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◇クラシック音楽CD◇クラウディオ・アバド指揮ロンドン交響楽団のメンデルスゾーン:交響曲全集 (第1番~第5番)

2017-11-07 07:29:38 | 交響曲

メンデルスゾーン:交響曲全集(第1番~第5番)

     <DISC1>メンデルスゾーン:交響曲第1番/第5番「宗教改革」
     <DISC2>メンデルスゾーン:交響曲第2番「讃歌」
     <DISC3>メンデルスゾーン:交響曲第3番「スコットランド」/交響曲第4番「イタリア」

指揮:クラウディオ・アバド

管弦楽:ロンドン交響楽団

ソプラノ:エリザベス・コンネル
ソプラノ:カリータ・マッティラ
テノール:ハンス・ペーター・ブロッホヴィッツ

合唱指揮:ジョン・アレイ

合唱:ロンドン交響合唱団

CD:ユニバーサルミュージック UCCG‐4326~8(3枚組)

 この3枚組のCDは、メンデルゾーンの交響曲の第1番から第5番までを、クラウディオ・アバドの指揮、ロンドン交響楽団の演奏で聴くことのできる、クラシック音楽ファンにとってはまたとないアルバムである。メンデルゾーンの交響曲というと第3番の「スコットランド」と第4番の「イタリア」の2曲が突出していて、コンサートやFM放送などでしばしば演奏される。ところが残りの3曲はというと、あまり聴く機会に恵まれない。第5番の「宗教改革」はともかくとして、交響曲第1番と交響曲第2番「讃歌」に至っては、「果たしてどういう曲だったか?」と考え込んでしまうクラシック音楽ファンも少なくないと思われる。どうしてこのようなことになってしまったのか、よくは分からないのであるが、次のような推測が成り立つかもしれない。第1番は愛称も付けられていない上に、交響曲に熟達してない時期の若書きの作品ではないのか、という誤解。第2番の「讃歌」は声楽付きでしかも演奏時間が1時間10分を超えるという長大な曲なので、そう滅多に演奏されることがなく、そうなると曲への愛着が深まることはない。ところがこの2曲をよく聴いてみると、第3番「スコットランド」や交響曲第4番「イタリア」に比べても魅力は失せない。それどころか第1番の持つ瑞々しさは魅了十分だし、第2番「讃歌」に至っては、メンデルスゾーンの「第九」とでも言ってもいいような壮大な作品(メンデルスゾーンはこの曲は交響カンタータだと語っている)に仕上がっている。実は、メンデルスゾーンは、これら5曲の交響曲を作曲する前に、既に交響曲に相当する12曲のシンフォニア(弦楽のための交響曲)を書き上げている。だから、第1番といえども決して若書きの作品ではないのである。

 交響曲第1番は、メンデルスゾーンが15歳の1824年に書かれた、フルオーケストラを用いた作品である。この作品は実験的な要素も見受けられるが、如何にも若者らしい素直な息吹が感じられる。第3楽章には八重奏曲の第3楽章スケルツォを管弦楽編曲したものを代用している。この曲は成功を収め、メンデルスゾーンの名声の礎を築くことになる。続く第2番は、2部形式をとっており、第1部は3つの楽章からなり、第4楽章に当たる第2部は独唱と合唱付きで、あたかもベートーヴェンの「第九」を思い起こさせる作品。この曲は「讃歌」と銘打たれており、ライプツィヒにおける印刷技術発明400周年を祝して書かれたもの。合唱における歌詞は、作曲者自ら聖書から選んだ9つの部分に讃美歌「今やみなは神に感謝するだろう」が続く。この合唱交響曲についてメンデルスゾーンは「交響カンタータ」と呼んでいたという。メンデルスゾーンの傑作の一つとして、もっと演奏されて然るべき作品である。第3番「スコットランド」は、メンデルスゾーン33歳、1842年に作曲された。メンデルスゾーンの場合、交響曲の番号と作曲時期が一致せず、これが最後の交響曲となった作品。スコットランドを旅行した印象をもとに書かれた作品で、書き始めてから13年近くたって完成し、4つの楽章が切れ目なく演奏される。この曲はヴィクトリア女王に献呈された。第4番「イタリア」は、イタリア旅行中に受けた印象を基に作曲した作品。帰国してからしばらくした、1833年に完成し、5月にロンドンで初演された。交響曲第5番「宗教改革」は、ルター派プロレスタントによる宗教改革における1530年の「アウグスブルク信仰告白」を記念する300周年の祝典のために作曲された。。初演は1832年で、第2番、第3番、第4番より先に作曲された作品。メンデルスゾーンはこの曲の出来に満足せず、総譜の出版を認めなかったという。このときメンデルスゾーン20歳なったばかりであり、若さゆえの躊躇があったのだろう。

 指揮のクラウディオ・アバド(1933年-2014年)は、イタリア、ミラノ出身。ヴェルディ音楽院を経て、ウィーン音楽院で指揮を学ぶ。1959年に指揮者デビューを果たした後、カラヤンに注目されてザルツブルク音楽祭にデビュー。1968年にミラノ・スカラ座の指揮者となり、1972年には音楽監督、1977年には芸術監督に就任。その後、1979年ロンドン交響楽団の首席指揮者、1983年同楽団の音楽監督に就任。ここにおいてこのコンビは黄金期を迎える。1986年ウィーン国立歌劇場音楽監督に就任し、レパートリー拡充に尽力。この時期、ウィーン・フィルとの共演が増え、ベートーヴェンの交響曲全集など数々のレコーディングを行うが、その後辞任。1990年ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団芸術監督に就任し、名実共に現代最高の指揮者としての地位を確立する。在任期間中ベルリン・フィルとの録音として、ベートーヴェン交響曲全集(2回目・3回目)や、ヴェルディのレクイエム、マーラーの交響曲第7番・第9番、ワーグナー管弦楽曲集などがある。2000年に胃癌で倒れ、以後の活動が懸念されたが、その後一時回復し、ベルリン・フィル辞任後も新たな指揮者活動を続けた。2003年以降はルツェルン祝祭管弦楽団などや、自身が組織した若手中心のオーケストラ(マーラー室内管弦楽団、モーツァルト管弦楽団等)と活動。予定されていた来日演奏会が突如キャンセルされた後の2014年1月20日、胃癌により80年の生涯を閉じた。

 このCDにおいて、クラウディオ・アバド指揮ロンドン交響楽団の名コンビは、隅々にまで神経が行き届いた、ダイナミック感溢れる比類ない名演奏を聴かせてくれる。交響曲第1番においては、若々しいメンデルスゾーンの息吹が感じられるような躍動感ある演奏内容を披露する。がっしりとした形式美を最大限発揮し、この曲の魅力を余すところなく引き出すことに成功したと言ってよかろう。特に力強い響きが印象に残る。第5番「宗教改革」は第2番、第3番、第4番より先に作曲された作品であるが、クラウディオ・アバド指揮ロンドン交響楽団のコンビは、深遠な曲の雰囲気を最大限に表現し、立体感溢れる作品として描き出し、聴き応えあるものに仕上げた。メンデルスゾーンはこの曲の出来に満足せず、総譜の出版を認めなかったというが、そんなことを微塵も感じさせない、圧倒するような音づくりはみごとというほかない。交響曲第2番「讃歌」は、第4楽章に当たる第2部が独唱と合唱付きで、あたかもベートーヴェンの「第九」を思い起こさせる作品。クラウディオ・アバド指揮ロンドン交響楽団は、徐々に曲を盛り上げて行き、総力で第2部の独唱・合唱を演じ切る。その高揚感溢れる演奏内容は、ベートーヴェンの「第九」の再現と言っても言い過ぎでないほどの熱演に圧倒される思いがする。交響曲第3番「スコットランド」は、それまでの演奏内容とはがらりと変わり、静寂さに溢れる演奏を聴かせる。印象派の絵画のような微妙な光の輝きが全体を覆い尽くすような演奏内容で、そこには思索にふけっているメンデルスゾーンが佇んでいる。私はこんな詩的で哲学的な「スコットランド」をこれまで聴いたことがない。最後の交響曲第4番「イタリア」は、がらりと変わり、明るい「イタリア」がくっきりと浮かび上がる。アバドは、イタリア人なので共感を覚えるのであろうか。そのきらきらとした輝かしい響きは、リスナーの心の底に響き渡る。(蔵 志津久)


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