酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「福島は語る」が写すこの国の歪みと荒み

2019-03-11 21:28:14 | 映画、ドラマ
 前稿に記した沖縄、福島、広島、そしてパレスチナは闘いの拠点として、想像力を軸に繋がっている。体現しているのはイスラエル「ハアレツ紙」のアミラ・ハス記者だ。ホロコーストを生き抜いた両親に持ち、「アンナ・リンド人権賞」など数々の栄誉に浴した同記者は、<パレスチナに存在する分離壁は20世紀以降、世界で進行した不正義の象徴>と語っている。

 2017年秋に来日したハス記者は、沖縄、福島、広島を訪れる。講演の際、司会を担当した土井敏邦は、パレスチナ関連の取材で知られている。12年前、ガザ報告会で「絶望を覚えるたび、パレスチナの民衆に励まされた。極限の現場で自らを〝ハゲタカ〟と感じることがある」と語った土井は覚悟と恥の意識を併せ持つジャーナリストだ。

 その土井が大震災後の福島にカメラを据えた「福島を語る」(2018年)を新宿で見た。3時間近い長編で、被災者14人に寄り添う土井の優しさに涙を堪え切れなくなる人も複数いた。政治やメディアの言葉は空虚だが、一人一人が語る喪失感、悲しみ、孤独、諦念、自責の念は重く、美しい。俺の錆び付いた心も感応した。

 俺というバイアスを無視してほしいから、皆さんがご覧になることを願うしかない。14人の語りに日本社会の歪みと荒みが浮き彫りになる。

 我が子の健康を第一に考えるのが母として自然だが、新潟に避難した女性は今後について悩んでいた。チェルノブイリ原発事故後、ベラルーシやウクライナは体内被曝についての情報を公開し、広大な土地を立ち入り禁止地域に指定した。翻って日本では自己責任論に則り、避難者がコミュニティーから疎外される状況を行政がつくった。

 水俣病を取材した元記者は、「当時(1960年代)から何も変わっていない」と日本政府の棄民政策と情報統制を指摘していた。証言によって、周りの人たちがつくる壁も明らかになる。県内に転校した生徒でさえ、両親の言葉を受け売りした子供たちによるいじめを受けているのだ。

 安倍首相は東京五輪を誘致する際、「放射能はアンダーコントロール」と大嘘をついたが、国民は政府にアンダーコントロールされ、〝お上〟の論理に縛られ集団化している。「国から10万円もらっているんでしょ。税金から出てるのよ」と言われた移住者は悔しさを滲ませる。生活保護バッシングと同じで、弱者を穿つ者は、権力者に拳を向けない。排除の論理と卑屈さも社会の通音だ。

 土井が最も多くの時間を割いたのは、放射能汚染で生業(石工業)を奪われた杉下さんだ。震災で家族は無事だったが、歯車が狂い、家業を継いだ次男を亡くす。土井と打ち解け、家族の歴史を語っていた。有機農業で販路を拡大していたものの、あえて汚染を告白した途端、売れ行きが激減した夫婦の思いにも胸を打たれた。

 第5回「オルタナミーティング」でステージに立った李政美の「ああ、福島」が本作のテーマ曲だった。作詞者の武藤類子さんは証言者のひとりで、反原発を発信し続けている。福島も沖縄に学び、<オール沖縄>をつくるべきと主張していた。

 子供を放射能から守りたいと願う自主避難者への住宅支援は次々に打ち切られたが、アメリカから深刻なニュースが飛び込んできた。トモダチ作戦に参加した米兵数百人が被曝を訴えたが、米連邦地裁に却下された。日本の子供たちに兆候が表れた時、「直ちに影響はない」を繰り返した枝野幸男元官房長官(現立憲民主党代表)はどう対応するのだろうか。

 俺は3・11直後、ある決意をした。<石を投げることは出来ないが、投げている人の行動と決意を伝えたい>と……。本作を見て、死す者、そして残された一人一人の思いに耳をそばだて、思いをすくい取ることが<福島内在化>のスタートラインだと確信した。死ぬまで想像力を羽ばたかせていたい。
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