酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

多民族国家ドイツを映す「ソウル・キッチン」

2011-02-05 06:14:02 | 映画、ドラマ
 スポーツ界は明暗くっきりだ。<暗>はもちろん大相撲で、八百長疑惑で土俵際に追い詰められている。この世の中、政治を筆頭に八百長が蔓延しているが、最たるものは記者クラブ制度だ。〝衝撃の事実〟を初めて知ったかのようなポーズを装い、相撲協会を糾弾するメディアに愕然とする。

 <明>はサッカー界で、インテルに移籍した長友など日本人選手の評価はうなぎ上りだ。ブンデスリーガ(2部を含む)には香川、岡崎、長谷部、内田ら8人が在籍している。外国人が全人口の9%弱を占めるドイツは、<厳格と勤勉>から<柔軟性と包容力>にイメージを変えつつあるが、その一翼を担っているのが若き巨匠ファティ・アキンだ。

 渋谷で先日、アキンの最新作「ソウル・キッチン」(09年)を見た。舞台はドイツで最も国際色豊かなハンブルクである。味わい深いヒューマンコメディーに彩りを添えるのは、ソウルを中心にパンク、ハウス、テクノと幅広い分野の音楽だ。

 自らのルーツ(トルコ)にこだわった作品で評価を高めたアキンだが、今回の主人公はギリシャ系移民のジノス・カザンザキス(アダム・ボウスドウコス)だ。ロッカー風のジノスは安食堂「ソウル・キッチン」の経営者かつ腕の悪いシェフである。

 登場人物の大半は移民だ。仮釈放中のジノスの兄イリアスはもちろん、「ソウル・キッチン」倉庫に居候する老ソクラテスもギリシャ人だ。店員のルッツとルチアはトルコもしく中近東出身、一流シェフのシェインは放浪癖からしてロマかもしれない。療法士のアンナにはオリエントの薫りが漂っている。

 ジノスの恋人ナディーンは名家出身のジャーナリストだ。ゲルマン系に見えるが、彼女の祖母の顔立ちは奇妙なことに、孫よりジノスに近い。新恋人が中国人という設定も、全体の流れに沿っている。

 シェインの活躍とショータイムで「ソウル・キッチン」が繁盛する展開に、「バグダット・カフェ」や「バベットの晩餐会」が重なった。好事魔多しというべきか、ストーリーは暗転する。女を取られ、店は失い、歩けないほど腰が痛い……。どん底に突き落とされたジノスだが、おとなしく運命を受け入れるほどヤワじゃない。

 ジノスを筆頭に、登場人物は愛すべき欠点を抱えているが、魂が折れることはない。享楽的で自由を求め、ユーモアを忘れず前向きに生きている。彼らの強さを育んだのは、異なる価値観との衝突と融和だと思う。

 俺は当ブログで、移民の積極的受け入れを主張してきた。人口が半減したらナショナリズムも糞もない。移民受け入れによる混乱は若者を鍛え、結果として国を強くするというのが、〝非ナショナリスト〟の持論だ。〝老小国〟として醜く滅ぶというのも、ある種の美学かもしれないが……。
 
 <食べること=生きること>と言いたげに、「ソウル・キッチン」ではレシピが幾つか紹介されている。「何が一番食べたい」と若者に聞いたら、「焼き肉」、「中華」、「ハンバーガー」なんて答えが上位を占めそうだ。日本の<ソウル>は風前の灯なのか。



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