酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「主戦場」~スクリーンの外の恐ろしい現実

2019-04-25 23:26:53 | 映画、ドラマ
 「デモクラシーNOW!」など米独立系メディアは〝第二のマッカーシズム〟を危惧している。パレスチナにおける人権尊重を訴えるBDS提唱者オマール・バルグーティ氏が入国を拒まれた。イスラエルによるアパルトヘイトを批判した大学自治体、下院議員らが圧力を受け、BDS支持者であるロジャー・ウオーターズのツアーが妨害された。同志であるツツ大主教、ケン・ローチ、アキ・カウリスマキらも入国を拒否されかねない。

 日本人とは何かを問い掛けるドキュメンタリー「主戦場」(18年、ミキ・デザキ監督/アメリカ)を公開初日(20日)、イメージフォーラムで見た。サブタイトルは<ようこそ、「慰安婦問題」論争の渦中へ>で、立ち位置が対極の論客が自身の意見を述べるという形式だ。

 公開10日ほど前から〝不穏な動き〟があった。Yahoo!のユーザーレビューで1点、2点(5点満点)が次々にクリックされ、現在も2・5点台と低評価になっている。ぴあの満足度調査では92・3点(100点満点)だから、〝組織的犯行〟は一定の成果を挙げたといえるだろう。

 上映終了後、日系2世のデザキ監督が登場し、「薦めてほしいが、内容は言わないで」と満員の客席に釘を刺していた。背景と感想にポイントを置いて記すつもりだが、ネタバレは確実なので、観賞予定の方はここで別ページに飛んでほしい。一言でいうなら、斬新な手法に用い、重いテーマに鋭くかつ鮮やかに切り込んだエンターテインメントである。

 場内が明るくなり、沸き起こった拍手の波に加わったが、怒りに震えて退席し、〝反日映画〟のレッテルをSNSで貼りまくった方もいるはずだ。日本人のDNAを受け継ぎ、アメリカの自由な空気に育まれた監督は、生理学を学び、タイで僧侶になるため修行をしている。沖縄と山梨で中学生を教えたことで、〝面白く伝える〟ためのコツを掴んだと語っていた。

 櫻井よしこ、杉田水脈、藤岡信勝、ケント・ギルバート、加瀨英明ら著名な歴史修正主義者が、自信たっぷりに従軍慰安婦を矮小化していた。同作HPに鈴木邦男氏は、「今までの恨みもあって彼らの叫びもすさまじい」とコメントを寄せている。両論併記を前提に取材を受けた杉田らの低レベルの発言に、客席から失笑が漏れた。

 日本の責任を重く捉える側は知名度では劣るが、弁護士、歴史学者、政治学者、韓国人活動家、元慰安婦、元日本軍兵士らが的確な指摘で応酬する。HP掲載の町山智浩氏(映画評論家)のコメントが興味深かった。<エド・マーローがマッカーシー上院議員に好きなだけしゃべらせて彼の正体を晒した>……。この手法を、デザキは参考にしたのだろうか。

 歴史修正主義者の虚偽まみれの発言後、対峙する側の論理的、倫理的なコメントが続く。さらに、真実を示す映像を手際良く挿入する。日韓だけだと小競り合いの印象になりかねない。デザキは俯瞰の視線でアメリカを取材し、人権活動家や首長の声を紹介する。仕事先の夕刊紙記者は試写会終了後、ケント・ギルバートが敗北したボクサーの如く、ひとり席にとどまっている姿を目撃している。

 右派にとっての〝救い〟は、慰安婦に日本軍が関与したことを示す資料が残されていないこと……。だが、慰安婦に限らず、日本政府は敗戦間近、岸信介が主導して多くの資料を廃棄したという。ちなみに戦後、進駐軍相手の公営慰安所設立に動いたのが池田勇人元首相(当時は大蔵省幹部)だから、ノウハウを受け継いでいたのだろう。

 デザキは隠し玉を用意していた。櫻井よしこの後継者と目されていた日砂恵ケネディは、かつての自分を否定するだけでなく、本作のキーになる証言を残していた。歴史修正主義者たちは<米軍の資料には慰安婦の記述はなかった>と繰り返すが、それは正しくない。ナチス・ドイツの戦争犯罪を調査した資料だから、慰安婦関連の記述などあるはずもないのだ。

 「主戦論」は歴史修正主義者、日本会議はノックアウトする。ウィキリークスへのデザキのオマージュも窺えた。デザキは作品中の杉田の言葉を引用し、トークイベントで「ダマサレルホウガワルイ」とたどたどしい日本語で話し、笑いを取っていた。だが、日本会議が安倍政権の閣僚の80%を占めている。この恐ろしい現実に目を背けてはならない。デザキは<私の国(アメリカ)の戦争で日本の若者が死ぬことに思いを馳せてほしい>と結んだ。

 安倍政権にNOを突き付けるなら、歴史修正主義者や日本会議が掲げる強面ではなく、全く別の、真実に即した日本人像を創り上げることが緊喫の課題ではないか。個としての日本人は柔らかく寛容だと信じたい。
ジャンル:
ウェブログ
コメント   この記事についてブログを書く
« 小三治、「揺れる大地」、「... | トップ | 「琥珀のまたたき」~小川洋... »

コメントを投稿

映画、ドラマ」カテゴリの最新記事