酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「愛国者に気をつけろ!」~鈴木邦男とは無限自由のトリックスター

2020-02-07 13:36:22 | 映画、ドラマ
 第14回「白鳥・三三 両極端の会」(2日、紀伊國屋ホール)に足を運んだ。柳家三三が「天空の城ラピュタ」をモチーフにした「バルサン」を披露し、仲入りを経て三遊亭白鳥の「雨のベルサイユ~猫ちゃん編」へと続く。同じ日本文化でも癒やしをもたらす落語と真逆に、魂を削り合うのが将棋だ。藤井聡太七段のB級2組昇級などニュースは盛りだくさんだが、その都度ブログに記したい。

 日本人とは、日本文化とは、そして愛国とは……。これらの問いの答えを見つけるためのヒントになる映画をポレポレ東中野で見た。鈴木邦男(一水会元最高顧問)にカメラを据えた「愛国者に気をつけろ!」(2019年、中村真夕監督)である。上映後のトークイベントには監督、鈴木と旧知の仲である松元ヒロ、そして体調不良を押して本人が登場する。松元の好アシストもあって、満員の会場は和やかな空気に包まれた。

 俺は鈴木に亡くなった故西部邁を重ねている。両者の立脚点は<一つの理論に則り、縛られることを絶対的に忌避すること>。本作に即していえば<正義・国家・主義に囚われるな>となる。鈴木は<右から左に転向した>と批判されているが、西部は〝左から右への越境者〟だ。全学連で中央執行委員を務めた西部は、60年安保の象徴と謳われながらその後、全国を流浪した唐牛健太郎委員長を最期まで支え続けた。鈴木と西部はともに〝情の人〟なのだ。

 当夜の松元のみならず、リベラルな学者、左派、映画監督らがトークゲストとして名を連ねている。異彩を放つのはオウム関連者で、作品にも登場する。松本麗華(麻原彰晃の三女)は鈴木によって生の意味を見いだし、上祐史浩は鈴木の仲介で村井秀夫刺殺犯と会った。トークイベントで松元の言葉に、鈴木は「あ、そうか」を繰り返す。中村監督によると、それは鈴木の口癖で、他者の言葉を吸収し、反芻する際のツールなのだ。

 三島由紀夫とともに市ケ谷駐屯地で自決した森田必勝は鈴木の後輩だった。経団連を襲撃し、朝日新聞社で自決した野村秋介とも交流が深く、鈴木は当時、東アジア反日武装戦線「狼」へのシンパシーを隠さなかった。この点に、戦前の血盟団を思い出した。1930年前後、右翼の多くが共産党活動家を国の歪みを正す同志と見做していたことは、「天皇と東大」(立花隆著)にも記されている。

 三島が二・二六事件で決起した兵士たちを賊軍と切って捨て、戦争責任を曖昧にした昭和天皇に疑義を抱いていたことは小説「剣」に描かれている。二・二六事件のバックボーンである北一輝は、10代の頃から反天皇制を主張し、大逆事件に連座しても不思議はなかった。両者は〝右翼の鬼っ子〟ともいえるが、鈴木は一貫して天皇と天皇制に尊崇の年を抱いている。

 赤報隊の朝日新聞襲撃には批判的だが、鈴木の人脈に関係者が含まれていることが歯切れの悪い言葉から窺える。公安がガサ入れを繰り返したり、放火されたりしたが、「みやま荘」の大家さんも懐が深いのだろう。〝老いた可愛いハムスター〟と評する雨宮処凜を筆頭に気遣ってくれる女性に囲まれているから、孤独死はあり得ない。羨ましい限りだ。

 <自分の言動によって、ノーマルな人生設計のチャンスを失った人々がいる。闘いの血債を支払った者のその後の人生水準を超える生活を絶対しない>……。この唐牛の思いは、そのまま鈴木に重なる。贖罪の意識、森田と野村に続けなかった悔恨が、鈴木が清貧と独身を貫く理由ではないか。

 鈴木にとって<愛国>とは、負の部分があったにしても愛し続けることだ。従軍慰安婦をテーマに据えた「主戦場」のHPに、「今までの恨みもあって彼らの叫びもすさまじい」とコメントを寄せている。彼らとはかつて親交があった日本会議とその周辺を指す。<愛国>とは、日本人以外の<愛国>を尊重することに繋がる。ヘイトスピーチやレイシズムを憎む鈴木は「のりこえねっと」の共同代表のひとりだ。

 主題歌は「ふざけるんじゃねえよ」(頭脳警察)だ。パレスチナに渡った足立正生夫との交流は本作にも織り込まれている。同曲の作者であるPANTAはパレスチナで日本赤軍を結成した重信房子の詩をベースにした「オリーブの樹の下で」を制作した。鈴木を基点にすれば、無限の線が走り、広大な地図が完成するはずだ。

 鈴木邦男とは何者か……。観賞後の俺の答えは<トリックスター>で、ウィキぺディアには以下のように記されている。<神や自然界の秩序を破り、物語を展開する者。(中略)善と悪、破壊と生産、賢者と愚者など、異なる二面性を持つのが特徴>……。鈴木は境界を超える自由なトリックスターなのだ。
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