酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「127時間」に見るアメリカの内なる辺境

2011-08-08 00:26:51 | 映画、ドラマ
 Youtubeにミューズの最新映像がアップされている。「LA・ライジング」では、主催者レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンの思いを酌む熱演を見せた。 マシューは“Hysteria”のイントロでアメリカ国歌を掻き鳴らし、戦争国家を告発する。
 
 ロラパルーザ初日(シカゴ)ではメーンステージでヘッドライナーを務める。開門前に大挙押し寄せたミューズキッズが地元紙に報道されるなど、アメリカでのヒートアップは著しい。同時刻対決になったコールドプレイ(セカンドステージ)を意識したマシューは、「こちらを選んだ君たちは正しい」とMCしていた。

 マシューと同い年(33歳)のジェームズ・フランコ主演作「127時間」(10年)をようやく見た。実話の映画化で、「トレインスポッティング」、「スラムドッグ$ミリオネア」で世界を瞠目させたダニー・ボイルが監督を務めた。ここ一番で流れるシガー・ロスなどサントラも魅力たっぷりで、ポップ感覚に溢れる作品だった。

 アーロン(フランコ)は金曜夜、沢登りやロッククライミングを楽しむためキャニオンランズに向かった。迷子になったクリスティとミーガンをガイドし、パーティーに誘われたが、彼女たちと別れた後、最悪の事態に直面する。岩ともども滑落して右腕を挟まれ、身動きできなくなったのだ。

 〝アンチ携帯音楽プレーヤー派〟の俺は、「それ見たことか」と心で意地悪く呟いた。他者拒絶を表すツールは、剣呑な大自然と向き合う時は厄介者だ。大音響の音楽は、アーロンの鋭い五感と第六感を削いでいたに違いない。

 絶望的な状況下、アーロンはデジカメで自らを撮影しながら心の旅に出る。家族やラナ(元恋人)と過ごした日々が現実と交錯し、心的風景が像を結んでいく。カレッジバスケ会場のシーンが印象的だった。アーロンは喧騒の中、他者と同化できず虚ろな表情を浮かべていた。愛想を尽かしたラナは、アーロンの元から去っていく。

 アーロンと被るのが、「イントゥ・ザ・ワイルド」(07年、ショーン・ペン監督)のクリスだ。ともに都会生活に違和感を覚え、荒野を目指す青年である。アーロンはクリスティに、「フィッシュを聴いてる男に彼女はできない」とからかわれていた。フィッシュとは荒野を目指す青年や非定住者に愛されたバンドで、コミュニティーごと全米をツアーしていた。

 砂漠に囲まれたラスベガスが典型だが、アメリカでは非加工の自然が都市の間近に存在する。風景としての辺境を心に取り込んだ者は、自由を志向する旅人になる。政治的理由で放浪を強いられたケースを含め、ヒッピーやボヘミアンがカウンターカルチャーを支えてきた。Xスポーツを胚胎させたのも彼らのコミュニティーである。

 クリスは召される直前、心の中で家族と和解した。アーロンも家族への冷淡な態度を反省するが、生への意欲を失わない。ぎりぎりの、そして避け難いアーロンの選択を、ボイルはリアルに描いていた。

 「127時間」の深刻なシチュエーションは、日本の現状と決して遠くない。進まぬ瓦礫処理、拡大の一途を辿る放射能汚染、円高、アメリカ国債の格下げ、対立項なく混沌する政治、進行する貧困……。アーロンは「127時間」で答えを出した。日本の砂時計の目盛りは、果たして何時間なのだろう。 
  
コメント
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