が周りからも聞こえてきた。踊りを見て涙が出たのはこれがはじめて。どう書けばよいのか分からないから書かないでおく。

  「ドン・キホーテ」第三幕のパ・ド・ドゥ、ダンサーはオレシア・ノーヴィコワ、レオニード・サラファーノフ。愛らしい容姿のノーヴィコワの踊りはすばらしかった。バランス・キープは安定していて、ヴァリエーションでの爪先の細かい動きもとてもきれいだった(コーダのグラン・フェッテでは1回かかとが床に着いてしまったけど)。私にとって厄介なのがサラファーノフ。一応ミハイル・バリシニコフ並みに踊れることはよく分かった。でも、得意げな顔でこれ見よがしに超絶技巧を披露し、大見得を切ってポーズを取るのはまだ許せるが、コーダで女性ダンサーの出だしを邪魔してまで回転を続けるのはやめてほしい。

  フィナーレは演出に面白い工夫がされていて、とても楽しかったし見ごたえがありました。

  ボリショイ・バレエとマリインスキー・バレエのダンサーたちの踊りを観ていると、だんだんと感覚が麻痺してきます。みなすごい技ができて当たり前、男性ダンサーは何回転もできて、しかも軸がブレなくて足元もグラつかないのが当たり前、ものすごい回転ジャンプができて当たり前、女性ダンサーはみな細かくて難しい爪先の動きができて当たり前、バランスの保持が長時間できて当たり前、グラン・フェッテは2回転、3回転を入れるのが当たり前、もう見慣れたわい、という感じになってきます。

  やっぱりロシアの二大バレエ団のダンサーはすごい、とため息をつきました。Bプログラムも観に行きます。Bプログラムには母親も連れて行きます。グランディーバ・バレエ団の踊りに感動していた母親ですから、いい親孝行ができそうです。

  あ、チケットをもいでもらってから渡されるチラシ類は受け取ったほうがいいですよ。プログラムとは別に演目・キャスト表があるのはもちろん、「やずやの千年ケフィア」(健康食品)のサンプルが入ってます。「コーカサス正統種菌の発酵食」だそうです。   
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