酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「VANISHING POINT」~ブランキー・ジェット・シティが蒼い焔になった夜

2013-02-07 23:51:51 | 音楽
 コーチェラがスミスに再結成のオファーを出し、モリッシーが断りのコメントを発表するというのが、ここ数年のお約束になっている。今年もフラれた主催者が代わりとばかりストーン・ローゼスをメーンに据えたことが、全米で波紋を広げている。

 英国では再結成ギグに20万人超(3日間)を集めたストーン・ローゼスだが、アメリカではオルタナ系ファンでさえその名を知らず、「ローゼスって何者?」状態らしい。ピュリツアー賞受賞作「オスカー・ワオの短く凄まじい人生」(ジュノ・ディアス著)には、スミスやキュアーといったUKニューウェーヴの浸透ぶりが描かれていたが、数年後の<マンチェスター・ムーヴメント>は大西洋を越えなかったようだ。

 フジロックは04年、1日限りのルースターズ再結成を演出した。「あのバンドも」とファンが心待ちにしているのがブランキー・ジェット・シティ(BJC)だ。その布石かと勘繰りたくなるのが、ファイナルツアー(00年)を記録したドキュメンタリーの公開である。「VANISHING POINT」(翁長裕監督、13年)は、BJCの3人、浅井健一(ベンジー)、照井利幸、中村達也の素顔を浮き彫りにし、バントとは何かを問い掛ける迫真の作品だった。

 〝日本のロックなんて聴く価値なし〟という洋楽派の偏見をぶち壊してくれたのが、BJCの「LOVE FLASH FEVER」(97年)だった。衝動的、前衛的、実験的、暴力的、刹那的、感傷的……。こんな形容詞が詰まった音の塊に脳天をかち割られる。不惑を過ぎていた新参ファンに、若者に交じってモッシュする勇気はなく、ライブに唯一触れたのは豊洲開催の'98フジロックだった。CDと映像作品でBJCを〝学術的〟に分析した俺の言葉に説得力はないが、「VANISHING POINT」の感想を以下に記したい。

 初期のBJCはヤンキー、不良、与太者、チンピラ、ロックンローラー、暴走族といったアウトローに支えられていたが、メンバーの立ち位置もファンと変わらなかったのではないか。本作で照井は上半身にびっしり彫られたタトゥーをさらしていたし、中村は「出所した友人が家に押しかけてきた」と話していた。〝危ない奴ら〟のイメージは実像に近かったが、優れた音楽性と浅井のナイーブさが、ファン層を少しずつ広げていく。

 BJCの歌詞の世界に近いのが映画「ウォリアーズ」(79年、ウォルター・ヒル)で、象徴的な曲は「絶望という名の地下鉄」だ。BJCはファンにとって、殺伐として夢のない日常に、救いとカタルシスを与えてくれる唯一の存在だった。「ウォリアーズ」はニューヨークが舞台だったが、BJCとファンが形成したサンクチュアリに重なるのはウエストコーストパンクである。

 10年以上も切磋琢磨し、しかもファイナルツアーというのに、バンド内にさざ波が生じてくる。ライブの出来が悪いと、負の感情が剥き出しになるのだ。曲を作るベンジーがイニシアティブを取っていると思い込んでいたが、カメラが捉えたバンドの〝ハート&ソウル〟は照井で、妥協を許さぬ「ロックンロールの求道者」といえる。自然児の中村は引き気味で、ベンジーは「テルちゃんが言いたいことはわかるよ」と調整役に回っていた

 「うまくやる必要なんてない。魂が入ってない」と刃を突き付ける照井に、「ブランキーは別の次元に行ってるんじゃ」と返すベンジーと中村にしても、充実したライブを見せたいという気持ちは変わらない。照井の情熱に触発され、本番前のセッションにも気合が入る。グルーヴを取り戻していく様子は感動的で、バンドが生き物であることを再確認した。帰宅後、部屋でDVD「LAST DANCE」を見たが、吹っ切れた照井の表情が印象的だった。

 浅井は本作で、「達也のドラムはパンクで、テルちゃんのベースは柔らかいから、相手に遠慮すると自分の持ち味を殺すことになる」(要旨)と話していた。音楽誌のインタビューで中村と組まない理由を聞かれ、「達也のドラムは歌うんで、自分と重なってしまう」と抽象的に答えていた。互いの個性と才能を知り尽くしているからこその言葉だと思う。

 かつて中村は、「俺はただ、ベンジーという稀有な才能を世に出したかった」と話していたが、夢が実現した時、志向性が異なる3人を繋ぎ止めるのは不可能だったのだろう。バンド内で闘いつつ調和し、ステージに立てば観衆と真剣勝負を演じてきたBJCは、蒼い焔になって消滅する。

 BJC解散後、ベンジーはシャーベッツ、JUDE、ソロと次々にユニットを変えながら今日に至る。俺も数回、ライブに足を運んだ。照井はROSSOを経てベンジーとPONTIACSを立ち上げたが、1回のツアーで休止した。中村は日本一多忙なミュージシャンで、音楽界、映画界から殺到するオファーをさばき切れない状態という。3人とも現役で、基本的にフリーとくれば、一夜限りにせよ再結成は夢物語ではない。美学に反すると言われたら、それまでだけど……。
コメント (7)
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