酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

エコバニという名の蜃気楼~異次元のバンドの過去と現在

2009-12-19 05:40:40 | 音楽
 天皇と習近平中国副首席との会談が波紋を広げている。首相在任中は創価学会に気兼ねして本性を隠していた安倍晋三氏が民主党を売国奴呼ばわりする一方、会談実現の根回し役が中曽根元首相であることが判明した。かの石原都知事が容認派に回るなど、保守派の亀裂が興味深い。

 さて、本題。別稿「ロックの旅再び」(12月10日)でヤー・ヤー・ヤーズとLCDサウンドシステムを取り上げた。ニューヨークをキーワードに買い集めた数枚のアルバムは、トーキング・ヘッズの実験精神を継承し、民族音楽など他のジャンルを包括的に取り入れている。5年のブランクの間、ロックは新たな地平<ポストロック>を切り開いていた。

 最先端のバンドと合わせ、エコー&ザ・バニーメンの新作「ファウンテン」を購入した。スタジオ盤を聴いたのはバンド名を冠した5thアルバム(87年)以来だ。まろやかで成熟を感じさせる佳作だが、かつての煌きや鋭さは失われている。

 先日、ミューズのライブがテレ朝の深夜帯に放映された。「世界最強のライブバンド」のテロップに偽りはないが、<デビュー5年以内、アルバム3枚まで>の条件で史上最高のライブバンドを挙げるならエコバニだ。

 U2(83年11月)、エコバニ(84年1月)の初来日公演を中野サンプラザで見たが、両者のパフォーマンスに歴然たる差があった。全米制覇を成し遂げたばかりのU2が駄目なはずはないが、比べる相手が悪過ぎた。エコバニは<神性と魔性を帯びた異次元のバンド>だったからである。

 <80年代のドアーズ>、<ベルベット・アンダーグラウンドの継承者>……。当時のエコバニは最高級の賛辞で彩られ、フロントマンのイアン・マカロックはイアン・カーティス(ジョイ・ディヴィジョン)の死を補って余りある存在と見做されていた。彼らの神髄に触れたい人は、初期の3作を聴いてほしい。

 スモークが焚かれる中、イアンの弱々しい「ハロー」とともに演奏が始まり、テンションは少しずつ上がっていく。感性を切り刻むサイケデリアは聴衆を狂気の淵へ誘(いざな)い、「キリング・ムーン」は官能の水辺に浸らせた。

 イアンが両手のひらを上に向け、スローモーションで指を前に曲げたのを合図に、椅子席固定の会場で後方から人が押し寄せてきた。大惨事に繋がりかねない状況をつくり出した当人は、ステージで薄ら笑いを浮かべている。「この男は第二のデヴィッド・ボウイだ」と確信したのだが……。

 例えば三島由紀夫の「午後の曳航」、ゴダールの「勝手にしやがれ」、ランボーの詩集……。ライブの後、同行した友人たちと、エコバニがもたらした新鮮な衝撃を、若くして達成された他分野の偉業と比べて語り合う。<悪魔憑きもしくは神が宿っている>が、議論のシュールな着地点だった。

 キュアー、ニュー・オーダーとは相互不可侵条約を結んでいたようだが、〝暴言王〟イアンは同世代のバンドたちをメディアでクソミソにこき下ろした。まさに〝アンタッチャブル〟で、輝かしい未来が約束されていたはずのエコバニだが、「イカロス失墜」をなぞるかのように急降下した。

 U2のように成功への執着に欠けていた、キュアーのロバート・スミスのように絶対的な才能がなかった、ミューズのように努力しなかった……。急降下のもっともらしい理由を挙げるのは簡単だが、真実は別のところにあるような気がする。彼らは音霊から見放され、天使でも悪魔でもない生身の人間になってしまったのだ。

 最後に、朝日杯について。先行有利の中山1600㍍ゆえ12番枠にはガッカリしたが、POG指名馬エイシンアポロンを応援する。同馬のプラスポイントは、アクシデントや作戦失敗など悪いことを経験している点だ。来年に繋がるレースを期待したい。
コメント (6)
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