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よく老いる外観

2011-05-09 20:07:42 | 素材と色彩
かれこれ15年くらい前、ドイツ旅行から帰った友人の発した一言が未だに鮮明な記憶として残っています。
“建物が汚い、薄汚れている”。私は当時、まだヨーロッパに行ったことが無かったので、西洋の美しいまちなみに強烈な憧れを抱いていた私の心が粉々に打ち砕かれた…ことをよく覚えています。

つい先日、イギリス王子の結婚式の際にはウエストミンスター寺院の外観のエイジング具合に釘付けになってしまいました。建物の足元を見ると、じわーっと染み汚れが広がっています。とても年季が入っていて、その背景と新郎・新婦の装いがとても対比的でした。赤い制服と白いドレス、街路の緑、そして建築物のくすんだベージュの関係性がとてもバランス良く整っており、美しい風景だなあと思いました。

長く外観の美観を保つということ。色彩計画には不可欠な視点です。竣工当時の姿を、出来るだけ長く維持したい。或いは容易なメンテナンス、出来ればメンテナンスフリーで、修繕に掛かるコストを抑えたい…。通常の業務では、それらの視点がごく当然のこととして、計画に組み込まれていきます。

一方、私たちには時間を経てある種朽ちる寸前のような素材・色彩にも、美を感じる心があります。古代から先人達はひなびたもの、枯れ行く姿にそこはかとない美しさを見出し、歌や絵画等にその心を映し出すことで、日本独自の文化を育んで来たのだと思います。日々の暮らしの中にある、さりげないけれどかけがえの無い豊かさに触れた時の感動は、これもまた言葉や目に見える形に置き換えることの出来ない、価値が感じられるものです。

【イタリア・アッシジの外壁の一部】


2007年に初めてイタリアを訪問した際、冒頭の友人のように汚い、とまでは思いませんでしたが、かなり古びていて決して“きれい”だとは言えないと感じました。目に触れる部分はどこもかしこも何層にも塗り重ねられたペンキが所々剥がれ落ち、塗り方もとてもラフで大雑把な印象でした。ですが、何かまるで一枚の印象画のように、微妙で繊細な色の変化やちょっとした陰影が心に響いてくる、と思いました。

【イタリア・アッシジのまちなみ】


そして少し引いてまちなみを見てみると、それはやはり調和やリズムを持った美しいまちなみに他ならない、と感じられるのです。

良い具合にエイジングした仕上げ材について、ことある毎にその要因は何なのか考え続けています。昨年、建築家の内藤廣さんの“建築と素材”という講演会の際、“ケミカルな材料は時間が染み込まない”と仰っていて、それは本当に適格な表現だと感じました。

時間の蓄積や経過が感じられるか。更に人の手の痕跡、高度な技術という観点のみならず、その地域に根付いてきた技法・工法等の手業感が感じられるかどうか。
時間と手業、というのが判断の基準となるように思います。ケミカルな材料は耐久性に優れているものの、建築的な納まりの不具合なども手伝って、部分的に汚れが目立ってしまったり、一時期にどっと全体の疲労感が滲み出てしまったりする場合があります。それを内藤さんは“良い歳の取り方をしない”とも仰っていました。

素材・色彩の選定と、時間の経過は切り離すことは出来ません。設計者にメンテナンスをする覚悟があっても、実際に管理にあたる方が素材の特性を理解し、良い付き合い方を構築していかなければ、長く美観を保つことは不可能です。

建築外装における美観は、単に竣工時の完璧な完成度や清潔さだけを追求するものであってはならないと考えています。ともすると現代は新しいこと=美しい、と置き換えられてしまいがちです。

命あるものが老いるように、まちも建築物も同じように歳を取って行く。自身が年齢を重ねるに連れ、メンテナンスのしやすさも考慮しながらも良い歳の重ね方をするような素材・色彩を選定しなければならないと考えています。
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