特殊清掃「戦う男たち」

自殺・孤独死・事故死・殺人・焼死・溺死・ 飛び込み・・・遺体処置から特殊清掃・撤去・遺品処理・整理まで施行する男たち

ビーフシチュー(前編)

2006-07-27 15:09:38 | Weblog
嫌いな訳ではないけど、ビーフシチューなんて滅多に食べない。
しかも、この暑い季節には。
そんな私は、ビーフシチューを目にすると思い出すことがある。
自分の中では伝説になっている現場のことを。

現場はマンションのユニットバス。
狭いスペースに風呂とトイレが一体型で設置されている密閉された空間。
その光景は、「なんでここまでになるまで発見されなかったんだ?」と場慣れしている私でも驚嘆するくらいに衝撃を受けるものだった。
溶けかかった人肉が床一面に広がり、5cmくらいの厚みがある腐敗粘土層を形成していた。
それ自体が床のようにも見えるくらいに、床一面がきれいに腐敗粘土に覆われていたのだ。
そして、その粘土層の数箇所にこんもりと盛り上がった部分があった。
そう、解けるスピードが遅い部位が半固体のまま残っていたのである。
熟成された腐敗臭に、細長い体型をした奇妙なウジがいたりして、現場の不気味さを色濃くしてくれていた。

「とにかく、きれいにしてほしい」という依頼者の要望に対し、さすがに「どうやったらきれいになるんだろうか・・・」とたじろいだ。
依頼者は他に頼める人がいないらしく、藁をも掴むような物腰と弱りきった表情だった。
「この現場じゃ、できるヤツは限られているだろうなぁ・・・(冷汗)」と内心で呟きながら、「とにかく、やるしかない」と心に決め、策を見つけられないまま勢いで引き受けた。
私は依頼者に対して変な使命感を持ってしまうことが多く、ほとんど職業病かもしれない。
引き受ける代わりの条件として、見た目をきれいにすることを最優先に「悪臭は根絶できないこと」「ある程度の日数を要するかもしれないこと」を了承してもらった。

作業初日は緊張した。
とにかく、実践と対策を繰り返しながら試行錯誤するしかなかった。
細かい作業内容や作業手順、使用薬剤や器具等は企業秘密(という程のものでもないけど)と言うことで省略するが、今回は作業の山場を記そうと思う。

困難を極めたのは腐敗粘土(元人間)を除去する作業。
小さなスコップ状の道具で腐敗粘土をすくい取る。
それは、液体に近いものから固体に近いものまで場所によって態様が違い、サックリすくえるモノからスコップからボタボタと垂れてしまうモノまであった。
すくい取ったモノはバケツに移す。
バケツがいっぱいになったら、外へ運んでビニール袋に入れる。
その作業をひたすら繰り返した。
汚物が身体に着かないように作業するものだから、無理な体勢を続けざるを得ず、体力的にもかなりキツかった!
それにも増してその気色悪さときたら・・・泣けるくらい(笑)。
「人間をスコップですくうって、どういうことだよぉ!」「バケツに入る人間って、何なんだよぉ!」「何でこれが人間なんだよぉ!」
私は脳の思考を停止することによって気持ち悪さをクリアするタイプなのに、この現場は思考を停止することを許してくれなかった。
無理矢理に動かされた私の思考回路はショート寸前でぶっ壊れてしまいそうだった。

そんな作業をコツコツと続け、やっとのことで作業も後半戦い入ることができた。
しかし、本当の山場はこれからだった。
防衛本能が働いたのだろうか、私は無意識のうちに床に盛り上がった肉塊を残してしまっていた。
当然、そんなモノを残して帰る訳にはいかない。
意を決して、その肉塊にスコップを入れた。
グスグスとスコップが入る感触とモッチャリした重量感、グレード変えて襲ってくる悪臭に気が遠くなりそうだった。

グルメ番組のリポーターが肉の柔らかさを表現するためによく使うセリフ。
「歯を立てなくても舌の上で崩れる」「口の中で溶ける」
まさに、この表現はこの人肉にもピッタリ当てはまった(当てはめてゴメン)。

しかし、腐敗肉は食い物ではない(言うまでもないね!)。
しばらく直視なんてしようものなら、逆に胃の中のモノが飛び出てきただろう。
私は、とにかく視線を上に向けて泳がせながら、なんとかこらえるしかなかった。
何個か目の肉塊をすくった時、持ち上げたスコップから肉塊の一部が崩れ落ちた。
その肉塊の中に目をやった途端、私の全身に雷のような悪寒が走り抜けた!
私は、持っていたスコップを放り投げて、思わず叫んだ。

「何!?何だよぉ・・・これは一体何なんだよぉーッ!」



つづく。
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