特殊清掃「戦う男たち」

自殺・孤独死・事故死・殺人・焼死・溺死・ 飛び込み・・・遺体処置から特殊清掃・撤去・遺品処理・整理まで施行する男たち

陰日向

2008-05-15 07:01:09 | Weblog
このGW前、大手企業に勤めている知人に、
「例年は11連休はとれるのに、今年は少ない」
とボヤいている人がいた。
過ぎてみると9連休だったらしいけど、〝よくもまぁそんなに休めるものだ〟と感心する。

また、地方公務員の知人は、
「うちらの仕事は、〝忙しい〟とか〝ヒマ〟とか関係ないから・・・」
とのこと。
土日祝祭日に有給休暇を加えて、仕事よりプライベートにウエイトを置きながら悠々自適?にやっているみたい。

会社(役所)も本人も、それで仕事に支障がでないのだから大したものだ。
大組織に勤めたことがない私には、その仕組みが不思議でならない。

何はともあれ、苦悩と疲労の中で労働に従事しているのは私だけではない。
その種類が違うだけで、人それぞれに悩みも苦労もあるだろう。
そんな中でも、一人一人がそれぞれの場所で頑張っている。
私も、自分で自分を可哀想がってばかりいないで、頑張らないとね。


ある日の午後、男性から仕事を依頼する電話が入った。

「一人暮らしをしていた父親が亡くなりまして・・・」
「それは御愁傷様です」
「葬儀が終わったので、住んでいた家を片づけようと思いまして」
「そうですか・・・簡単で結構ですので、部屋の状況を教えて下さい」
「はい・・・」
亡くなったのは男性の父親だったが、男性は何事もなかったかのように平静。
私は、建物の種別・間取り・階数・死因・死後経過時間etc・・・頭の準備を整えるため、いつも尋くようなことを男性に質問。
男性は、それに落ち着いて応え、私の頭には具体的な映像が思い浮かんできた。

「できたら、早めに片付けたいのです」
「はい・・・」
「今、休暇をとっているのですが、そうそう休んでもいられないもので・・・」
「なるほど・・・では、明日にでも伺います」
「よろしくお願いします」
「では、明日の〓時に現地で・・・」
男性は、自分の仕事が気にかかっている様子。
更には、賃貸である部屋を明け渡す期限もあるよう。
私達は、携帯電話の番号を交換して電話を終えた。

その翌日、約束通り、私は現場に出向いた。
公営団地らしき建物は、地味な造りながら築浅できれい。
私は、エレベーターを経由して目的の部屋に直行。
それから、表札の外された玄関の前に立つとインターフォンをプッシュ。
すると、スピーカーから返事がきて、続いて玄関ドアから中年の男性が顔をのぞかせた。

「おはようございます」
「お待ちしてました・・・ご足労お掛けして申し訳ありません」
「いえいえ・・・現地調査も大事な仕事ですから」
「では、早速・・・どうぞ中へ・・・」
「失礼します」
男性は、丁寧な口調と紳士的な物腰。
私は、男性の第一印象に好感を抱きながら玄関の中へ。
家に土足で上がることが多い私は、男性の足元を確認してから靴を脱いだ。

「荷物は少ないですね」
「年寄りの一人暮らしでしたからね」
「それに、きれいに片付いてますね」
「几帳面な性格でしたから」
「確か・・・ここで亡くなったっておっしゃってましたよね?」
「ええ・・・そこのベッドの上で・・・」
「そこですか・・・言われないとわかりませんね」
「そうですね・・・」
「特段のニオイもありませんし」
「はい・・・」
家財生活用品の類は極めて少量。
しかも、整理整頓が行き届いており、内装が新しいせいか全体的にもきれいな状態。
年配者が一人で暮らしていたことは感じられない雰囲気があった。

「発見されるまで、どのくらい経ってたんでしょうか」
「担当の方がすぐに駆けつけてくれたらしいんですが、その時はもう・・・」
「担当の方?」
「ええ、この建物には、非常通報装置が設置されてましてね」
「はい・・・」
「倒れる寸前に、親父が自分で知らせたみたいです」
「なるぼど・・・そうでしたかぁ・・・」
「ここに越してきて一年も経ちませんけど、ここに住まわせててよかったですよ」
「はぁ・・・」
「倒れたことに気づかすに放置してたら大変なことになるところでしたから・・・」
「・・・ですね」
「それが避けられただけでも、よかったのかもしれません・・・」
「・・・」
そこは、身体が不自由だったり弱めている人が優先的に入居する所のようで、室内は、段差の少ないバリアフリー・廊下も広めの構造。
部屋には非常通報装置が設置されており、今回、それが使われたようだった。

故人は、妻女に先立たれてからずっと一人暮らし。
男性も、父親のことが気にならない訳でもなかったが、責任ある仕事と日常の生活に追われて、関係は疎遠に。
故人は、年齢を増して身体が弱まってきても、誰かとの同居も老人施設への入所も拒否。
そこで、少しでも安心できて暮らしやすいこの団地に越して、男性との折り合いをつけたのだった。


「部屋もきれいですし荷物も少ないですから、片付けはすぐにできますよ」
「そうですか・・・できるだけ早く片付けたいので、お願いします」
「貴重品類は探されましたか?」
「一部だけ・・・どちらにしろ、大したものはないはずですよ」
「じゃ、私が細かいモノを梱包していきますので、そのついでに貴重品を探してみますか?」
「はい、そうしていただけると助かります」
私は、貴重品探索のついでに荷物を梱包することに。
〝あとは捨てるだけ〟の状態にしておけば、後日の搬出の際に、男性に時間的な負担をかけなくても済むし、男性もそれを望んだ。

小さなモノはいくつか出てきたものの、男性の言う通り、大した貴重品類は出てこず。
ただ、男性は、一つ一つを感慨深そうに・名残惜しそうに手に取ったり眺めたりしていた。
そんな時間がまた、故人の死と故人との死別を深く認識させるのだった。


「今日の作業は、こんなところでしょうか」
「はい」
「鍵を預けていただければ、あとの搬出作業は日をあらためてキチンとやらせていただきますので」
「そうしていただけると助かります・・・ありがとうございます」
「どういたしまして」
「代金は後日でいいですか?」
「ええ、作業が全部終わってからで構いませんよ」
「助かります・・・では、身分証の代わりに勤務先の名刺を渡しておきますね」
「恐縮です」
男性は、売掛のリスクを言わずとも察してくれ、私に名刺を差し出した。
私は、その機転と配慮に、男性へ抱いていた印象を更によくした。

「立派な会社にお勤めなんですね」
「いやぁ・・・大したことないですよ」
「役職もスゴいし・・・」
「いやいや・・・ただ、親父はこの仕事を喜んでくれてましたけどね」
名刺には、名の知れた会社と重みのある肩書き。
その仕事には関係ない私でも、それによって腰を低くさせられそうになった。

通常、仕事や肩書に関するお世辞にノッてくる人は多く、それを自慢したがる人は多い。
勤務先や肩書に自分の価値を置いて、それに依存して生きている人は、意外に多いのだ。
実際、私の過去にも、それをカサに威張り散らしている人が何人もいた。
それがなくなると、呆気なく丸裸になってしまうことも知らずに。

しかし、この男性は違っていた。
会社では相当のヤリ手だろうに、男性は、そんなこと普段から気にも留めていない様子で私のお世辞を軽い謙遜で受け流し、話題を故人のことに移していった。
そして、その物腰が、男性の深い懐と厚い人格を感じさせた。

「この世代の多くの人がそうだったように、親父も苦労人でね・・・」
「はい・・・」
「自分は貧乏しながらも、私にはキチンとした教育を受けさせてくれました」
「そうですか・・・」
「〝学校をでたら陽の当たらない仕事に就け!〟ってね」
「陽の当たらない仕事!?」
「そう・・・」
「〝陽の当たる仕事〟じゃないですか?」
「いや、それがね・・・つまり、〝ホワイトカラー〟・・・オフィスワーカーのことを言いたかったようなんです」
「なるほどぉ・・・ユニークな表現ですね」
「自分がブルーカラーの外仕事・・・いわゆる肉体労働で苦労したから、息子には同じような目には遭わせたくなかったんでしょう」
「そうでしたか・・・」
男性は、故人の生き様を思い出して、あらためて何かを感じた様子。
それを噛みしめるように、口を一の字に固めた。

「ちなみに、私も、ある意味で〝陽の当たらない仕事〟ですよ」
「???」
「作業のほとんどは屋内ですし」
「はぁ・・・」
「ついでに、社会的認知度も低いですしね」
「確かに・・・」
「正直、〝なんでこんな仕事を選んじゃったんだろう〟なんて、よく思うんですよ」
「そうですか・・・」
「世間からの色んな目もありますしね・・・」
「・・・」
「スイマセン・・・余計なこと愚痴っちゃって・・・」
「いえいえ・・・率直なところ、私も第三者だったら変な目で見たかもしれませんよ」
「そうですか・・・でもまぁ、正直にそう言われる方が、上っ面の社交辞令で片付けられるより嬉しいですよ」
「しかし、世の中に必要な仕事だと思いますよ・・・助けられている人も多いんじゃないですか」
「だといいんですけど・・・」
私は、飾らない考えを述べる男性に誠実さを感じた。
そして、この男性をこういう人物に育てた故人にも、敬意に似た好感を抱いた。

「私も、仕事がツラいときもありますけど、そんなときは、いつも親父のことを想い出すんです」
「はい・・・」
「親父が私の歳だった頃のことを想像するんですよ」
「・・・」
「そうすると、今の私なんかより、ずっと苦労してた親父の姿が蘇ってきてね・・・」
「えぇ・・・」
「そうすると、どんな境遇にもへこたれることなく生きてきた親父に励まされたように元気が湧いてくるんです」
「そうなんですね・・・」
話しているうちに、男性の顔はキリリ。
〝少々の困難は打破してみせる〟といった気概が漲ってきた。
そして、その話には、私も励まされるものがあった。

「この歳になって思うと、親父は、気づかないところで陰になり日向になって私を育ててくれてたんですよね」
「そうでしょうね・・・〝父親〟って、そういうものかもしれませんね」
男性は、会社では一目も二目も置かれる存在に違いなかったが、その時は、故人に対する子供そのもの。
その穏やかな表情は、父親に対する感謝の念でいっぱいになっている心情を表していた。


その日の作業を終え、私は男性と別れて現場を後にした。
そして、会話の余韻を残しながらの帰途中で男性親子のエピソードを反芻し、何とも言えず雄々しい気持ちが湧いてくるのを覚えた。
と同時に、〝特掃隊長〟こと悲劇の死体業ヒーローは、いつも自作自演自観の喜劇に埋没している不甲斐なさに苦笑いをした。

「〝陽の当たらない仕事〟かぁ・・・」
かつての故人が男性に話したその言葉は、しばらく私の脳裏に残った。
そして、それを考えているうちに、その意味はただの〝ホワイトカラー〟だけを指したものではないように思えてきた。

「社会の陰にあっても社会に必要な仕事、世間に嫌悪されても依頼者に愛される仕事、価値を持たなくても価値をつくれる仕事・・・そんな仕事をやりなさい」
故人から、そんなメッセージが伝わってきたような気がして、太陽に向かってちょっと胸を張ってみる私だった。








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