大阪近郊にある、古ぼけた団地。
昭和の面影を残すその一角で、山下ヒナ子は、
夫で元漢方薬局店主の清治とひっそりと暮らしていた。
半年ほど前に店を閉め、引っ越してきたばかり。
腰は低いがどこか世を捨てた雰囲気に、住民たちは好奇心を隠せない。
調子のいい自治会長の行徳と、妻で“ゴミ監視役"の君子。
クレーマーで次期会長を狙う吉住に、暇を持て余した奥さま連中。
ときおり訪れる妙な立ち居振る舞いの青年・真城だけが、
山下夫妻の抱えた過去を知っていた──。
そんなある日、些細な出来事でヘソを曲げた清治が
「僕は死んだことにしてくれ」と床下に隠れてしまう。
夫の姿が団地から消えても、淡々とパートに通い続けるヒナ子の言動に、
隣人たちの妄想は膨らむばかり。
「もう殺されてると思う…」。一人がつい口にしてしまった言葉をきっかけに、
団地を覆った不安は一気にあらぬ方向へと走りだして……。
面白い、漢方薬局店主のところも共感できる。
お薦め度★★★★☆