環境色彩デザインを考える人へ

長年の経験と実践の中から、色彩デザインに役立つ情報やアイデアを紹介して行きます。

下地の色、その影響と可能性

2012-02-21 19:31:50 | 日々のこと
年明け早々、とある現場で色決めを行うので一緒に現場に来て欲しい、と所長から急な連絡を受け立ち合った現場のことを少しご紹介します。

普段色彩計画に携わる際には出来るだけ総合的な調整に係わることを基本としているので、例えば『ここの色何色がいいと思う?』というような相談の際にも、まずは現場に行って状況を確認し、既に決定している色や調整が可能な部分・色を全て確認してから、選定に対するアドバイスを行うようにしています。

既に様々な色が出現してしまっていると調整に困難をきたすので、お付き合いのある建築設計事務所の方々には常々『相談は部材・塗料の発注時期に係わらず、一刻も早く!』とお願いしてきました。それでも、いざ色を決める段になって普段あまり使ったことの無い色だと判断が難しかったり、決断の根拠をどこに求めるか迷ったりすることがあるのだと思います。そうした設計者の思いを汲み取り、最終判断のお手伝いをするという仕事も私たちの大切な業務の一つです。

これは都内で改修・建築中のある競技施設です。主に塗装色についてアドバイスを行いました。鉄骨自体は既存のもので、元々白だったものを補修して塗り替えています。競技場内部から見た際、背景の常緑樹と白はかなり対比的で、鉄骨が目立っていたことと思いますが(年末にこの色を選定したのは我が所長、私はその現場を見ておらず。現地に行った際は既に塗り終わっていました)、彩度を抑えたダークグリーンに変わったことにより、背景に馴染んで目立ちにくくなっています。





明度の低い色に変わったことにより、競技者にとっては視界に目障りなものがなく集中しやすい環境が整った、と言えると思います。また、競技場は公園の中にあり、高木に囲まれるように配置されています。そのため、低明度色を使っていますが外から見た際にも圧迫感を感じにくく、樹木と連続して木立のような見え方となっています。所長が競技者にとっての快適性と、周辺からの見え方のバランスに細やかに気を配り、選定を行った様子が見て取れました。

私が現場に立ち会った際には、新しく建設中の競技場の大庇や天井トラス等の色決めを行うタイミングでした。高い天井を見た際、トラスが穏やかでグレイッシュなグリーンで塗装されており、『ん?もう色を決めて塗ってしまったのかな?』と思いました。ところがなんとこれが錆止め塗装の色だったのです。



一般的な鉄部の錆止めはいわゆる“赤さび色”で、その色自体に善し悪しがある訳ではありませんが、多くの場合実際に塗装される色との違いが大きく、当たり前のことですが完成後は全くその痕跡が無くなってしまう下地としての存在です。何となくいつもそのことに違和感を持っていて、塗膜である以上、下地(の色)を拾わない強度を持っているということもわかるのですが、ならばもっと下地として目立たない色であっても良いのになあ、等と考えたことがありました。

測ってみたところ、5G 5.0/1.0程度の中明度・低彩度のグレイッシュなグリーンでした。一瞬、このままでも良いのではと思うくらい背景に馴染んでおり、現場を見ている時も色が邪魔にならずあらゆる色を想定しながら考えることができ新鮮な思いがしました。

これが全面赤さび色だった場合、設計者の方はどうしてもその印象に引きずられる部分があるというか、その存在感を打ち消す方向だけを考えがちなのではないか、とつい要らぬお節介というか、心配というか…をしてしまいました。

下地である、という認識を持ちつつ、目の前にあるものの存在は何がしかの影響を与えているものなのかもしれない、と感じました。もちろん、経験して慣れて行くことにより影響をあまり受けずに選定にあたれることも事実だとも思っています。ただ何となく“これはこういう色なのだ”、という思い込みが打ち消された時、そこにあたらしい感覚というか、新たな視点が生まれ選択の幅を変える可能性もあるのではないか、と感じました。

現場は4月の竣工を目指して、着々と工事が進んでいます。さて、結果この天井トラスにどのような色が採用されたかは、竣工までのお楽しみ…ということで。

最新の画像もっと見る