特殊清掃「戦う男たち」

自殺・孤独死・事故死・殺人・焼死・溺死・ 飛び込み・・・遺体処置から特殊清掃・撤去・遺品処理・整理まで施行する男たち

思い 思われ

2017-04-24 12:13:25 | 自殺 腐乱
不動産会社から、とある相談が入った。
相談の内容は、特殊清掃と御祓いについて。
管理物件で自殺があり、その遺体はヒドく腐敗。
家財は保証会社(有償で賃貸借契約の連帯保証人を務める会社)が撤去したが、保証会社の仕事はそこまで。
特殊清掃はもちろん、消臭消毒もされず放置。
不動産会社には工事部門があったが、そこの作業員は気持ち悪がってやりたがらず。
そこで、相談の電話が入ったのだった。

「費用は、当社負担になるものですから、あまり料金が高いとお願いできないんですけど・・・」
「それでも、とりあえず、見にきてもらいたいんです・・・」
と、担当者は事情を説明してくれた。
私の仕事は、相手が法人・個人を問わず、
「とりあえず、見積だけだして!」
と、ぶっきらぼうに指示されることも少なくなく、また、現地調査に出向いて見積を提出しても、以降、何の連絡もよこさず無視されることも多い。
そんな中で、事情を正直に話してくれた不動産会社に、私は好印象を抱いた。

現地調査の日。
訪れたのは、住宅地に建つ低層の賃貸マンション。
現場には、電話で話した不動産会社の担当者、そして、工事部門の責任者と作業員が来た。
全員と初対面の私は、一人一人と名刺を交換し挨拶。
そして、
「平気ですか?」
「“全然平気”ってことはないですけど、ほぼ平気です」
「そうなんですかぁ・・・」
「そんなこと気にしてたら仕事になりませんし、自分が苦労するだけですから・・・」
と、慣れた質問にいつも通り応え、場の雰囲気をやわらかくした。

我々四人は階段を使って現場の部屋へ。
玄関ドアの前に立つと、担当者が鞄から鍵を取り出し、それを鍵穴に挿入。
そこで担当者は動きを止め、そして、三人は顔を見合わせた。
「どうする?」
「誰が入る?」
「自分は入りたくない」
三人の表情から、そんな意思が読み取れた私は、
「大丈夫ですよ・・・私一人で見てきますから」
と声をかけた。
すると、三人はそれぞれ申し訳なさそうな表情で頭を下げ、私に進路を譲った。

ドアを引くと異臭が噴出。
ただ、「異臭」と言っても、私にとってはライト級。
しかも、あらかじめ心積もりはしていたので、動揺はまったくなし。
私は、顔を顰めて後ずさりする三人を背に、室内に素早く身体を滑り込ませた。
そして、いち早く汚染痕を見つけると、それに近寄って現況の検分を始めた。

間取りは1R。
40代の男性が単身で居住。
しかし、一ヵ月ほど前に、そこで自殺。
無職で人づき合いもなかったらしく、発見は遅れて それなりに腐敗。
家財はすべて片付いていたが、部屋には、遺体の汚染痕とウジ殻とハエ死骸が残っていた。
ただ、汚染痕も薄く、害虫も少数。
清掃作業は簡単に済むレベルだった。

作業員にとっては、ハードも問題だったが、それよりもメンタルの問題の方が大きかった。
工事部門の作業員は、それまでにも何度か、孤独死現場の工事を施工したことがあった。
中には、汚い現場やクサい現場もあった。
その処理作業に従事するのは気が進まなかったが、上司の指示もあったし仕事の責任感もあった。
だから、ギリギリのところで頑張ってきた。
しかし、今回は、勝手が違った。
それまでの現場は、すべて、老衰死や病死などの自然死。
しかし、今回は自殺。
そこのところに気持ちが引っかかり、恐怖感にも似た不安感が沸いてきたのだった。


実際、私の会社のサービスには、“遺品の供養処分(想い出供養)”や“御祓い(供養式)”といったアイテムがある。
“御祓い”は、寺院の僧侶が現場に出向いて読経・焼香するもの。
(※本来、「御祓い」は神道行為だが、ここでは意を汲みやすくするため、仏式の場合も「御祓い」という言葉を使用する。)
もちろん、御布施・運転手代・車代等、一定の料金はかかる。
しかも、問題は、目に見えないところにあり、非常にデリケート。
当然、“成果”の保証はできない。
“御祓い”をした後も不安感や恐怖感が抜けなかったり、また、よからぬことが起こって“御祓い”のせいにされたりしても困る。
だから、自分から勧める(売り込む)ようなことはしない。
「やったほうがいい?」「やる必要ない?」
といった質問を受けても、責任が取れることではないので、あえて どちらとも応えない。

ただ、私個人は、そういった類の信心を持たないから、個人的には、“御祓い”は重視しない。
霊や魂の存在を信じないわけではないけど、“故人の霊が何かよからぬことを引き起こす”なんて気はしないから。
そうは言っても、気になる人は気になるし、気にする人は気にする。
大切なのは、そんな人の気持がどこまで和むか、心の平安がどこまで得られるかということ。
これは、私の浅知恵や精神論ではどうこうできるものではないし、人の心に深入りした後の責任も持てない。
だから、私は、“御祓いをやるorやらない”は、依頼者自身の考えと責任において決めてもらうよう促すのである。


私に霊感はない(多分)。
だから、俗に言う“幽霊”といった類のものと遭遇したこともなければ、霊的な体験をしたこともない。
しかし、私の周囲には、そんな体験を持つ人が少なくない。
昔の同僚女性に、幽霊がよく見える人がいた。
一緒に現場に行くと、
「故人が、遺族の中に混ざってこっちを見ていた」
等とよく言っていた。
また、一緒に車に乗っていると、
「今、歩道橋から人が首を吊った!」
と、急に悲鳴をあげたりもした。
私の両親は、真夜中、台所のガラス戸に映る青白い炎(人玉?)を見たことがあった。
二人で同時に見たわけだから、ウソではないと思う。
取引先の男性は、妻と就寝中、寝室に近づく足音で目が覚めた。
誰かが部屋に入ってきたことを感じて、恐る恐る目を開けると、そこには女が立っていた。
これも、二人で同時に見たわけだから、ウソではないと思う。
知り合いの医師は、宿直で仮眠中、誰かが馬乗りになってきて首を絞められたことがあった。
そして、似たような目に何度もあった。
その他、誰も乗っていないはずの霊柩車から人が降りてくるのを見た人もいれば、よく金縛りにあう人もいる。
また、我々の仕事では、職務上、現場の作業前写真と作業後写真を撮ることが多いのだけど、同僚が自殺腐乱現場で撮った写真に、故人の最期の姿が煙のように写っていたこともあった。

しかしながら、私自身、そういう経験はない。
ただ、その存在は信じている・・・というか、どことなく感じている。
が、“それらが自分を祟る”とか、“それらによって悪いことが引き起こされる”とは考えていない。
仮に、不運が続いたとしても、原因は他にあると考える。
普段はとことんネガティブな人間なのに、こういうところだけは悲観的にならない。
それは、私が、固有の信心を持っているが故だろう。
ただ、そういう信心は、私が優しい善人だから持てているわけではない。
故人や遺族・関係者に対して罪悪がないから持てているわけではない。
もちろん、「故人が感謝してくれている」なんて思い上がった考えを持っているからでもない。

「亡くなった人に対して誠意を尽くしているから、後ろめたいことなんか何もない」
「仕事には誠心誠意あたっているから、故人に顰蹙(ひんしゅく)をかうわけない」
そう言えればいいのだけど、残念ながら、そんなことは言えない。
私は、この仕事は“ビジネス”としてやっている。
このケチぶりが物語っているように、実際 大して儲かりはしないけど、その目的は金儲け。
正直なところ、依頼者の足元を見てしまうこともある。
そうでなくても、打算の上で作業内容と料金を提案し、契約を成立させるべく交渉する
怠心や邪心もある。
余計な手間をかけず、作業を効率的・合理的に進めるよう努める。
もちろん、約束した仕事は手を抜かずやる。
礼儀やマナーは重んじるし、時には、相手の立場になってものを考えたり、同情心や親切心が働いたりすることもある。
ただ、結構、事務的で冷淡だったりする。

しかし、ビジネスでやっている以上、それも悪いことではないと思っている。
ただ、人としての私には悪所=短所・欠点・弱点がたくさんあり、そのために、多くの苦悩や労苦を抱え、重い気病を患っている。
そして、それらが、情けないくらい、恥ずかしいくらい、悲しいくらいに曝け出る。
それが仕事中の現場でも、曝け出てしまう。

これまで生きてきて、泣いた、悩んだ、苦しんだ、逃げた・・・でも、がんばったこともあった。
肉体の有無が違うだけで、亡くなった人も 同じように“人”。
私と似たようなところが少なからずあったと思う。
そんな故人に、私は、同情してもらっている、わかってもらっている、思いやってもらっている・・・
“自分本位”“独り善がり”は承知のうえでも、私は そんな気がするから、故人の霊・魂の類をネガティブに捉えずに済んでいるのではないかと思う。

故人を思いやることがある私。
私を思いやってくれているかもしれない故人。
この共感が、この共生が、私を前方へ誘ってくれ、また、私の前進を後押ししてくれているのかもしれない・・・
だからこそ、私は、懲りもせず、光に導かれるかのように現場に走るのかもしれない・・・
そして、それもまた、自分に一つの意義(幸せ)をもたらすものなのかもしれないと思うのである。


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特殊清掃についてのお問い合わせは
0120-74-4949

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