特殊清掃「戦う男たち」

自殺・孤独死・事故死・殺人・焼死・溺死・ 飛び込み・・・遺体処置から特殊清掃・撤去・遺品処理・整理まで施行する男たち

赤と黒

2007-07-19 07:25:35 | Weblog
〝ギリギリ〟〝キツキツ〝カツカツ〟
え?何の音かって?
私の財布の中から聞こえてくる悲鳴。

お金って、入ってくるのは月一なんだけど、出ていくのは毎日。
あれよあれよという間に無くなっていく。
未練タラタラ、
「出て行かないでぇー!」
と叫んだところで、冷たく出て行かれてしまう毎日だ。

「世の中、金で解決できることがたくさんあるよなぁ」
「逆に、金で解決できないことはどれくらいあるだろうか・・・金で解決できることと比べたら、どっちが多いだろうか」
本来は計れないものをあえて計ろうとする、頭の悪い私である。


以前にも何度か触れたけど、特殊清掃撤去業務は原則として前金制で施工している。
ずっと前は、完全後払制でやっていたのだが、残念なことに(頭にくることに)、代金を払わずにバックレる人が何人か発生したため前金制に切り替えたのだ。
買ったモノのお金を払わない、借りたお金を返さないなんで、私には信じ難い行為なのだが、実際はそんな人が少なくない世の中なのである。

では、金を貸す人間と借りる人間は、どちらが強いのだろうか。
一見、貸す人間の方が強くて借りる人間の方が弱い感じがする。
表向きの経済力で計ると、確かにそうだ。
しかし、金銭貸借関係のにおいて、最終的に強いのは借りた側の人間。
「ない袖は振れない」
と開き直られたら、それでおしまいだからである。
「とれるもんならとってみろ」
と開き直る相手から実際にお金を引き出すのは至難の業なのだ。

実際に売掛金を踏み倒されてみると、しみじみ〝最後は借りた人間の方が強い〟ことを思い知らされる。
まったく、理不尽な話だ。

代金を払わない人は、大まかに2タイプに分かれる。
最初から払うつもりがない詐欺師タイプと、払うお金がない困窮タイプ。
私の経験では前者は少なく、圧倒的に多いのは後者。
その立場も気の毒ではある。

ある日突然に身内の孤独死・自殺・腐乱が、降って湧いたように発生するなんて、依頼者にとっても災難としか言いようがない。
心的・社会的にも大きなダメージを受けるのに、更に、経済的にも負担を強いられるわけで。
中には、〝相続放棄〟という荒業を使う人もいるけど、結局は誰かが事の収拾にあたり、誰かが尻拭いをしなければならないことを考えると、法的には認められても心情的にはなかなか受け入れ難いものがある。

「買ったら払う、借りたら返す」
この当り前の感覚が、経済社会の基礎・基盤。
この人間社会は、そんな暗黙の信頼関係があって成り立っていると思う。
人のことがまったく信用できないとしたら、何もできなくなるもんね。

だから、前金制を前面にだしながらも、実際にそれを実施する相手(依頼者)は少ない。
私もそれなりに経験を積み、それなりに相手(人)をみれるようになってきて、〝危なそうな人〟を見分けられるようになってきた結果だ。
依頼者の発する一語一句、物腰や顔つきを観れば掛け売りしていい相手かどうか分かる。
そして、幸いなことに、現実には掛け売りしても大丈夫な人・信頼関係が築ける人が大半なのである。


呼ばれて出向いた現場は、賃貸マンションの一室。
依頼者は年配の女性、故人の姉だった。
結構な高齢で、心身ともに弱っているようにみえた。
それでも物腰は礼儀正しく毅然とし、誠実な人柄を感じさせるもねだった。

女性は、弟が孤独死したことよりも、この事態をどう収めたらいいのか分からずに困惑していた。
マンション賃貸契約の保証人にもなっており、どうにも逃げられない状況。
しかし、一体全体、何をどうすればいいのかサッパリ分からない。
そんな中に、私は呼ばれたのだった。

軽い異臭が漂う部屋は、家財・生活用品は少なく、シンプルな様相。
ゴミが散らかっているわけでもなく、台所の床にある血液汚染以外は普通の部屋だった。

「ここを片付けてもらうとしたら、いくらくらいかかりますか?」
「恥ずかしい話なんですけど、年金暮らしであまりお金がないんです」
「今、払えるのは○○円くらいしかなくて・・・」
女性は、恥ずかしいと言うより本当に困った様子でそう言った。

私が見積金額を提示する前に支払可能金額を打ち明けてきたことで、女性の事情が嘘でもなく、値引の駆け引きでもないことがすぐに分かった。

それから女性は、
「できるところまで自分でやろうと思いまして・・・」
と言いながら、持って来た紙袋から何やら取り出し始めた。
中に入っていたのは、ゴミ袋・雑巾・洗剤etc

「〝自分でやる〟っつったってなぁ・・・素人、しかも老年の女性に特掃はキツいよなぁ・・・」
慣れた自分がやっても楽じゃない特掃を、老いた女性が苦労しながらやっている姿を想像したら、私は切なくて仕方がなくなった。
そして、いくら薄情な私でも女性の健気さに情を持たない訳にはいかなかくなってきた。

汚染レベルはライト級。
見積ついでにやってしまえば、時間的コストもかかりにくい。
また、女性が用意してきた清掃用品を最大限使えば、消耗品コストも抑えられる
あとは、自分の道具と労力を出血大サービスすればいいだけのこと。

「ことのついでだから掃除くらいしていくかな・・・さてと、さっさと片付けてしまおう」
本来の自分にはない奉仕精神が芽をだした私は、サバサバした気分で道具を整えた。
そして、女性に気持ちに負担を与えないよう、淡々と作業に取り掛かった。

黙々と動かす手元は赤と黒に染まり、それは人が死んだことを忘れさせるくらいにどこまでも赤く、そしてどこまでも黒く私の精神に響いた。
そして、そんな凄惨な光景が広がっているにも関わらず、作業を少しでも手伝おうとして私の傍から離れない女性の気遣いと心労が、私の作業を心の面で支えてくれた。

「ありがとうございます・・・」
きれいになった台所を見て、女性は泣きながら喜んでくれた。
お金がかからなかったことよりも特掃野郎の心意気を喜んでくれたようで、通じ合う気持ちに私もお金に換えられないモノをもらった。

家財・生活用品の撤去処分は後日の施工となった。
これは、さすがに無料とはいかなかったけど、作業日時等を調整して、できるかぎり女性の予算に合わせられるよう努力。
消毒剤や消臭剤も、普段の余りモノをかき集めて。
それもこれも、女性の苦境と誠実さと健気さが伝わってきたからこそできたことだった。

結局、実質的にみると、この現場は赤字仕事になってしまった。
しかし、
「金は赤字でも心は黒字」
と考えると損した気分にはならない私だった。

財布が赤字でも心が黒字ならいい。
財布が黒字でも心が赤字なのは御免だ。
正直言うと、やっぱ、財布も心も両方が黒字だったらいいな。

いつかくる人生の総決算。
それが黒字になるか赤字になるかは、今の生き方にかかっているのである。






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特殊な清掃業務をメインに活動しております。
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