特殊清掃「戦う男たち」

自殺・孤独死・事故死・殺人・焼死・溺死・ 飛び込み・・・遺体処置から特殊清掃・撤去・遺品処理・整理まで施行する男たち

電話談義(後編)

2007-08-03 09:11:50 | Weblog
慣れたこととは言え、食事中に電話が鳴ると、ちょっと慌てる。
親しい相手ならいざ知らず、仕事の電話は口にモノを入れたままでは喋れない。

そんな時、「電話にでない」ことが許されない私には、二つの選択肢しかない。
一つは「急いで飲み込む」、もう一つは「吐き出す」。
もたもたしていると電話が切れてしまうので、即断・即決・即実行が求められる。
言うまでもなく、前者を選択する方がベターなのだが、モグモグし始めたばかりの段階では後者を選択するしかないときがある。
もちろん、人前ではできないけどね。

問題は、その後。
吐き出したミンチを再び食べるかどうか。
やはり、食べ物は粗末にはしたくないもの。
自分の口から出たモノを自分の口に戻すわけだから、一見は何の問題もないように思われる。
しかし、実際にそれを口に戻すときは、若干の抵抗がある。
グチャグチャになった外見はまったく美しくなく(どちらかと言うと、気持ち悪い)、体温を失った冷たさは、自分の口から出たモノであることに疑問を抱かせる。
この温度差が、何とも言えない違和感となって味と食感を損ねる。
ま、それをたいらげてしまえば、また気を取り直して食事を進めるのだが。

電話の内容と食欲のギャップも妙。
人の死にまつわることばかり、グロい話も少なくないのに、電話を終えると、私は何も聞かなかったかのように食事を進めることができる。
ほとんどの場合、凄惨な話を聞いたあとでも、食欲が減退するようなことはないのだ。
もちろん、ラーメン・ビーフシチュー・カレーライス・ウニ丼(他にもあったっけ?)の類も、今でも普通に食べられる。

いい言い方をすると「タフ」、悪い言い方をすると「麻痺」。
そんな成長した?(デリカシーのない?)自分が、とても悪い人間・汚い人間のように思えたりすることもある。
私は、やはり、どうかしちゃってるのだろうか。


話を戻そう。

「た、助けてー!」
の悲鳴に、私は驚いた。
口からでるクチャクチャとした雑音が入らないように、電話を口から少し離して相手の話を聞いた。

電話をかけてきたのは不動産会社。
管理しているマンションの一室で腐乱死体が発生。
住人からの緊急要請で、異臭を発する部屋を開けたところらしかった。

「ひ、人が死んでて・・・」
「とりあえず、落ち着いて下さい、大丈夫ですから」
「すぐに片付けて下さい!」
「遺体は、ありませんよね?」
「イヤ!あります!ここに!」
「え゛ーっ!?」

遺体が部屋にある状態での入電に、私も仰天。
プロっぽい貫禄をみせて相手を落ち着かせようとした気持ちが、一瞬にして吹き飛んだ。

警察以上に頼りにされたことを喜んでいいのかどうか・・・警察に通報する前にうちに電話してきた、珍しいケースだった。

「さ、先に警察!警察に電話して下さい!」
「警察!?」
「そうそう、警察です!110番!」
「あ、そうか・・・」
「すぐですよ!すぐ!」
「は、はい・・・」
「警察の処理が終わってから、また電話下さい」
「わ、分かりました」

電話を切った後も、私はしばらく興奮状態。
慌てて飲み込んだモノが食道に詰まったみたいな感じで、瞬時には食欲が回復してこず。
また、本件の電話は再びかかってくる可能性が大きく、気持ちをなかなか落ち着かせることができなかった。
もともと気が小さい特掃隊長は、ちょっと気がかりなことが発生すると、すぐに精神不安定に陥るのだ。

味を感じないまま食事を終え、電話を気にしながら日常を夜を過ごしていると、その日の夜遅く再び電話が鳴った。
既に落ち着きを取り戻していた私とは対象的に、不動産会社の担当者はまだハイテンションだった。

「遺体は警察が持って行きました!」
「そうですか・・・あとは 立入許可がでるのを待ちましょう」
「すぐには片付けられないのですか?」
「ええ・・・時間も時間ですから、立入許可がでるのは早くても明日になると思いますよ」
「そうですか・・・」
「心づもりはしておきますので、警察から指示情報があったらすぐに知らせて下さい」
「わかりました、よろしくお願いします」

結局、その現場には翌日の午後に出向き、特掃をやることになったのだった。
その内容は、別の機会にでも書こう。


それにしても、今年の梅雨はちょっと変だった。
それでも、やっと明けたみたい。

子供達はとっくに夏休みを満喫しているのだろうが、サラリーマンの夏休みはこれから。
今年の平均休暇日数は8日余らしい。
この数字は本当なのだろうか。
ま、公務員や大手企業がベースなんだろう。
ものスゴク羨ましいけど、私のような者には全く縁のない別世界の話だ。。
できることなら、その半分・・・イヤ、三分の一でいいんで私も休みが欲しい。

私の場合は、二日連休だって無理・・・それどころか、丸一日を完全に休めることも少ない。
予定の立たない不安定な仕事であるうえに、技術的にも精神的にも、特掃をできる人間が少ないことも一因。
また、いつでもどこでも連絡がとれる携帯電話があることも原因であるかも。

そんな私には、もちろん夏休みなんてない。
何も、今年に限ったことではなく、死体業に入ってからずーっと。
それらしいことと言えは、行楽・レジャーで楽しそうにしている人達を眺めて夏休み気分に浸り、臭いニオイを身体からプンプンさせながら青い空だけ眺めて、ささやかな休息を得るくらい。

あ~ぁ、たまには海にでも行って、のんびり休養したいもんだな。
仕事のことも世の悩みも全部忘れて。
しかし、それでも携帯電話は持って行ってしまうんだろうかな・・・。






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