新国立劇場バレエ団『シンデレラ』(12月23日)-1


 『シンデレラ』全三幕(於新国立劇場オペラパレス)


  シンデレラ:長田佳世
  王子:菅野英男

  義理の姉たち:山本隆之、橋一輝
  父親:石井四郎

  ダンス教師:福田圭吾

  仙女:湯川麻美子

  春の精:五月女 遥
  夏の精:井倉真未
  秋の精:竹田仁美
  冬の精:丸尾孝子

  道化:八幡顕光

  ナポレオン:吉本泰久
  ウェリントン:貝川鐵夫


  順番的には、21日の公演の感想のほうを先に書かなくてはならないのでしょうが、今日の公演のほうが記憶がまだフレッシュなので、こちらを先に書いてしまいます。

  今回はプログラムを買いませんでした。他のキャストのみなさんのお名前を細かく書けないです。すみません。王子のイケメン友人軍団の中にマイレン・トレウバエフ、貴族の女性の中に寺田亜沙子さん(たぶん)、星の精の中に大和雅美さんがいたのが分かっただけです。

  正直、長田佳世さんのシンデレラというのがどうしてもイメージできなかったのですが、実際に観てみたらまったく違和感なし。自然じゃありませんか。ディアナ・ヴィシニョーワが、あるインタビューの中で言ってた、たとえ自分の顔つきがその役に向いていなくても、その役の雰囲気は作ることができる、という名言を思い出しました。

  長田さんのシンデレラは溌剌&活発系でした。さっぱりした雰囲気が非常に良かったです。けなげでかわいそうというよりは、意外にちゃっかり者でけっこう強そうな感じです。

  といっても、私は今となっては、シンデレラの役作りとかにはあんまり興味がなくなってて、踊りが良ければそれでいーや、と思ってるようです。

  長田さんの踊りは、ちょっと粗かったです。テクニック、パワー、勢いとスタミナはあるんですが、なんかバタバタしていて、また特に両腕の動きが柔らかさに欠ける印象を受けました。腕と脚の動きもうまく連動していなかったと思います。それから姿勢。長田さんの姿勢と動きは、いわゆる「アシュトン・スタイル」ではないと感じました。

  文句ばかりで本当に申し訳ないですが、長田さんはきちんと音楽に乗って踊れていたともいえないです。なんでも、このプロコフィエフ作曲の『シンデレラ』は、振付家泣かせなんだそうです。専門用語で何と呼ぶのか、振付をする際に必要な音楽の区切りが困難らしいです。

  アシュトンはプロコフィエフの音楽を絶妙の箇所で区切って振付を施しています。私が最も好きなのが、第二幕のシンデレラと王子のパ・ド・ドゥで、シンデレラと王子が一緒に横に移動しながら、シンデレラが回転すると王子がシンデレラの腰を支え、シンデレラはアラベスクをびしっと決めてほんの一瞬静止、その瞬間に二人が同時に横を向く、という動きを左右4~2回ずつ素早くくり返していく箇所です。

  あれを見るといつも、あの音楽をああいうふうに区切ってああいう振付をしたアシュトンてすげえな、とつくづく思います。

  後で書きますが、第一幕の仙女の踊り(ここの音楽はジョン・ランチベリーがプロコフィエフの別の音楽を編曲したもの)、そして四季の精の踊り(特に秋の精の踊り)も、音楽の区切りと振付の両方が極めて難しいんじゃないでしょうか。

  てことは、プロコフィエフの音楽が元々難しい上に、更にアシュトンの音楽の区切りと振付も非常に困難なので、踊る側にとって、音楽に乗ってきっちりと踊ることは相当大変なのでしょう。

  長田さんの踊りは、全体としてなんかまとまってないというか、一定性がないというか、おかしな喩えですが「踊りが戸惑ってる」というか、そんな感じがしました。でも、長田さんがどんなふうに踊りたいのか、そのイメージはなんとなく分かりましたし、時折、音楽と動きが見事にカチッと嵌まった瞬間もあったので、あとは場数をこなすだけの問題だと思います。

  王子役は菅野英男さんでした。これほど踊れるダンサーを「普通」と思えるようになった、日本人男性ダンサーの全体的なレベルの向上はすばらしいです。ちょっとしたミスはあっても、決定的な大きなミスというものを、みんなまずしなくなったもんね。

  菅野さんは、王子オーラにまだ欠けると思いますが、態度は堂々としており、身のこなしや仕草も上品でした。上に書いたように、踊りは普通に良かったです。驚嘆するほどすばらしいとは感じませんでした。しかし、目立ったミスはしないし、不安定なところもなかったです。決めなくちゃいけない箇所では必ずビシッと決めるしね。

  菅野さんのパートナリングで最も感心したのが、第三幕の最後、シンデレラと王子が一緒にゆっくりと踊るシーンで、長田さんを丁寧にサポートしていた、あるいは長田さんを信頼してサポートしていたことです。長田さんがサポートなしの自力でキープできると判断するや、あとは余計な手出しはせずに最小限のサポートに徹して、長田さんをよりすばらしく見せていました。

  あと、菅野さんて、確か今年の夏の『マノン』でレスコーをやった人だよね?ああいう悪役と王子役との両方をこなせる点でも、これから大いに期待できる人材だと思います。

  仙女は湯川麻美子さんです。暗闇の中から、純白の輝くドレスをまとった仙女が、優しい微笑を浮かべながら、ぱあっ!と突然現れるシーンは、いつ見ても美しく華やかでいいですね。

  湯川さんの仙女は母性的な優しさにあふれていて、なんかシンデレラの母親みたいでした。あれ、今まで気づかなかったけど、そういうことなのか?シンデレラ、亡き母の肖像画を飾って、母親を思い出して泣いてたもんね。

  もう忘れちゃったけど、ジャン・クリストフ・マイヨー版『シンデレラ』の仙女も、確かシンデレラの亡き母親が姿を変えて現れたという設定だったような。(違ってたらごめん。)

  湯川さんの踊りは相変わらず落ち着いていて、余裕と貫禄がありました。湯川さんのあの独特な動きを見ると、湯川さんはまるで音楽の中を泳ぐように、音楽を操って自由自在に踊ることのできる、日本人ダンサーとしては珍しい才能に恵まれてる人だと思います。

  ただ、仙女の踊りでは、ちょっとだけステップにぎこちなさが見られ、音楽に合わせるのも難しかったようでした。もっとも、これぞ仙女の踊りの手本、的な映像があったらぜひ観てみたいよ。あの音楽にあの振付で、どうやって踊れば正しいというのか。

  今、2005年のロイヤル・バレエ日本公演のプログラムを引っ張り出して見てみたら、私が観た『シンデレラ』で仙女を踊ったのはベリンダ・ハトレー(90年代のロイヤル・バレエ全盛期に活躍していたダンサー。もう退団してると思う)でした。

  しかし記憶の片隅にも残ってないことから、ハトレーの仙女の踊りにも満足できなかったらしいです。イヴァン・プトロフの王子が非常にすばらしかったことは覚えています。プトロフ、美男子だったのに退団しちゃってもったいない。今どこに在籍してるんだろう。

  ちなみにシンデレラはロベルタ・マルケスでした。このころはロイヤル・バレエに移籍してきたばかりで、かわいらしい容貌と高いテクニックが持ち味でした。(今のマルケスの状態を思うと複雑な気持ちになりますな。)

  長くなったのでいったん切ります。

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