ファラオの娘

  今日(11日)はボリショイ・バレエ団の「ファラオの娘」を観に行ってきました。これはいろんな意味でもの凄い作品でした。
  まず、ストーリーと踊りとが完全に分離していて、ストーリーはほぼマイムとジェスチャーによって説明されます。そしてストーリーとは何の脈絡もなく、いきなり踊りが始まります。最初から終わりまでこのパターンの繰り返しでした。

  更に、そのストーリーが「いくらなんでもそんな展開はねーだろ」という、あまりにもご都合主義的で、また非常に理解不能な、かな~り無理のあるものでした。

  イギリス人探検家のウィルソンと使用人のジョン・ブル(←ぶっ)が、ピラミッドの調査をしているうちに古代エジプトの世界に迷い込む。ウィルソンはタオール、ジョン・ブルはパッシフォンテという名になって、タオールはファラオの娘であるアスピシアと恋に落ちる、という話なのです。

  原作はテオフィル・ゴーティエ(女の幽霊が生きた男と恋をする小説ばかり書いた作家)の「ミイラ物語」だそうです。「ファラオの娘」が初演された1862年当時は、この手のストーリーが流行りだったらしいのです。ただし今となっては、まるでハリウッド製作のB級ロマンティック・アドヴェンチャー映画のようで、ツッコミどころ満載でした。

  だけどストーリーはともかく、踊りはとてもすばらしかったです。振付は総じてかなりトリッキーで、どのステップにもひとひねり加えてありました。更にそれらの複雑な技が息つく間もなく次々と展開されるので、ダンサーたちは本当に大変でしょう。
  出演人数は多く、ボリショイ・バレエ団のダンサーが総出演だったのではないかと思います。主役から群舞まで、みなすばらしいテクニックを披露してくれました。

  しかし、終演するやいなや、多くの観客がカーテン・コールを待たずに席を立って、さっさと帰り始めました。カーテン・コールが行なわれている最中も、たくさんの観客が続々とホールから出て行きます。私は平日の夜公演を観ることが多いのですが、こんな情景を目にしたのは初めてです。あれは抗議の意の表れだったのでしょうか。

  私はといえば、確かにこんな作品でS席19000円は高いのでは、と感じました。どうせ同じ値段なら、「ラ・バヤデール」をもう一度観るべきであったと少し後悔しました。でも、ボリショイ・バレエ団のすばらしさを存分に堪能できただけで、観に来た甲斐は充分にありました。
  ただ本音を言えば、もうこの作品は観なくていいです。
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