世界バレエフェスティバル・Aプロ

  3日の公演に行ってきました。上野駅に着いたのは開演5分前の5時55分、キオスクで水と食料を調達し、息も絶え絶えに東京文化会館に駆け込みました(公演口って便利ね)。なんとか開演に間に合った。ぜーぜー。

  メモ代わりに一言ずつ(で終わってないのがほとんどだけど)。

  「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」(マリア・コチェトコワ、ダニール・シムキン)

    シムキン君がしょっぱなから高度なテクニックで踊りまくるものだから、この後に出演する男性陣に高~いハードル「シムキン・スタンダード」ができてしまった。コチェトコワはやっぱり普通かな。

  「くるみ割り人形」より“ピクニック・パ・ド・ドゥ”(ルシンダ・ダン、ロバート・カラン)

    グレアム・マーフィー版です。シムキン君とコチェトコワちゃんによるお子ちゃま・・・いや、フレッシュな若さ弾けるバレエから一転、プロの表現力を持つ大人のバレエに。複雑なリフト満載の踊りを、ダンとカランは流麗に踊っていた。

  「海賊」(マリアネラ・ヌニェス、ティアゴ・ソアレス)

    ヌニェスはすっかりロイヤル・バレエを代表するプリマになったなー、という感じ。態度が堂々としていて踊りも見事でした。メドーラのヴァリエーションは、「ラ・バヤデール」第二幕のガムザッティのヴァリエーションと同じでした。ソアレスは「シムキン・スタンダード」に果敢に挑んでいました。でも、ソアレスはアリというよりはビルバントだよなー。

  「エラ・エス・アグア - She is Water」(タマラ・ロホ)

    ロホはコンテンポラリーにも充分に適応できるダンサーですが、これは祖国スペインでの凱旋公演向きの作品で、なぜ日本でわざわざやるかな?と思いました。せっかくのタマラ・ロホなのにもったいない。

  「くるみ割り人形」(ヤーナ・サレンコ、ズデネク・コンヴァリーナ)

    サレンコは相変わらずテクニシャンでした。確か途中ですごい回転をやったような?コンヴァリーナはジャンプの着地音がすごくて、床が抜けるかと思いました。

  「コッペリア」(アリーナ・コジョカル、ヨハン・コボー)

    まずは、日本での復帰、おめでとうアリーナ!アリーナ・コジョカルの踊りはまだ本調子ではないような感じを受けました。ノリノリの彼女の踊りはあの程度ではありません。でも、またコジョカルのあの優しい暖かい笑顔が見れただけで嬉しいです。コボーはダイナミックだけど端正な動きで踊り、まさにロイヤル・バレエの王子という感じでした。

  「ジゼル」より第二幕のパ・ド・ドゥ(上野水香、マチュー・ガニオ)

    無駄なキャスト、無駄に長い踊り、最も失望させられた演目。上野水香はひたすら無感情なジゼルで、何の風情もない。ガニオの踊りにはびっくりした。足元がひたすらガタつきまくり、ブレまくり。あれでパリ・オペラ座バレエ団のエトワールか!?

  「クリティカル・マス」(シルヴィ・ギエム、ニコラ・ル・リッシュ)

    アダム・クーパーとラッセル・マリファントが踊ったのより絶対すごくなるはずだ、と戦々兢々としていたが、そうでもなかった。ギエムにしては珍しく、まだ充分に踊り込んでいないようだった。見ていて思わずニヤニヤしてしまった。(←意地が悪い) というより、この作品は元来、おっさん二人で踊ったほうが様になるのだ。

  「ライモンダ」より第三幕のパ・ド・ドゥ(マリア・アイシュヴァルト、フィリップ・バランキエヴィッチ)

    衣装がとにかくきれいだった。色とりどりの刺繍がほどこされていて、まるでタペストリーのよう。アイシュヴァルトもよかったけど、バランキエヴィッチが圧倒的にすばらしかった。堂々とした態度と風格、豪快で余裕があって、しかも端正な踊りに呆然としました。

  「スカルラッティ・パ・ド・ドゥ」(アニエス・ルテステュ、ジョゼ・マルティネス)

   ジョゼ・マルティネス自身の振付です。こちらも衣装がステキでした。紫を基調とした、蝶の翅のような色彩で、ルテステュはチュチュを着ていましたが、スカートは丈が短めで、布が幾重にも重なっている、ふっくらしたデザイン。振付もクラシカルでとてもきれいでした。ルテステュもマルティネスもすばらしい踊りを見せました。

  「ディアナとアクティオン」(シオマラ・レイエス、ホセ・カレーニョ)

   「ドン・キホーテ」または「海賊」化した「ディアナとアクティオン」という印象でした。ロシアのダンサーが踊る「ディアナとアクティオン」とは何かが違う。ワガノワ的優雅さを抜いて、エンタテイメント的要素を濃くしたというか。カレーニョのアクティオンはだいぶ野生化してましたが、まだ違和感は少なかったです。そうそう、ディアナの衣装は淡いクリーム色で、これははじめて見ました。

  「オテロ」(エレーヌ・ブシェ、ティアゴ・ボァディン)

   ノイマイヤー版です。どの場面なのか分からない。オテロがデズデモナを殺すシーンか?ボァディンは腰に布を巻いただけの衣装。途中でそれすらも取っちゃって、デズデモナの腰に巻きつける。振付はかなり抽象的だけど、それでも強い夫婦愛と、夫が妻に対して抱いている疑惑、それを懸命に払いのけて、夫への愛を誓う妻の必死さは伝わってきた。暗闇の中で静かに踊るブシェとボァディンの姿に異常に集中してしまった。ノイマイヤーはやっぱりすごいでんな。

  「椿姫」より第一幕のパ・ド・ドゥ(オーレリ・デュポン、マニュエル・ルグリ)

   もちろんこれもノイマイヤー振付です。デュポンの美貌に驚いた。演技はあくまで「演技」の域を出なかったけど、踊りはすごかった。ルグリの踊りにも仰天した。なんだよあのなめらかで鋭い回転は!あの爪先での細緻な動きは!高いジャンプは!デュポンとルグリの踊りの流れるような美しさにも感動した。ようやくプロのダンサーが出てきてくれたよ(感涙)。でも、ハンブルク・バレエのダンサーたちの踊りに比べると、デュポンとルグリの「椿姫」って、あくまで「バレエ」なんだよね。「ドラマ」ではなくって。そんな気がした。

  「フォーヴ」(ベルニス・コピエテルス、ジル・ロマン)

   ジャン=クリストフ・マイヨー振付です。マイヨー版「牧神の午後」って呼んだほうが分かりいいんじゃないかな。コピエテルスとロマンは、このAプロのベスト・パフォーマンス賞。いくらヘンテコで理解不能な振付だとしてもさ、ダンサーが優れていればこんなに超すばらしいパフォーマンスになるという実例。ふたりの動きのなんと流麗なこと、魅力的なこと、表現力に溢れていること!関係ないけど、コピエテルスは、身長が185センチくらいは余裕であるんじゃないか。

  「白鳥の湖」より“黒鳥のパ・ド・ドゥ”(スヴェトラーナ・ザハロワ、アンドレイ・ウヴァーロフ)

   ザハロワは本調子ではなかったようでしたが、本調子でないことが逆に凄絶な美しさをともなった、尋常ならざる気迫とオーラとを醸しだしていました。私の踊りこそが正統のクラシック・バレエだ、誰にも譲らない、という絶対的な自信に裏打ちされた誇りが漂っていました。高い身長、理想的なプロポーション、ずば抜けた美貌だけで、観客を圧倒するには充分です。彼女が踊ると放射状に強いオーラが発散されます。観客はすっかりザハロワに気おされ、彼女に魅了されます。コーダでザハロワが32回転を終えた途端、劇場はザハロワのものとなりました。ウヴァーロフも優雅で端正なテクニックで踊りました。でも、主役はザハロワ様でした。ちなみに、今回踊ったのはグリゴローヴィチの新版のようです。

  「カジミールの色」(ディアナ・ヴィシニョーワ、ウラジーミル・マラーホフ)

   この作品は別のダンサーで前にも観たことがあります。同じ作品のはずなのに、雰囲気がぜんぜん違います。マラーホフが踊ると、ロビンス版「牧神の午後」といい、この「カジミールの色」といい、なぜ作品から男女の性愛や情愛の要素が一掃され、漂白されたかのような、わるくいえば無味無臭なものになってしまうのでしょう?とりあえず、ヴィシニョーワは身体能力がズバ抜けていること、コンテンポラリーにも対応できることはよーく分かりました。

  「マノン」より“寝室のパ・ド・ドゥ”(ポリーナ・セミオノワ、フリーデマン・フォーゲル)

   もっと練習してから出直してこい。

  「ドン・キホーテ」(ナターリヤ・オシポワ、レオニード・サラファーノフ)

   ふたりともよく踊ってました。オシポワちゃん、「ろくろ回し」されているときに、目玉をひんむいて歯を食いしばるのはやめましょう。美的に問題ありです。それから、お辞儀をするときに顎を上向けるのもやめましょう。やはり美的見地からすれば問題ありです。サラファーノフ君、君のテクニックは確かにすばらしい。でも、踊りが2年前とまったく変わってないじゃないか。振りまでそっくり同じじゃないか。それでいいのか?・・・こーいう観客がダンサーを追いつめるのかな。

  フィナーレでは全員が出てきて挨拶しました。真ん中にザハロワ様が陣取っていて、しかも他の女性ダンサーたちよりも、常に当然のように一歩前に出て、臆することなく堂々とお辞儀をしていたのがおかしかった。

  終演時間はなんと10時過ぎ!6時に始まって4時間後に終演かよ。疲れたけど、なかなか面白かったです。拍手のしすぎで手が痛い・・・。
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