ボリショイ&マリインスキー・バレエ合同ガラBプロ(3)
第3部
『パリの炎』よりパ・ド・ドゥ(振付:ワイノーネン/ラトマンスキー、音楽:アサーフィエフ)
ナターリヤ・オーシポワ、イワン・ワシーリエフ。
前回の合同ガラで、オーシポワとワシーリエフがセンセーションを巻き起こした演目。
オーシポワは胴衣がブルー、スカートは白だが、今回は丈が長めでクリノリンが入っていないタイプのもの。ワシーリエフは白のシャツにオフホワイトのタイツ、黒いブーツ。両人の衣装にはトリコロールの模様が入っている。
元々上演予定だったのは「シェヘラザード」のデュエットだったが、この演目に変更になった。個人的には「シェヘラザード」が観たかったものの、前回のあの衝撃を思い出すと、やはりワクワクした。会場全体も「待ってました!」という雰囲気になったのが分かった。
オーシポワは相変わらず浮揚装置が装着されているかのような、軽くて高い跳躍を披露した。しかもオーシポワは、跳躍の後にトゥ・シューズの音がまったくしない。どれほど強靭な筋力を持っているのかと思う。
ワシーリエフも前回よりもパワー・アップしていて、ヴァリエーションでの最初の跳躍、跳び上がった瞬間に両脚を開くジャンプは信じられないほど高かった。超速回転から徐々に速度を落としていって、これまた信じられないほどゆっくりと停止する回転にも磨きがかかっていた。
オーシポワとワシーリエフが大技を決めるたびに観客は拍手、というよりも大きな歓声を上げ、バレエ公演ではめったにないことに、「ヒュー!!!」という声まで飛んだ。第3部になって、観客もすっかり興奮している。
それにつられたのか、特にワシーリエフがすっかりエキサイトしているのが見た目に分かった。コーダでは新しいジャンプでの技、やはり跳躍した瞬間に脚をなんか複雑に動かす技を披露したが、着地が乱れて(←ワシーリエフはいつも乱れがちなのだが)床に片手を着いてしまった。ワシーリエフは「ちくしょう!」という表情を隠そうとしなかった。それで観客は大爆笑、やはり拍手喝采を送った。これがボリショイのダンサーの特徴なのか、観客がついつられて興奮し、失敗しても許すどころか、逆にそれが更に観客の愛情を引き出してしまう。
オーシポワの32回転は、途中で数回転を織り込んで回ったのはすごいんだろうが、やはり音楽に合っていない。後で32回転をやったガリーナ・ステパネンコやヴィクトリア・テリョーシキナは、同様に数回転を織り込んで回って、しかもきちんと音楽に合っていた。ここは要改善。
『ジゼル』よりパ・ド・ドゥ
エフゲーニヤ・オブラスツォーワ、アレクサンドル・セルゲーエフ。セルゲーエフは濃い紫の上衣に淡い紫のタイツという衣装。
この演目もAプロとかぶるが、Aプロでこの演目を踊ったのはボリショイ・バレエのスヴェトラーナ・ルンキナとアレクサンドル・ヴォルチコフだったので、バレエ団同士の同じ演目の踊り比べという意味があるし、なによりもオブラスツォーワのジゼルはぜひ観てみたかったので大歓迎。
あとは意地悪な動機だけど、セルゲーエフの純クラシックの踊りを観てみたかった。彼がこれまで踊ったのは、モダン、クラシックだけど現代振付作品、そしてタンゴだったから。
ジゼルが踊りだす振付(というかタイミング)は、Aプロのルンキナが踊ったものとは異なり、いつもどおりのもの。これも得点高し。
前の『パリの炎』のせいで興奮冷めやらぬ会場の雰囲気の中、さぞやりにくかろうと思っていたが、意外にすんなりと会場は『ジゼル』の世界に入り込めた。少なくとも私はそうだった。残る心配は、ヴィオラ奏者が音程を外さずにソロを弾いてくれるかどうかだけだ。
余談(?)だが、今回のオーケストラは実にひどかった。あまりにひどいので観客が失笑したほど。バレエ公演でオーケストラの金管・木管が音を外すのはもはやお約束だが、今回は弦までひどかった。ヴァイオリン、ヴィオラの奏者たちは一体どういう人々なのか。趣味でやってるアマチュアの人々なのだろうか。
オブラスツォーワのジゼルはすばらしかったが、時に動きが不安定になるときがあった。以前からオブラスツォーワにはこういうところがあり、ちょいミスをいきなりやってしまう。その前後は何の問題もないのに。
セルゲーエフのアルブレヒトのソロやヴァリエーションもすばらしかったが、どーもセルゲーエフは、失敗しそうになると小器用にごまかしてすり抜ける長所(?)があるらしい。回転の最後やジャンプの着地の際にそれが見られた。
ちょっとご飯食べてきます。
『プルースト~失われた時を求めて~』(振付:プティ、音楽:サン=サーンス)よりデュエット
スヴェトラーナ・ルンキナ、アレクサンドル・ヴォルチコフ。
ふ~、食った食った。舞台の前面に白いシャツ、黒いベスト、黒いズボンという衣装のヴォルチコフ(私)が立ちつくしている。
すると、舞台左奥に白い長いカーテンが下ろされており、そこにスポット・ライトが当たる。カーテンの下には、髪を垂らし、白いシュミーズ姿の女(アルベルティーヌ)が眠っている。「私」は眠るアルベルティーヌに近寄り、彼女の頬を手で愛撫する。
アルベルティーヌが目覚める。彼女は夢うつつな表情のまま、「私」と踊り始める。サン=サーンスの音楽が非常に美しかった。美しい音楽に乗せた踊りもとても美しく、またドラマティックだった。「私」は眠るアルベルティーヌを愛する。アルベルティーヌを閉じ込め、「私」から離れることを許さない。
自らのエゴに苦しみつつも、なおもアルベルティーヌを手放すことができないヴォルチコフの表情と雰囲気がすばらしかった。振付はきれいで、また演劇的で分かりやすい。ルンキナもあくまで「私」の脳裏に映る存在という儚げな表情でよかった。ヴォルチコフとルンキナは、本当に夢の中でたゆたう恋人たちの世界を舞台の上に作り上げていた。
「ファニー・パ・ド・ドゥ」(振付:シュプック、音楽:ロッシーニ)
あの「ザ・グラン・パ・ド・ドゥ」ですがな。ウリヤーナ・ロパートキナ、イーゴリ・コールプ。コールプは、このBプロではこれだけの出演。なんかもったいなくね?
普段は美しく気高い踊りと雰囲気のロパートキナが、ガニ股でツイストを踊る姿には笑ったし、ふざけた作品の中でもまともに踊る姿はやはり別格に凄くて、それなりに楽しめた。けど、コールプと同様、せっかくのロパートキナなんだから、もっとちゃんとした作品を踊ってほしかったかな、というのが正直なところ。
『ドン・キホーテ』よりパ・ド・ドゥ
ガリーナ・ステパネンコ、アンドレイ・メルクーリエフ。
ステパネンコは胴体部分が黒のビロード、スカートが真紅のチュチュ、メルクーリエフは黒のベストにタイツ。メルクーリエフ、意外に脚が細い。髪はやっぱりロン毛。なぜだ?
これぞ正統派の『ドン・キホーテ』グラン・パ・ド・ドゥ。ステパネンコはきっちりした動きで、安定した踊り。音楽にちゃんと乗って、見せどころを心得ている。ヴァリエーションでの扇の使い方もカッコよかった。
コーダの32回転は、右脚を床とほぼ水平に上げ、音楽にバッチリ合うように回転する。途中で数回転していたが、それも音楽に合うように計算してやっている。アリーナ・ソーモワ、ナターリヤ・オーシポワはぜひ見習ってほしい。ステパネンコはまったくパワーが落ちず、最後のフェッテはくるくると数回転して、両足ポワントですっくと立って静止した。観客は大興奮し、会場は万雷の拍手。
メルクーリエフも磐石のパートナリングと、ヴァリエーションとコーダでの見事な踊りで観客を沸かせた。メルクーリエフもボリショイの血が騒いだのか、かなりエキサイトしていたようだった。だけど、ワシーリエフと違って、技を失敗したりはせず、最後まできっちりと踊りきった。感情の昂ぶりがいいほうに働いたようだ。
『白鳥の湖』より黒鳥のパ・ド・ドゥ
ヴィクトリア・テリョーシキナ、レオニード・サラファーノフ。
テリョーシキナはもちろん黒のチュチュ、サラファーノフは上下ともに純白の衣装。黒と白のコントラストが鮮やか。
テリョーシキナについては、何を書くこともないでしょう。完璧。テリョーシキナはテクニックばかりが云々されることが多いけれど、彼女は演技派でもある。作品によって踊りと雰囲気をがらりと変えることのできる優れたバレリーナ。
王子の心をつかんだことを確信した瞬間の、テリョーシキナの邪悪な目つきと微笑が凄かった。
サラファーノフは、またバジル化するんじゃないかと心配したが、ヴァリエーションで、この上なくノーブルな踊りを見せた。あんな美しいノーブルな王子のヴァリエーションは初めて観た。きれいなポーズで、ぽーんとゆっくり跳躍し、両足を打ちつけ、優雅にくるくると回る。あらまー、やればできるんじゃん(ごめんなさい)。最後に両足を揃えて上に跳び上がって回転する動きでも、今度は身体が斜めにはならず、まっすぐできれい、音楽にも合っていた。
コーダでは、テリョーシキナが見事な32回転を羽ばたく姿勢で決めてニヤリ、と挑戦的な目つきでほほ笑んだ瞬間、観客の興奮は最高潮を迎え、今までにない大きな拍手と歓声が会場を包んだ。
テリョーシキナのすごいところは、彼女はふだんはムダに脚を上げないんだけど、黒鳥のパ・ド・ドゥのコーダでは、脚が頭にくっつくんじゃないか、と思えるくらいの凄まじいアラベスク(アティチュード?)をする。そのときの写真がプログラムにも載っているけど、実際はあれよりも脚が高く上がっている。
サラファーノフがジャンプでの舞台一周を終え、テリョーシキナも片足で回転しながら舞台を一周し、最後にテリョーシキナがサラファーノフに支えられてアラベスクで静止した。いやー、凄かった。
ちょっと疲れたけど、贅沢で眼福な時間を過ごせた。
そうそう、2012年2月のボリショイ・バレエ日本公演の演目は、『白鳥の湖』、『ライモンダ』、『スパルタクス』だそうです。『スパルタクス』がいちばん嬉しい。待ち遠しいです。
あと、レオニード・サラファーノフはミハイロフスキー劇場バレエ(レニングラード国立バレエ)に移籍するんだそう。移籍の理由は分からないような分かるような。個人的には、今まで散々悪口は書いたけど、サラファーノフほどのダンサーがなにもなあ、と思います。
『パリの炎』よりパ・ド・ドゥ(振付:ワイノーネン/ラトマンスキー、音楽:アサーフィエフ)
ナターリヤ・オーシポワ、イワン・ワシーリエフ。
前回の合同ガラで、オーシポワとワシーリエフがセンセーションを巻き起こした演目。
オーシポワは胴衣がブルー、スカートは白だが、今回は丈が長めでクリノリンが入っていないタイプのもの。ワシーリエフは白のシャツにオフホワイトのタイツ、黒いブーツ。両人の衣装にはトリコロールの模様が入っている。
元々上演予定だったのは「シェヘラザード」のデュエットだったが、この演目に変更になった。個人的には「シェヘラザード」が観たかったものの、前回のあの衝撃を思い出すと、やはりワクワクした。会場全体も「待ってました!」という雰囲気になったのが分かった。
オーシポワは相変わらず浮揚装置が装着されているかのような、軽くて高い跳躍を披露した。しかもオーシポワは、跳躍の後にトゥ・シューズの音がまったくしない。どれほど強靭な筋力を持っているのかと思う。
ワシーリエフも前回よりもパワー・アップしていて、ヴァリエーションでの最初の跳躍、跳び上がった瞬間に両脚を開くジャンプは信じられないほど高かった。超速回転から徐々に速度を落としていって、これまた信じられないほどゆっくりと停止する回転にも磨きがかかっていた。
オーシポワとワシーリエフが大技を決めるたびに観客は拍手、というよりも大きな歓声を上げ、バレエ公演ではめったにないことに、「ヒュー!!!」という声まで飛んだ。第3部になって、観客もすっかり興奮している。
それにつられたのか、特にワシーリエフがすっかりエキサイトしているのが見た目に分かった。コーダでは新しいジャンプでの技、やはり跳躍した瞬間に脚をなんか複雑に動かす技を披露したが、着地が乱れて(←ワシーリエフはいつも乱れがちなのだが)床に片手を着いてしまった。ワシーリエフは「ちくしょう!」という表情を隠そうとしなかった。それで観客は大爆笑、やはり拍手喝采を送った。これがボリショイのダンサーの特徴なのか、観客がついつられて興奮し、失敗しても許すどころか、逆にそれが更に観客の愛情を引き出してしまう。
オーシポワの32回転は、途中で数回転を織り込んで回ったのはすごいんだろうが、やはり音楽に合っていない。後で32回転をやったガリーナ・ステパネンコやヴィクトリア・テリョーシキナは、同様に数回転を織り込んで回って、しかもきちんと音楽に合っていた。ここは要改善。
『ジゼル』よりパ・ド・ドゥ
エフゲーニヤ・オブラスツォーワ、アレクサンドル・セルゲーエフ。セルゲーエフは濃い紫の上衣に淡い紫のタイツという衣装。
この演目もAプロとかぶるが、Aプロでこの演目を踊ったのはボリショイ・バレエのスヴェトラーナ・ルンキナとアレクサンドル・ヴォルチコフだったので、バレエ団同士の同じ演目の踊り比べという意味があるし、なによりもオブラスツォーワのジゼルはぜひ観てみたかったので大歓迎。
あとは意地悪な動機だけど、セルゲーエフの純クラシックの踊りを観てみたかった。彼がこれまで踊ったのは、モダン、クラシックだけど現代振付作品、そしてタンゴだったから。
ジゼルが踊りだす振付(というかタイミング)は、Aプロのルンキナが踊ったものとは異なり、いつもどおりのもの。これも得点高し。
前の『パリの炎』のせいで興奮冷めやらぬ会場の雰囲気の中、さぞやりにくかろうと思っていたが、意外にすんなりと会場は『ジゼル』の世界に入り込めた。少なくとも私はそうだった。残る心配は、ヴィオラ奏者が音程を外さずにソロを弾いてくれるかどうかだけだ。
余談(?)だが、今回のオーケストラは実にひどかった。あまりにひどいので観客が失笑したほど。バレエ公演でオーケストラの金管・木管が音を外すのはもはやお約束だが、今回は弦までひどかった。ヴァイオリン、ヴィオラの奏者たちは一体どういう人々なのか。趣味でやってるアマチュアの人々なのだろうか。
オブラスツォーワのジゼルはすばらしかったが、時に動きが不安定になるときがあった。以前からオブラスツォーワにはこういうところがあり、ちょいミスをいきなりやってしまう。その前後は何の問題もないのに。
セルゲーエフのアルブレヒトのソロやヴァリエーションもすばらしかったが、どーもセルゲーエフは、失敗しそうになると小器用にごまかしてすり抜ける長所(?)があるらしい。回転の最後やジャンプの着地の際にそれが見られた。
ちょっとご飯食べてきます。
『プルースト~失われた時を求めて~』(振付:プティ、音楽:サン=サーンス)よりデュエット
スヴェトラーナ・ルンキナ、アレクサンドル・ヴォルチコフ。
ふ~、食った食った。舞台の前面に白いシャツ、黒いベスト、黒いズボンという衣装のヴォルチコフ(私)が立ちつくしている。
すると、舞台左奥に白い長いカーテンが下ろされており、そこにスポット・ライトが当たる。カーテンの下には、髪を垂らし、白いシュミーズ姿の女(アルベルティーヌ)が眠っている。「私」は眠るアルベルティーヌに近寄り、彼女の頬を手で愛撫する。
アルベルティーヌが目覚める。彼女は夢うつつな表情のまま、「私」と踊り始める。サン=サーンスの音楽が非常に美しかった。美しい音楽に乗せた踊りもとても美しく、またドラマティックだった。「私」は眠るアルベルティーヌを愛する。アルベルティーヌを閉じ込め、「私」から離れることを許さない。
自らのエゴに苦しみつつも、なおもアルベルティーヌを手放すことができないヴォルチコフの表情と雰囲気がすばらしかった。振付はきれいで、また演劇的で分かりやすい。ルンキナもあくまで「私」の脳裏に映る存在という儚げな表情でよかった。ヴォルチコフとルンキナは、本当に夢の中でたゆたう恋人たちの世界を舞台の上に作り上げていた。
「ファニー・パ・ド・ドゥ」(振付:シュプック、音楽:ロッシーニ)
あの「ザ・グラン・パ・ド・ドゥ」ですがな。ウリヤーナ・ロパートキナ、イーゴリ・コールプ。コールプは、このBプロではこれだけの出演。なんかもったいなくね?
普段は美しく気高い踊りと雰囲気のロパートキナが、ガニ股でツイストを踊る姿には笑ったし、ふざけた作品の中でもまともに踊る姿はやはり別格に凄くて、それなりに楽しめた。けど、コールプと同様、せっかくのロパートキナなんだから、もっとちゃんとした作品を踊ってほしかったかな、というのが正直なところ。
『ドン・キホーテ』よりパ・ド・ドゥ
ガリーナ・ステパネンコ、アンドレイ・メルクーリエフ。
ステパネンコは胴体部分が黒のビロード、スカートが真紅のチュチュ、メルクーリエフは黒のベストにタイツ。メルクーリエフ、意外に脚が細い。髪はやっぱりロン毛。なぜだ?
これぞ正統派の『ドン・キホーテ』グラン・パ・ド・ドゥ。ステパネンコはきっちりした動きで、安定した踊り。音楽にちゃんと乗って、見せどころを心得ている。ヴァリエーションでの扇の使い方もカッコよかった。
コーダの32回転は、右脚を床とほぼ水平に上げ、音楽にバッチリ合うように回転する。途中で数回転していたが、それも音楽に合うように計算してやっている。アリーナ・ソーモワ、ナターリヤ・オーシポワはぜひ見習ってほしい。ステパネンコはまったくパワーが落ちず、最後のフェッテはくるくると数回転して、両足ポワントですっくと立って静止した。観客は大興奮し、会場は万雷の拍手。
メルクーリエフも磐石のパートナリングと、ヴァリエーションとコーダでの見事な踊りで観客を沸かせた。メルクーリエフもボリショイの血が騒いだのか、かなりエキサイトしていたようだった。だけど、ワシーリエフと違って、技を失敗したりはせず、最後まできっちりと踊りきった。感情の昂ぶりがいいほうに働いたようだ。
『白鳥の湖』より黒鳥のパ・ド・ドゥ
ヴィクトリア・テリョーシキナ、レオニード・サラファーノフ。
テリョーシキナはもちろん黒のチュチュ、サラファーノフは上下ともに純白の衣装。黒と白のコントラストが鮮やか。
テリョーシキナについては、何を書くこともないでしょう。完璧。テリョーシキナはテクニックばかりが云々されることが多いけれど、彼女は演技派でもある。作品によって踊りと雰囲気をがらりと変えることのできる優れたバレリーナ。
王子の心をつかんだことを確信した瞬間の、テリョーシキナの邪悪な目つきと微笑が凄かった。
サラファーノフは、またバジル化するんじゃないかと心配したが、ヴァリエーションで、この上なくノーブルな踊りを見せた。あんな美しいノーブルな王子のヴァリエーションは初めて観た。きれいなポーズで、ぽーんとゆっくり跳躍し、両足を打ちつけ、優雅にくるくると回る。あらまー、やればできるんじゃん(ごめんなさい)。最後に両足を揃えて上に跳び上がって回転する動きでも、今度は身体が斜めにはならず、まっすぐできれい、音楽にも合っていた。
コーダでは、テリョーシキナが見事な32回転を羽ばたく姿勢で決めてニヤリ、と挑戦的な目つきでほほ笑んだ瞬間、観客の興奮は最高潮を迎え、今までにない大きな拍手と歓声が会場を包んだ。
テリョーシキナのすごいところは、彼女はふだんはムダに脚を上げないんだけど、黒鳥のパ・ド・ドゥのコーダでは、脚が頭にくっつくんじゃないか、と思えるくらいの凄まじいアラベスク(アティチュード?)をする。そのときの写真がプログラムにも載っているけど、実際はあれよりも脚が高く上がっている。
サラファーノフがジャンプでの舞台一周を終え、テリョーシキナも片足で回転しながら舞台を一周し、最後にテリョーシキナがサラファーノフに支えられてアラベスクで静止した。いやー、凄かった。
ちょっと疲れたけど、贅沢で眼福な時間を過ごせた。
そうそう、2012年2月のボリショイ・バレエ日本公演の演目は、『白鳥の湖』、『ライモンダ』、『スパルタクス』だそうです。『スパルタクス』がいちばん嬉しい。待ち遠しいです。
あと、レオニード・サラファーノフはミハイロフスキー劇場バレエ(レニングラード国立バレエ)に移籍するんだそう。移籍の理由は分からないような分かるような。個人的には、今まで散々悪口は書いたけど、サラファーノフほどのダンサーがなにもなあ、と思います。