特殊清掃「戦う男たち」

自殺・孤独死・事故死・殺人・焼死・溺死・ 飛び込み・・・遺体処置から特殊清掃・撤去・遺品処理・整理まで施行する男たち

人想い

2007-05-01 08:33:50 | Weblog
死体業を生業とする私だが、人の死と関係のない仕事を依頼されることがあることは以前に何度か書いた通り。
消臭脱臭・消毒除菌・害虫駆除・不用品処分etc。

ある中年女性から、不用品処分の依頼が入った。
出向いた現場は、古いアパート。
依頼してきたのは、そのアパートのオーナーだった。

アパート住人のほとんどは独居老人。
しかも、入居してから20年以上経過しているような人も少なくないみたいで、オーナーと入居者は運命共同体の様相。
そんなアパートだから、いつ孤独死が発生してもおかしくない。
依頼者は、それを意識して入居者のことをコマメに気に掛けていた。

孤独死の生々しい現場を数多く見てきた私は、依頼者の平素からの心掛けに、大きく頷いた。

問題の現場は、その中の一室にあった。
そこには年配の女性が暮らしており、ここのところ玄関前やベランダにゴミが目立ってきているとのことだった。
見ると、依頼者の言う通り、外観だけでもゴミ屋敷の気配を感じるに充分な材料があった。

依頼者は、部屋がゴミ屋敷になるのも心配ながら、それよりも女性の生活や身体を心配しているようだった。
しかし女性は、どう言っても何度言っても部屋にあるゴミを捨てようとせず。
もともとはきれい暮らしていた女性が急にこうなったことに、依頼者は戸惑っていた。

「専門家に任せた方が解決が早いかと思いまして・・・」
私は、そう頼まれたのはいいけれど、
「俺は片付けの専門家であって、交渉・説得の専門家じゃないんだよなぁ・・・」
と困惑した。

「保証はできませんけど、やるだけはやってみましょうか」
そう言って、私は依頼者と一緒に問題の部屋を訪問した。

〝勝手知ったる我が家〟のごとく、依頼者はノックをすることもなく玄関を開けた。
中は狭い2DK、独特のカビ臭いニオイがこもっていた。
そして、依頼者に聞いていた通りの年配の女性(老婆)がいた。
この女性も、もう20年以上このアパートに暮らしているそうで、その話ぶりから依頼者と女性が親密な関係であることがすぐに分かった。

私は、依頼者から〝かたづけ業者〟と紹介され、ペコリと頭を下げた。
歳のせいで身体の自由が利かないようだったけど、女性の方も私に礼儀正しく応対してくれた。
そして、その物腰からは、ゴミを溜める癖があることは想像しにくい感じがした。

しかし、現実の部屋はゴミ屋敷が形成される途中段階。
本当は土足のままあがりたいくらいだったけど、人が現住する部屋ではそうもいかない。
依頼者が靴を脱ぐのを確認してから、私も渋々靴を脱いであがった。

女性への配慮から、私はいつもの悲嘆コメントは吐かなかった。
ただ、メモ用紙とボールペンを片手に持ち、黙って、ゴミの種類と量を観察した。

「これは捨てていいでしょ?」
「お金の心配はいらないよ、私が払うから」
「こうして業者さんも来てくれたんだから、きれいにしましょうよ」

依頼者は一生懸命に女性の説得を試みた。
しかし、女性は「全部いるモノ」「捨てるモノはない」の一点張り。

依頼者は、「貴方も 何か言って下さいよ」といった表情で、目で私に訴えかけた。
しかし、「 何か言え」ったって、肝心の所有権者が「捨てたくない!」と言ってるんだから、何の権限もない第三者である私は手も足も出ない。
また、物権だの債権だのといったややこしい問題に巻き込まれるのも御免だったので、私は一歩引いたところで控えることにした。

そんなこんなのやりとりの末、善意の依頼者は、今回もやむなく引き下がらざるを得なかった。

「役に立たなくてスイマセン・・・一応、見積書だけ渡しておきます」
「また、何かあったら、遠慮なく連絡下さい」
そう言って、空振りの現場をあとにした。

それから、何日も経ったある日。
再び、依頼者から電話が入った。
「○○さん(入居者の年配女性)入院しちゃって・・・」
「それで、本人はゴミの片付けを承諾したんで作業をお願いしたいのですが」
私は、依頼を聞きながら現場の様子を思い出し、作業日時・作業手順を打ち合わせた。

「それにしても、あれだけ強硬に拒んでいたのに、よく了承しましたね」
「ええ・・・本人は〝迷惑かけてゴメンナサイ〟〝今までアリガトウ〟〝家財は全部あなた(依頼者)にあげる〟〝多分、もう戻って来れないだろうから・・・〟と言って病院に行きましてね・・・」
依頼者は、そう応えて声を詰まらせた。
20年以上も袖を擦り合っていれば、血の繋がらない他人同士でも特別の情が通うのだろうか、依頼者は寂しそうに涙ぐんでいるのが受話器の向こうから伝わってきた。

作業の日。
主がいなくなった部屋は、多くの不用品がありながらもガラーンとした冷たさがあった。
しかし、
「○○さんがいつ帰って来てもいいように・・・」
と、イソイソと不用品と必要品を仕分けする依頼者に、人の温かさを感じた。

人を大事に想う人を知ると、それだけで自分もホットになれる。
この汚仕事では、そんな人と多く出会える。

その後、女性が無事に退院してきたかどうか、私は知らない。
ただ、再び、あの部屋の片付け依頼が入って来ていないことが幸いな今日この頃である。




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