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◇クラシック音楽◇NHK‐FM「ベストオブクラシック」レビュー

2019-09-24 09:35:09 | NHK‐FM「ベストオブクラシック」レビュー

 

<NHK‐FM「ベストオブクラシック」レビュー>

 

~クリスティアン・アルミンク指揮ベルギー王立リエージュ・フィルハーモニー管弦楽団と小林愛実の共演~

 

ルクー:弦楽のためのアダージョ 作品3
モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番 K.466                                           
ブラームス:交響曲第1番            

ピアノ:小林愛実

指揮:クリスティアン・アルミンク    

管弦楽:ベルギー王立リエージュ・フィルハーモニー管弦楽団

収録:2019年7月1日、東京、サントリーホール 

放送:2019年8月23日(金) 午後7:30~午後9:10

 指揮のクリスティアン・アルミンク(1971年生まれ)は、オーストリア、ウィーン出身。ウィーン国立音楽大学で学ぶ。1994年に本格的に指揮活動を開始し、ベルリン・ドイツ交響楽団、フランクフルト放送交響楽団、ウィーン交響楽団、スイス・ロマンド管弦楽団、ベルギー国立管弦楽団、シンシナティ交響楽団などに客演する。1996年、24歳のとき、チェコのヤナーチェク・フィルハーモニー管弦楽団を指揮し、すぐに首席指揮者として迎えられる。その後、スイスのルツェルン歌劇場音楽監督およびルツェルン交響楽団首席指揮者に就任。小澤征爾との密接な関係により、1992年から1998年の間にボストン交響楽団(タングルウッド音楽祭)に登壇。ルツェルンのオペラの音楽監督を経て、32歳の時に新日本フィルハーモニー交響楽団音楽監督として迎えられる。2003年にはプラハの春音楽祭オープニング・コンサートで「わが祖国」を指揮。 また、2011年ベルギー王立リエージュ・フィルハーモニー管弦楽団音楽監督に就任。さらにオペラ指揮者としても欧米各地で活躍。2017年からは広島交響楽団の首席客演指揮者を務めている。

 ピアノの小林愛実(1995年生まれ)は、山口県宇部市出身。 2005年「全日本学生音楽コンクール」小学生部門で全国優勝。2009年「アジア太平洋国際ショパンピアノコンクール(韓国)」でJr部門優勝。2011年「ショパン国際コンクールin Asia」コンチェルトで金賞を受賞。第5回「福田靖子賞」受賞。2009年サントリーホールにおいてメジャー・デビュー記念コンサートを開催したが、同ホールソロとしては日本人最年少記録、女性ピアニスト最年少記録を樹立。2011年桐朋女子高等学校音楽科に入学。2013年米国カーティス音楽院に留学。海外では、カーネギー・ホールへ出演。パリ、ポーランド、ブラジル等で演奏。2011年 カーネギー・ホールにおいて、小澤征爾が芸術監督を務めた日本フェスティヴァルにおいてソロ・リサイタルを行う。2012年「ジーナ・バッカウアー国際ピアノコンクール」のヤングアーティスト部門で第3位入賞。そして2015年「ショパン国際ピアノコンクール」においてファイナリストとなる。

 ベルギー王立リエージュ・フィルハーモニー管弦楽団は、1960年にフェルナン・キネによりリエージュ管弦楽団として創設された。1983年リエージュ・フィルハーモニー管弦楽団に改称。2010年にベルギー王室から「王立」を冠することが認められ、現在の名称となる。リエージュはフランス語圏である南部ワロン地方の中心地で、フランクやイザイが生まれたことでも知られ、芸術・文化が盛んな都市。リエージュ・フィルは、来年が60周年。ドイツにもフランスにも近いことから、オーケストラのサウンド的にはドイツ特有の仄暗いサウンドと、フランス特有の豊かで華やかな響きを併せ持ったオーケストラ。歴代首席指揮者は、フェルナン・キネ、マニュエル・ロザンタル、ポール・シュトラウス、ピエール・バルトロメー、ルイ・ラングレー 、パスカル・ロフェと続き、2009年―2010年はフランソワ=グザヴィエ・ロトが務め、そして2011年からはクリスティアン・アルミンクが務め、現在に至っている。

 今夜のNHK‐FM「ベストオブクラシック」の最初の曲は、ルクーの「弦楽のためのアダージョ」。ルクーは、ヴァイオリン・ソナタト長調で知られるベルギーのリエージュ出身の作曲家。「弦楽のためのアダージョ」は、演奏の機会はあまりないが、繊細な音楽で、ロマンチックな部分とメランコリックな部分を持つ佳曲。この曲でのアルミンク指揮リエージュ・フィルの演奏は、作曲家と同郷という意味合いを深く感じさせられる、愛情に満ち溢れた温もりのある演奏を聴かせてくれた。繊細な弦の響きがリスナーの心を深く捉えて感動を呼び起こす。ルクーはわずか24年間の命しか与えられなかった悲劇の作曲家であったが、この曲は、そんなルクーの生涯を予感させるような愁いを秘めた曲なのだが、アルミンク指揮リエージュ・フィルの演奏は、そんな作者にそっと寄り添うような丁寧な音づくりが特に印象に残った。

 次の曲は、誰もが知っている名曲モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番。この曲はピアノ独奏の小林愛実のリクエストで取り上げられたそうで、その出来栄えに興味津々。この協奏曲は、往々にして深刻な表現がなされることが多いわけであるが、この日の小林愛実のピアノ演奏は、この曲に本来備わった美感を最大限に引き出そうとする姿勢を強く感じ取れた。テクニックに溺れることなく、細やかな情感を静かに込めた演奏に好感が持てた。アルミンク指揮リエージュ・フィルの伴奏は、そんな小林愛実のピアノ独奏を最大限に生かし切った。最近のアジア系の若いピアニストは曲芸のようにテクニック中心に走り過ぎるきらいがあるが、今夜の小林愛実のピアノ演奏は、これとは真逆な情感あふれるものとなった。今後のわが国のピアノ演奏を考える上でも大いに参考になろう。

 今夜最後の曲は、ブラームス:交響曲第1番 。このドイツの交響曲の本家のような交響曲を、ドイツとフランスの双方からの音楽の影響を受けているオーケストラがどのように演奏するのか、演奏を聴く前には皆目見当が付かなかった。実際に聴いてみると、そこにはこれまで聴いたことのないようなブラームス:交響曲第1番の姿が現れたのだ!既成概念にとらわれない自由な発想のブラームス:交響曲第1番なのである。いたずらに深遠さだけを追い求めるのではなく、全体が大きな流れに添って、とうとうと流れる大河のように悠然としている。そこにあるのは激しい闘いではないのである。大きな空間を仰ぎ見るような心の豊かさなのだ。そんなブラームス:交響曲第1番 はどうもいただけないというリスナーもあろうが、名山に複数の登山ルートがあるように、名曲にもいくつものアプローチがあってもいいと思う。聴き終わって、今夜の演奏をブラームス自身が聴いたら何と想うか興味が湧いた。(蔵 志津久)  


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